事件・事故で亡くなった死体や、死因が分からない「異状死体」を解剖し、身元確認や死因の究明を行う「法解剖医」。その現場では壮絶な死体と相対することも、珍しくないという。

【写真】口の中に虫がびっしり…解剖医が振り返る、実際にあった衝撃のエピソード

 解剖の最前線で働く飯野守男氏による新著『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)から一部抜粋し、実際に飯野氏が目にしてきた異状死体の数々を振り返る。


画像はイメージ ©Paylessimages/イメージマート

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まるでミイラ……解剖医が実際に目にした「壮絶な死体」

 異状死体には、さまざまなバリエーションがあります。この本を読んでいるあなた自身も、もしかしたら偶然が重なれば、日本でミイラ死体となって発見される可能性もゼロではありません。

 実際、私も過去に複数のミイラ化された死体を解剖しました。高温多湿な日本の気候はミイラ化には不向きですが、過去にはこんなケースもありました。

 アパートの自室で死亡していた中年男性は、布団の上で腐敗がいちじるしく進行した「高度腐敗」の状態となって発見されました。1人暮らしのワンルームは施錠されており、外傷もないため事件とは考えにくい状況です。

 体の大部分はすでに組織の腐敗が進んでおり、骨が飛び出て、四肢の末端はカラカラに乾燥してミイラ化していました。死亡した時期が冬だったため、室内で乾燥だけが進んだものと考えられます。解剖すべき肉体の痕跡がほぼ失われた状態ではありましたが、死因不明の「病死の疑い」と判断しました。

 では、この男性が冬ではなく夏に死亡していたら、どのような姿になっていたと思われますか?

 気温が上昇する真夏では急速に腐敗が進みます。発見が遅れた場合は腐敗ガスで体が大きく膨らみ、液体が浸み出した末に、やはり高度腐敗死体となっていた可能性が高いでしょう。

 密室であればまだしも、もし「夏の夜に窓も網戸も開けて寝ていた」状態で死亡したら、あっという間に腐敗が進み、それと同時にハエが大量に集まって卵を産み付け、ウジ虫が肉や内臓を食べ尽くし、短期間で白骨死体となることもあります。

「夏の夜に網戸を開けて寝ていた」、それに近い状況で死亡した男性が、わずか2週間で完全に白骨化して発見されたケースもありました。死体に集まる虫には、いくつかの種類がありますが、代表的な虫といえばやはりウジ虫(ハエの幼虫)でしょう。

「口の中に大量のウジ」解剖室が真っ黒になるほど大量発生したことも……

 過去に解剖した夏場の腐敗死体は、口の中をのぞき込むと大量のウジがわいていました。死体の臭気を嗅ぎつけたハエは死体に卵を産みつけ、そこで孵化(ふか)したたくさんのウジ虫が死体を食べて大きくなっていたのです。口や鼻から脳に入り込むウジもいれば、さらに口から気管、そして胸の中に入り、内臓が全部食べられてしまうこともめずらしくありません。

 軟部組織と総称されるやわらかい部分(骨、歯や血管や臓器をのぞく筋肉や結合組織)は、死体に集まる虫にとってはすべてごちそうです。その後、死体を栄養分にして育ったウジは蛹(さなぎ)を経て立派なハエとなって飛び立ち、死体に次の卵を産みつけます。ただし、白骨化してしまったら栄養分がありませんから、白骨死体にウジはわきません。

 ちなみに、私たち法医解剖医は「死体」という決して動かないものを常時対象にしているせいか、死体の中にウジのように「動くもの」に遭遇すると、一瞬ギョッとして動揺してしまいます(笑)。

 腐敗死体の解剖時に、解剖室で起こり得る最悪なパターンは、まだ生きていたウジが死体から脱走して、解剖室のあちこちで蛹になり羽化してしまうことです。衛生管理が雑だった某大学の古い解剖室では、死体についていた大量のウジが逃げ出し、2週間後に解剖室の窓が羽化したハエでぶわーっと真っ黒に覆われて恐ろしい光景になった、という話も聞いたことがあります。

虫をきっかけに、死体が発見されることも

 虫と死体の関係性は意外と侮れません。

「となりの家の窓ガラスに、ハエがびっしりついている」 という隣人の通報がきっかけで、死体が発見されたケースもありました。

 古いアパートの1階の若い住人が「床に見たことのない白い虫がいて、捨てても捨てても出てくるので、よく見たら天井の隙間からぽたぽたと落ちてきていた」という苦情を訴えたことから、上の階の住人が死体で発見された事例もあります。天井裏に大量のウジが発生していたのです。

 一方で、死体につく虫を専門とする「法昆虫学」という学問も存在しています。死体につく虫の多くはハエです。卵から生まれたウジがどれくらいの日数でハエになるか、そのときの温度や湿度の条件まで、ハエの研究者のもつ専門知識を応用して、死体についたハエの状態から死後どれくらいの日数が経っていたかを割り出していく。これが法昆虫学です。

「死因はフライドポテトの食べ過ぎ」…いったいなぜ? 中学生男子を襲った衝撃的すぎる事件の全貌〉へ続く

(飯野 守男/Webオリジナル(外部転載))