高市首相の悲願だった“和製CIA”「国家情報局」設置、欧米の監視体制と乖離した「ブレーキ後回し」の危うさ

国家情報会議創設法が参院本会議で可決、成立し、記者団の取材に応じる高市早苗首相(2026年5月27日、写真:共同通信社)
5月27日の参院本会議で、政府内に「国家情報会議」を設置し、その事務局として「国家情報局」を置く法案が可決・成立した。これにより、日本のインテリジェンス(情報収集・分析)機能、専門用語でいう「諜報活動」は、新たなステージに入ることになる。
「情報部門の強化」は、高市早苗首相の悲願だ。自らが編著者となった書籍『国力研究』(2024年発行、産経新聞出版)でも、2022年に閣議決定された「国家安全保障戦略」で掲げた総合的な国力の主な要素を改めて強調。「外交力」「防衛力」「経済力」「技術力」とともに、「情報力」を列挙している。
政策のNSSと情報の国家情報局、その役割の違い
新設される国家情報局のポイントは、既存の「内閣情報調査室(内調)」を格上げし、新たに強力な「総合調整権」が付与される点にある。
内調の場合、警察や防衛省、外務省、公安調査庁など各情報関連省庁と同格であり、これら省庁からの情報収集は「お願いレベル」にとどまっていた。情報がどこまで提供されるかは、各省庁の判断に左右されていた面がある。
情報機関にとって、情報の収集活動も重要だが、これだけでは単なるデータに過ぎない。肝心なのは、データの断片をつなぎ合わせ、分析して情報の精度を上げることである。ただ、日本では情報関連省庁が半ばバラバラに官邸に情報を上げていたのが実情で、内調が情報を一元的に取りまとめて分析するという法的根拠が弱かった。
だが、総合調整権は、情報関連省庁に対し、情報の提供や収集を強く指示できる権能である。結果的に、国家情報局は各省庁よりも格上の存在となり、情報収集・分析の「司令塔」となる。
並行して「国家情報会議」も新設される。議長を務める首相と官房長官に加え、外務、国家公安、防衛、国交、金融担当など8閣僚が出席し、安全保障やテロ、スパイ、外国による影響工作などへの対処に関する調査審議を行う。
国家情報局は、国家情報会議の事務局的存在である。同会議での審議に必要な情報を収集・分析し、その結果を上程する役割を担う。
なお、類似の組織として「国家安全保障局(NSS)」が存在するが、こちらは外交・防衛・安全保障政策の基本方針に関する企画立案・総合調整を担う組織である。国家安全保障会議(NSC)の“事務局”であり、国家情報局から情報や分析結果の提供を受ける。
国家安全保障局は「政策部門」、国家情報局は「情報部門」と考えれば分かりやすい。両者は法的には同格の別組織であり、国家情報局が恣意的な分析や情報提供をしないよう、両者の役割分担は政策判断と情報分析を分けるという意味で重要だが、それだけで国家情報局への十分な外部監視が担保されるわけではない。

表:共同通信社
ただ、やや「法案成立ありき」で、前のめり感が拭えないのも事実だ。
衆院本会議では、立憲民主党が、国家情報局の活動を監督する独立機関の早期設置を盛り込んだ修正案を提出したが、否決された。これに対し、新聞各社は、国家情報局の「見切り発車」と、不十分なチェック体制に懸念を示している。
朝日新聞は「情報局法、残る不安、国会報告・チェック体制『不十分』」(5月28日付のウェブ版社説)と指摘。毎日新聞も「政府の国家情報局設置 監視強化への道開かぬか」(5月29日付ウェブ版社説)と論じている。
米CIA、英MI6、独BND…欧米のスパイ機関
ところで、欧米では情報機関に対する監視体制はどうなっているのか。代表的なアメリカ、イギリス、ドイツの実情を見てみよう。
アメリカの場合、情報機関の数が他国に比べて極端に多い。国家情報長官が統括する組織、すなわち「インテリジェンス・コミュニティ(情報機関群)」だけでも17に及ぶ。その中でも中心的な存在が、次の機関である。
・CIA(中央情報局):対外情報、スパイ活動
・NSA(国家安全保障局):通信・ネット傍受、サイバーセキュリティ
・FBI(連邦捜査局):防諜、テロ対策
・DIA(国防情報局):軍事情報収集・分析
イギリスでは、次の3組織が中心となる。
・SIS(秘密情報部):別名MI6。映画『007』シリーズでジェームズ・ボンドが所属。対外情報やスパイ活動
・セキュリティ・サービス(Security Service):別名MI5。防諜、テロ対策
・GCHQ(政府通信本部):通信・電子情報収集
ドイツは、主に次の3組織で構成される。
・連邦情報局(BND):対外情報
・連邦憲法擁護庁(BfV):国内過激派の監視、防諜
・軍事防諜機関(MAD):軍内のスパイ活動摘発
民主主義先進国である欧米では、二重、三重のチェック体制によって、情報機関の暴走にブレーキをかけている。こうした監視・統制の試みを「オーバーサイト」と呼ぶ。
三権分立と「監察総監」がにらみを利かせるアメリカ
アメリカのオーバーサイトの基本となるのは、民主主義の要である三権分立、すなわち「立法(議会)」「行政(政府)」「司法(裁判所)」の役割分担である。
まず、行政府による監督として、大統領がチェック機能を果たす。大統領は外交・国家安全保障政策に関する最高意思決定機関の1つである国家安全保障会議(NSC)の議長であり、NSCの指示・監視を通じて、各情報機関ににらみを利かせる。
立法府の監視機構としては、連邦議会の上下両院にそれぞれ常設の「情報特別委員会」が存在する。
情報特別委員会は、各情報機関から機密情報のブリーフィングを受けるほか、予算や関連法案の審査、各情報機関長官の証人喚問、違法行為の調査など、かなり強力な権限を行使できる。
行政内部のチェック機構としては、「監察総監(OIG)」が各情報機関内に設置されている。組織内にありながら独立性が高いのが特徴だ。
監察総監は、不正・違法活動や職権乱用、職務怠慢、税金の無駄遣いなどに目を光らせ、議会や各情報機関長官に報告・勧告を行う。
このほか、アメリカでは、司法省や裁判所による監督、情報機関同士の相互監視、各情報機関の上位組織に当たる「米国家情報長官室」による統制、さらにはメディアによるチェック、FOIA(情報公開法)に基づく情報公開請求なども重要視されている。
元高等法院判事が通信傍受を事前審査するイギリス「IPCO」
イギリスで司法府による監視機能として強い権限を持つのが、「調査権限コミッショナー事務局(IPCO)」である。同国の情報機関への監視体制の屋台骨ともいえる存在だ。
IPCOは、首相が任命する調査権限コミッショナーの指揮による独立組織で、主に元高等法院判事からなる。
情報機関や警察などが、プライバシーを侵害する恐れのある重要度の高い盗聴・傍受を行う時は、まず担当大臣(外務や内務)が可否を判断し、次に調査権限コミッショナーがチェックする「ダブル・ロック(二重審査)」で万全を期す。
立法府、すなわち議会からは、「情報・安全保障委員会(ISC)」が監視を行う。超党派の組織で、情報機関の活動状況、予算・財務、行政運営などをチェックする。
ISCは上下両院議員からなり、首相に対して直接報告する権利や、機密情報へのアクセス権も持つ。
行政府は、各情報機関の担当大臣を通じて統制する。MI6とGCHQは外務大臣が、MI5は内務大臣がそれぞれ担当する。
また、ユニークな存在として「捜査権限審判所(IPT)」と呼ばれる独立司法機関がある。これは、情報機関の違法行為や人権侵害に対する市民の苦情を審査する特別法廷である。
ドイツ政府から独立した「独立監督評議会」による国外監視
ドイツでは、主に次の機関が監視を担う。
・議会統制委員会(PKGr)
・基本法10条審査会
・独立監督評議会(UKRat)
立法府による監視役であるPKGrのメンバーは、全員が連邦議会議員である。連邦政府に対し、情報機関の活動報告を請求する権利を持つ。
安全保障上の機密についても、厳しい守秘義務が課された上でアクセス可能であり、かなり強力なチェック機能を誇る。
基本法10条審査会は、ドイツ連邦共和国基本法第10条1項が保障する「信書・郵便・電信電話の秘密」を順守させることを任務とする。
ただ第10条2項では「(1項に掲げる権利に対する)制限は、法律の根拠に基づいてのみ、これを命ずることが許される」と規定する。このため情報機関の通信傍受・盗聴は違法ではないが、自由で民主的な基本秩序や、安全保障に役立つものであることに限定され、傍受・盗聴活動を行う場合、同審査会の事前審査が必須となる。
違法か適法かを見定める準裁判所的な性格を持つ組織である。政府や情報機関から独立し、いかなる指揮命令も受けないという自負を持つ。
UKRatは、司法的観点からBNDの対外情報活動をチェックする。特に外国人に対する国外通信への情報活動を監視対象とする。
UKRatは政府から完全に独立した機関であり、外国人であっても基本的人権を尊重すべきだというドイツの憲法理念に忠実な組織として、2022年1月から活動を開始。裁判官経験者を中心に組織され、BNDの国外通信監視の中でも、特に重要と認定した案件については、UKRatの承認が必要となる。
UKRatはBNDに対し、内部文書や傍受記録などの情報提出を請求する権利を持ち、BNDはこれを原則として拒否できない。BND施設への立ち入り調査や、職員への聴取を行う権利も持つ。
法令違反などがあった場合には、是正命令を出すこともできる。監督結果は連邦議会に報告される。
他の欧米諸国と比べても、ドイツは憲法との整合性に極めて厳格である。そこには、歴史的な反省も深く関わっている。
第2次大戦時のナチス・ドイツのゲシュタポ(秘密国家警察)と、東ドイツ時代の秘密警察「シュタージ(国家保安省)」という国民弾圧の“暴力装置”を2度も経験した教訓が、現在の厳格な監視体制に色濃く反映されている。
ケネディ大統領の足をすくったピッグス湾事件の衝撃
情報機関には、秘密性と強い権限ゆえに、民主的統制を外れた活動に陥るリスクがある。事実、民主主義先進国である欧米でさえ、情報機関が国民の権利や政府の判断を揺るがす事例は起きている。
アメリカでは、1961年の「キューバ・ピッグス湾事件」で表面化したCIAの稚拙な作戦のごり押しが、当時のケネディ大統領に大きなダメージを与えた。
1959年、キューバで革命が起き、共産政権が誕生した。米本土の目と鼻の先に出現した反米・親ソ連国家に、ケネディ政権は憂慮を深めたが、より強い危機感を抱いていたのが、「アメリカの影の帝王」とも評されたアレン・ダレスCIA長官だった。

アレン・ダレス元CIA長官(写真:共同通信社)
ダレスは1950年代から1960年代初めにCIA長官を務め、第2次大戦後の冷戦下で、自由主義陣営の盟主であるアメリカの外交・安全保障戦略を事実上仕切った人物である。同時期に国務長官だった実兄のジョン・フォスター・ダレスと二人三脚で、当時のアメリカの反共戦略を操った。
ダレスは、武装した亡命キューバ人をキューバのピッグス湾に上陸させ、革命政権の転覆を試みた。しかし作戦は失敗する。
ケネディは激怒し、ダレスをCIA長官から解任したが、米ソ対立は一層激しさを増し、1年後のキューバ危機へと発展していく。ただし、ダレスはその後も米政権内で隠然たる影響力を保ち、ベトナム戦争への本格介入などを推進したとも言われる。
強大な権力を握った情報機関を、政府や国民が制御することの難しさを示す実例でもある。

キューバのフィデル・カストロ政権を転覆させるために米国政府が画策したピッグス湾侵攻(1961年4月14日〜19日)。写真はモスクワの米国大使館前で行われた抗議集会(Sputnik/共同通信イメージズ)
ニクソン大統領を失脚に追い込んだウォーターゲートの教訓
1972年の「ウォーターゲート事件」は、国家に忠実であるべき情報機関を、国のトップが党利党略のために使う危険性を示している。
当時のニクソン大統領(共和党)は大統領選挙期間中、政敵である民主党の全国委員会本部に侵入し、盗聴器の設置を試みるが、発覚して失敗。ニクソン再選委員会に関係する人物らが逮捕された。侵入犯の中には、元CIA職員やCIAとの関係を持つ人物が含まれ、政権側が捜査妨害を図ったことも後に明らかになった。
事件は米ワシントン・ポスト紙によってすっぱ抜かれ、大問題となった。1974年、ニクソンは辞任に追い込まれ、米国史上初めて任期途中で辞任した大統領となった。

ニクソン元大統領(写真:CNP/DPA/共同通信イメージズ)
2013年には、CIAの元職員で、NSA(国家安全保障局)の契約職員として通信・ネットの傍受、すなわち「SIGINT(シギント:通信・信号情報)」に関わっていたエドワード・スノーデンが、NSAによる情報収集活動の実態をメディアに暴露した。
暴露されたのは、インターネット上の対外情報収集プログラム「PRISM(プリズム)」の存在や、電話記録、すなわち「いつ、誰が、誰と、何分間通話したか」を示す電話メタデータの大量収集である。
後者は、愛国者法215条に基づくNSAのプログラムとして運用されていたが、その大規模な逸脱行為が明らかになった。事件発覚後、スノーデンはロシアに亡命している。

エドワード・スノーデン(写真:ゲッティ=共同通信社)
PRISMに関しては、裁判所(外国情報監視裁判所)の令状を取り、ネット企業に対象者(外国人のテロ容疑者)の情報提供を求めており、一概に違法とは言えないが、限度を超えて大勢のアメリカ人の通信記録までも収集していた事実が露呈し、批判を浴びた。
むしろ電話メタデータの大量収集の方が大問題で、特定の対象者だけでなく、電話会社の全利用者の通話記録をごっそり収集。愛国者法215条を逸脱する行為は、政府による国民への監視行為ではないかと疑われた。
スノーデン事件では、NSAによる当時のメルケル独首相の携帯盗聴疑惑も持ち上がり、後述する米独情報機関の違法な協力疑惑へと広がりを見せている。

2013年10月、携帯盗聴疑惑について記者会見するドイツのメルケル首相(当時/写真:ロイター=共同通信社)
2020年には、米連邦控訴裁判所が、NSAによる一部の監視活動について「外国情報監視法(FISA)」違反であり、憲法違反の可能性があるとの判断を示している。
同盟国フランスの大統領府を盗聴していたドイツBND
歴史的に情報機関のチェックに厳しいドイツでも、情報機関の逸脱行為は発覚している。
2015年に地元紙が報じた「BND-NSA協力疑惑問題」では、2000年代に入った頃から、BNDが米NSAに協力する形で、同盟国であるフランスの大統領府や外務省、EU(欧州連合)などの携帯電話・ネットを傍受していた事実が明らかになった。
ドイツ政府は、BNDの行為が米独間の協力協定の範囲を超えるものだとして不満を表明した。「自国首相のプライバシーを外国の情報機関に手渡す行為自体が裏切りだ」との批判も出た。
さらに、隣国であり盟友でもあるフランスとの関係もぎくしゃくするなど、禍根を残した。
情報のギブ・アンド・テイク、日本に求められる覚悟
今年(2026年)7月に正式に旗揚げする日本の国家情報局。今後、外国での情報収集を担う「対外情報局」(仮称)の設立も計画されている模様で、「いよいよ“和製CIA”の登場か」との下馬評もある。
国際情勢が流動化し、西側の盟主であるアメリカの同盟国に対する“心変わり”も懸念される中、情報力の強化は日本の安全保障戦略にとっても不可欠だろう。特に資源のない国家である日本にとって、「インテリジェンス」によって他国に対するアドバンテージを取ることは極めて重要である。
インテリジェンスの世界では、「ギブ・アンド・テイク」が鉄則だ。自ら提供できる情報を持たない国には、質の高い情報は集まりにくい。
だからこそ「強力な情報機関」の設立と「厳格な監視体制」の構築は、車の両輪でなければならない。秘密のベールに包まれた組織は、外部のチェックが機能しなければ、いつしか情報の評価そのものを、政権の都合に合わせてゆがめ始めるだろう。
それはかつて、米CIAが犯したピッグス湾事件のように、誤った情報分析によって国家指導者の判断を狂わせ、結果として外交の選択肢を狭めるという、最悪のブーメラン(自縄自縛)となって政権に返ってくる。
情報強化のスピードを優先する余り、ブレーキ役の設置を「後回し」にすることは、安全なインテリジェンス国家への道ではなく、制御不能な組織を身内に抱え込むリスクそのものである。
高市首相は「政府の政策に反対するデモ活動が、情報活動の監視対象になることは、想像し難い」「特定の党派を利する目的で、情報収集や情報の集約を命じることも決してない」と断言するが、現状では“口約束”に過ぎず、将来の権力者が厳守するとは限らない。
この歴史の鉄則を、新局の旗揚げを前にいま一度肝に銘じるべきだろう。
筆者:深川 孝行
