強弱両方のシグナルを発するマンション市況(shigemi okano/ shutterstock.com)

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 2026年3月に発表された地価公示は、堅調な不動産市場を示す結果となった。東京、大阪、名古屋の三大都市圏の地価は、5年連続で上昇し上昇幅を拡大。東京圏の全用途平均の伸びは、対前年比5.7%上昇と過去5年間で最も高い伸びを示した。東京では、高輪ゲートウェイ駅周辺の大規模再開発「TAKANAWA GATEWAY CITY」がグランドオープンするなど、都市再生の動きも活発化している。今回は、2026年地価公示から見えてくるマンション市場の動向について考察したい。(不動産コンサルタント・岡本郁雄)

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東京23区の地価上昇が加速している

 首都圏の地価上昇の波が止まらない。中でも東京23区の伸びが顕著で、住宅地の地価の伸びは、対前年比9.0%上昇。商業地は、対前年比13.8%の上昇。ともに前年の上昇率を上回っている。住宅地で最も伸び率が高いのが港区の16.6%、最も低いのが葛飾区の5.6%と下町エリアでも高い上昇率を示しており、上昇率が10%を超えているのは14区にも及ぶ。商業地の伸びは、さらに大きく台東区の19.1%を筆頭に、18区が10%を超える伸びで、最も低い足立区でも8.5%の上昇となっている。3%を超える物価上昇が4年も続き、インフレ懸念が高まる中で、富裕層が「資産防衛」のために不動産を買う動きもあるようだ。

強弱両方のシグナルを発するマンション市況(shigemi okano/ shutterstock.com)

 不動産価格の上昇に大きく寄与しているのが、堅調なオフィス需要とインバウンド需要だ。三菱地所リアルエステートサービスがまとめた、2026年3月末の「東京オフィスマーケット動向」によれば、主要5区の潜在空室率は、2.29%と低水準を維持。平均募集賃料は、坪当たり3万5405円で、前月比で1280円上昇している。中でも、八重洲・京橋・日本橋エリアは、大型の新規募集があり平均募集賃料が坪当たり4万7189円と前月比で6288円上昇している。

 移転の実施・検討理由として同社の調査で上位に挙げられているのが、「オフィス環境の改善」(17.7%)と「人員増・事業拡大」(15.4%)。「集約・統合」(12.3%)に続き「ブランド・リクルーティング強化」(11.5%)も増加している。

 堅調な企業業績と人材確保競争の激化もあり、ブランディングにつながるような好立地で魅力的なオフィスに注目が集まっている。昨年開業した『BLUE FRONT SHIBAURA』は、28階に約1500坪もの広さがある共用部を用意。ラウンジやテラス、会議室のほかウェルネスエリアには、サウナ室や岩盤浴、メディテーションルームなども用意されている。こうした共用空間を設ける動きは、「TOFROM YAESU(トフロム八重洲)」など他の新設オフィスビルにも見られる。

 インバウンド需要も堅調だ。2025年の年間訪日外客数は4268万3600人で、前年比では15.8%増・実数にして580万人上回り過去最高を更新。直近の2026年3月も361万8900人で3月の数字として過去最高を更新した。関係悪化で中国からの訪日客が前年同月比55.9%減、緊迫する中東情勢で中東からの訪日客が30.6%減る中での結果で、旅行先としての日本の支持が広がっていることが分かる。こうした外国人旅行客の需要を獲得すべくホテルの開業が相次いでいる。

「BLUE FRONT SHIBAURA TOWERS」内には、フェアモント東京が開業。三井不動産が参加組員として推進している「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」では、ヒルトンの最上級ラグジュアリーブランド「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」が開業予定。浜松町駅で進行中の世界貿易センタービルディング建替えプロジェクトでは、アコーホテルズの最高級ラグジュアリーブランド「ラッフルズ」が日本初進出。「ラッフルズ東京」として2028年に開業を予定している。

 そのほかにも長期滞在型のアパートメントホテルの供給も活発で、その利用者の多くが外国人旅行客だ。コロナ禍前は、1ドル110円前後で推移していた為替レートが150円台後半まで下落しているのだから注目されるのも当然だろう。

一部の東京湾岸エリアでは中古マンションの売れ行きが鈍化

 インバウンド需要の影響が強く出ているのが、外国人に人気の観光地「浅草」を有する台東区。2026年地価公示では、東京圏の商業地上昇率トップ10に、6地点がランクイン。浅草のみならず、上野・御徒町など着工している建物の用途の多くがホテルとなっている。かつては、交通利便性の高さからマンション立地としても人気が高かったがホテル用地との競合で、分譲価格を上げざるを得ない状況だ。渋谷区などの商業地も同様で、ホテル立地として魅力的な場所でのマンション供給は、これからも減少していくだろう。

 実際に、2025度の首都圏新築マンション供給戸数は、2.6%減少の2万1659戸となっており1973年以降で過去最低を更新した。また、平均価格が9383万円、平米単価が141.9万円と、いずれも最高値となっている。地価上昇に加え、原材料価格や人件費の高騰で、建築費も上昇を続けている。新築マンション価格の上昇は、当然の動きともいえるだろう。

 留意したいのは、地価上昇のスピードが速まっていること。東京圏の商業地の地価上昇率(%)は、2022年から順に+0.7、+3.0、+5.6、+8.2、+9.3で推移している。マンション用地の仕入れから販売開始までに一定の時間差があることを考慮すると、数年先には分譲価格がもう一段階、上がる可能性すらある。

 東日本レインズの新築戸建住宅レポートによれば、東京都の2026年3月度の新規登録物件の平均価格は、前年同月比5.7%上昇の6516万円。マンションに比べて新築戸建ては、用地取得から分譲までのサイクルが短く、地価動向の影響が反映されやすい。新築マンションの価格上昇で、新築戸建てに目を向ける人も増えており売れ行きも堅調だ。新築マンション価格は向こう数年間、上昇する可能性が高いと見ていいだろう。

 新築マンション価格の上昇で、首都圏中古マンション価格は、上昇を続けているが地域差がある点には注意が必要だ。東日本レインズによれば、2025年の首都圏中古マンションの成約価格は、対前年比6.3%上昇の5200万円となっているものの東京23区のみが11.2%の上昇で、ほかの地域はすべてマイナスだ。駅近の大規模マンションなど上昇傾向のマンションがある一方で、築年数の古い物件など下落しているマンションも多い。平均で見ると価格上昇は続いているが、マンションの選別化が進んでいる点は留意したい。

 土地価格の上昇や建築コストの高止まり、マンション適地の不足などの供給制約もあり供給が需要を大きく上回る状況は考えにくい。いっぽうで、インフレによる家計の圧迫や金利上昇による返済リスクの高まりなどでマンションの購入マインドが低下する可能性もある。

 実際に、一部の東京湾岸エリアでは中古マンションの販売在庫が積みあがっており、売れ行きが鈍化しているケースも見られる。住宅ローン金利の上昇もあってグロス価格を意識して購入を考える人も増えているようだ。日本国債の10年物金利が2%を大きく上回り、20年物金利が3%を超える状況では、借入額を抑えるのは当然のことだろう。

数年先より20年先を見据えて購入を検討しよう

 緊迫化する中東情勢や終わりの見えないロシアのウクライナ侵攻、AIがもたらす生活や仕事、社会への影響など先行きを見通すことは困難だ。しかし、長寿社会が到来した今、住まいの重要性はますます高まっている。令和7年高齢者白書によれば、2023年の75歳以上の持ち家比率は8割を超える。短期的な相場の動向よりも長期的な視点で、マイホームを選ぶことが重要だ。

 この20年間でも、リーマンショックや東日本大震災、熊本大地震、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻など不動産市場を揺るがす大きな出来事があった。円高になるのか、円安になるのか。金利水準は、10年後どうなっているのか。こうしたことは、国内事情や外部環境に左右され、自身ではコントロールできない。資産価値に囚われすぎず、家族が満足できるような住まいをしっかりした資金計画で購入することが重要だ。

 地価動向や建築費の上昇を踏まえると、需給バランスが崩れていない地域のマンションの価格は、当面は下がりそうにない。まずは、どんな暮らしがしたいかをイメージし、早めの行動をおすすめしたい。

岡本郁雄(おかもと・いくお)
不動産コンサルタント及びFPとして、講演、執筆など幅広く活躍中。TV・雑誌など様々なメディアに出演、WEBメディア「街とマンションのトレンド情報局」も運営している。30年以上、不動産領域の仕事に関わり首都圏中心に延べ3000件以上のマンション・戸建てを見学するなど不動産市場に詳しい。岡山県倉敷市生まれ、神戸大学工学部卒。

デイリー新潮編集部