高級 ブランド 値上げの隙を突く? 手の届くラグジュアリーで中流層をつかむ

記事のポイント
カプリはヴェルサーチェ売却後、マイケル・コースとジミーチュウの2ブランド体制へ移行し、アクセシブル・ラグジュアリー市場での成長をめざしている。
マイケル・コースは値引きやオフプライス販売を抑制し、「売上の質」を重視したブランド再建を進めている。
ジミーチュウは1500ドル以下のバッグを拡充して売上を伸ばす一方、利益率低下への対応として収益改善プログラムを推進している。
ラグジュアリー市場全体の価格上昇により、比較的手頃な価格帯に位置するこれら2つの有名ブランドにとって好機が生まれたことが、今回の業績回復のきっかけとなった。
5月27日、カプリは第4四半期の売上高が7億9600万ドル(約1194億円)で、前年同期比3.7%減になったと発表した。2027会計年度については、売上高が低い1桁台の伸びで約35億3000万ドル(約5295億円)になり、営業利益は60%増の約1億9000万ドル(約285億円)になると見込んでいる。
ヴェルサーチェの売却により、カプリは2026会計年度末の純有利子負債を、1年前の約14億ドル(約2100億円)から2億2200万ドル(約333億円)にまで削減できた。同社はまた自社株買いを再開し、第4四半期に7900万ドル(約119億円)分の株式を買い戻したうえ、2027会計年度にはさらに2億ドル(約300億円)分を計画している。
「1年前、我々の優先課題はビジネスを安定させ、成長に向けたより強固な基盤を築くことだった。今日我々は、戦略的取り組みの成功によってもたらされた改善傾向をさらに発展させている」と、カプリの会長兼CEOであるジョン・アイドル氏は決算説明会で述べた。
ただし、同ブランドは戦略に関するコメントの求めには応じなかった。
価格上昇がアクセシブル・ラグジュアリーに商機
Glossyが話を聞いたアナリストたちは、この戦略の背後により広範な市場機会をみている。
「信頼性が高く魅力的な、手の届きやすいブランド(アクセシブル・ラグジュアリー)には、ハイエンドのブランドが大幅に価格を引き上げた市場でチャンスがあると私は考えている」と、金融サービス企業のバーンスタイン(Bernstein)でグローバル・ラグジュアリー・グッズ担当シニアアナリストを務めるルカ・ソルカ氏はGlossyに語った。ソルカ氏は、中間層の消費者がより低い価格帯へと移行している証拠として、ポロ・ラルフローレン(Polo Ralph Lauren)とコーチ(Coach)の成功を挙げた。
この戦略は、消費者の支出が大きく二極化しているタイミングで打ち出されている。金融機関のバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)系のシンクタンクであるバンク・オブ・アメリカ・インスティテュートは、3月10日付の「コンシューマー・チェックポイント」レポートで、高所得世帯と中所得世帯における、支出の伸びの差は依然として「非常に大きい」と指摘した。
一方、2025年11月に公表されたビジネス・オブ・ファッション(BoF)とマッキンゼー(McKinsey)による「ステート・オブ・ファッション2026」レポートでは、ラグジュアリー商品の価格は、2019年から2025年のあいだに平均で61%上昇し、アクセシブル・ラグジュアリーにとっての余地がより大きくなっていることが明らかになった。
マイケル・コースは売上の質を優先
マイケル・コースについて、カプリはまず売上の質の向上に取り組もうとしている。同ブランドの第4四半期の売上高は、前年同期比5.5%減の6億5600万ドル(約984億円)だった。カプリによれば、プロモーションの削減、第三者向け販売、オフプライスへの出荷、店舗の閉鎖により、同ブランドの2026会計年度の売上高は1億5000万ドル(約225億円)以上減少したという。
両ブランドには進展の初期的な兆しがみられる。マイケル・コースの定価販売での既存店売上高は、第4四半期にすべての地域でプラスに転じ、平均販売単価(AUR)は低い2桁台の伸びを示した。売上高はEMEA(欧州・中東・アフリカ)とアジアで成長したが、米州では14%減少した。アウトレットの売上高も引き続き圧力を受けたものの、アウトレットのAURはプラスに転じた。
「真のブランド再建は、プロモーションの削減と、価格を受け入れるのではなく自ら設定する状態に戻れるかどうかにかかっていると私は主張したい。ブランドはより多く売れるようになる前に、よりよく売れるようになる必要がある」と、投資銀行のグッゲンハイム証券(Guggenheim Securities)でマネージングディレクター兼シニアアナリストを務めるシメオン・シーゲル氏はGlossyに語った。
カプリは、新製品、刷新した店舗、より焦点を絞ったマーケティング施策によって、このブランド再建の取り組みを支えている。マイケル・コースの春の「ホテル・ストーリーズ(Hotel Stories)」キャンペーンは、同ブランドの「ジェットセット(Jet Set)」というポジショニングを継続し、2月のランウェイショーは同社によると43億のインプレッションを生み出した。
カプリは2025年2月にマイケル・コースのジェットセットというポジショニングを復活させ、目的地主導のホテルストーリーキャンペーンと最新のアクセサリーを通じて、旅と華やかさという同ブランドの伝統を再構築した。
そして同ブランドには経営幹部の交代もある。
コーリー・モラン氏は4月、Googleからマイケル・コースにCMOとして加わった。同氏はGoogleでは直近、ファッションおよびラグジュアリー部門のヘッド・オブ・インダストリーを務めていた。それ以前には、化粧品大手のコティ(Coty)で、マークジェイコブス(Marc Jacobs)、クロエ(Chloé)、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)、ミュウミュウ(Miu Miu)、バレンシアガ(Balenciaga)といったラグジュアリー・フレグランスのブランド全般でシニアマーケティング職を歴任した。
ジミーチュウは1500ドル以下で需要開拓
一方、ジミーチュウは、より強い売上の地位からアクセシブル・ラグジュアリーのチャンスに臨んでいる。第4四半期の売上高は前年同期比5.3%増の1億4000万ドル(約210億円)となり、同ブランドはフォーマルシューズ以外の製品ラインアップも拡大し続けている。
そこには、JCのモノグラムをあしらったバー型の留め具を特徴とする昼から夜まで使えるバッグデザインの「バー(Bar)」シリーズや、トップハンドル、クロスボディ、クラッチの各スタイルを含む「カーブ(Curve)」シリーズが含まれる。
ジミーチュウの米国サイトでは現在、バーのバッグは795ドル〜1495ドル(約11万9250円〜約22万4250円)、カーブのスタイルは575ドル〜2195ドル(約8万6250円〜約32万9250円)の価格帯で、装飾を施した1500ドル(約22万5000円)以上のバージョンも含まれる。
「1500ドル(約22万5000円)以下の価格帯のバッグも含むように価格体系を拡大するという当社の戦略が功を奏し、バーとカーブのグループに対する消費者の反応は非常に好調だ」と、アイドル氏は説明会で述べた。
ラグジュアリー価格の上昇によって、より多くの中間層の買い物客が手頃な価格帯の代替品を求めるようになるなか、ジミーチュウが低価格帯のハンドバッグ事業を拡大しているのは絶好のタイミングだと、ソルカ氏は述べた。
「この(ラグジュアリー商品の価格設定の)状況において、ジミーチュウは賢く動いていると私は考えており、同ブランドの好調ぶりについてはマルチブランドの小売業者から非常にポジティブなフィードバックを得ている」と、ソルカ氏は語った。
売上成長の裏で利益率改善が課題に
しかし、ジミーチュウの成長は利益率の問題を生んでいる。同ブランドの第4四半期の営業損失は、1年前の1000万ドル(約15億円)から2000万ドル(約30億円)に拡大し、粗利益率は65.7%へと低下した。これは部分的には、より幅広い価格構成に伴う当初の値入れ率の低下によるものだ。
カプリは、ジミーチュウが2027会計年度に低い1桁台の営業黒字に戻ると見込んでいる。同社は、不採算店舗の閉鎖、SKU数の削減、工場での効率改善、販売管理費(SG&A)の引き下げなどを含み得る利益改善プログラムを策定している。
「我々は、その事業の収益性について取り組むべき課題があることを認識している」と、アイドル氏は述べた。
このプログラムは、ジミーチュウが3月にアンディ・ホームズ氏をシニア・バイス・プレジデント兼CFO兼オペレーション責任者に任命したことを受けたものだ。
ホームズ氏は、リシュモン(Richemont)傘下のダンヒル(Dunhill)から加わった。同氏はダンヒルで直近、最高執行責任者兼最高財務責任者、そして暫定CEOを務めており、それ以前にはバーバリー(Burberry)やマークス・アンド・スペンサー(Marks&Spencer)で財務職を歴任していた。
一方マイケル・コースでは、モラン氏が、再び高まったエンゲージメントをより広範な売上の回復へと転換する任務を担う。
これらのアナリストによれば、ヴェルサーチェが去ったことで、カプリの再建のシナリオはより明確になったが、その範囲はより狭まった。
マイケル・コースは、プロモーションの削減によって持続的な需要を取り戻せることを示さなければならず、ジミーチュウは、よりアクセシブルな製品展開が売上だけでなく利益もけん引できることを証明しなければならない。
[原文:Luxury Briefing: With Versace sold, Capri is betting on new consumer demand for accessible luxury]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
