JAXA油井亀美也宇宙飛行士インタビュー ISS長期滞在で感じた「地球の尊さ」と民間利用の可能性
NASA(アメリカ航空宇宙局)の「Crew-11」ミッションで2回目のISS(国際宇宙ステーション)長期滞在を行った、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の油井亀美也宇宙飛行士。今回のミッションで、宇宙滞在日数は累計300日を超えました。
sorae編集部は2026年4月23日、JAXA東京事務所にて油井宇宙飛行士へのインタビューを実施。長期間のISS滞在で感じた地球の尊さから、日本独自の有人宇宙輸送の未来まで、日本の宇宙開発に対する熱い想いを伺いました。

宇宙で気付いた地球の尊さ 私たち唯一の「家」
sorae編集部(以下、sorae):早速ですが、今回のCrew-11ミッションで一番印象に残った出来事をお聞かせください。
油井亀美也宇宙飛行士(以下、油井):一番印象に残っているのは、やはり新型宇宙ステーション補給機1号機「HTV-X1」のキャプチャ(把持)ですね。初めてのテスト機ということで色々な試験を行いながらの飛行でしたが、計画通りに来てくれて、私も無事に掴むことができました。日本の力を再び世界に見せることができたと思っています。
【更新】新型補給機「HTV-X」がISSに到着 JAXA油井宇宙飛行士がロボットアームでキャプチャ(2025年10月30日)

油井:搭載されていたフルーツや野菜は、今までなぜ食べなかったのかなと思うくらい本当に美味しかったです。二酸化炭素除去装置のような大きなものも届いて、取り付けに少し苦労しましたが、不具合なくしっかり稼働しています。ミッションは大成功だったと感じています。
sorae:今回で軌道上での滞在日数が累計300日を超えました。宇宙に行く前と、10か月以上を過ごした現在とで、宇宙空間や地球に対する考え方は変わりましたか?
油井:宇宙に出てみると、地球の良さが本当によくわかります。小さいなと思いますし、これが宇宙の中で私たちの唯一の「家」と言えばいいのか。大気の層を見ても環境が非常に脆いことがわかりますし、しっかり守っていかなければという思いが強くなりました。
また、夜の地球を見ると、皆さんが元気に活動している所は明るく見えますが、争いをしている所はやはりそれがわかってしまいます。ISSは国際協力のお手本のような場所です。多くの方に宇宙を見上げていただき、文化や歴史、言葉の違いを乗り越えて協力することの素晴らしさを知ってほしいですね。

ISSでの有人活動を支えるクルーどうしの「思いやり」
sorae:ISSという限られた空間の中で、様々な国の方々と共同生活を送る上で、特に大切だと感じたことは何でしょうか?
油井:一番は「思いやり」ですね。お互いをケアし、助け合うことです。助けを求めることを「能力がないから」と捉えるのではなく、「助け合えば効率的になるし、成功の確率も上がる」という認識をクルー全体で共有していました。
地上との無線を聞いていて、誰かが困っているとわかると、みんなが自分の仕事を一旦置いて集まってくる。これまでのISSの歴史の中でも珍しいくらい助け合うクルーではないかなと思います。
sorae:今までももちろん助け合うことはあったと思うのですが、Crew-11では特に顕著だったと。
油井:とても顕著でした。フィンク飛行士(Crew-11でパイロットを務めたNASAのマイケル・フィンク宇宙飛行士)のように歌を歌ったり絵を描いたりして場を和ませてくれる存在もいて、本当に帰りたくないと思うくらい快適で、素晴らしいチームワークでした。

広がるISSの民間利用 日本の強みは「斬新なアイディア」
sorae:HTV-X1には、研究だけではない民間のペイロード(荷物)も多く積まれていました。10年前と比べて、こういった民間利用は増えていると感じますか?
油井:明らかに増えています。企業がお金を出してISSを利用するという点では、日本はかなり進んでいるのではないでしょうか。小型衛星の放出や、「きぼう」日本実験棟内での写真撮影や、生中継とか、あとは人形が。面白い取り組みがたくさんあって感心しています。
sorae:実はその人形に少なからず関わっていまして、soraeとして「きぼう」有償利用制度を利用させていただいたのが、先日のぬいぐるみの撮影ミッション(※)でした。
※…2026年4月17日に実施した推し宙スペースライブの「きぼう」日本実験棟からの生配信のこと。
油井:そうだったんですね! しっかり船内に仕舞いました、「かわいいぬいぐるみが来たな、どこで使うのかな?」と、クエスチョンマークを出しながら見ていました(笑)。クラウドファンディングでの衛星放出など、こういうものがもっと広がるといいなと思っています。
sorae:こういったISSの民間利用が拡大することで、どんなことに期待していますか?
油井:色々な方々が「宇宙は身近で、自分たちでも使えるんだ」と気付いてくれることが大事だと思います。日本が得意な小型軽量化や信頼性向上は、宇宙では本当に必要な技術です。こうした活動を見て、自社の技術を宇宙で活かせるかもしれないと気付く企業が増えれば、もっと活発になっていくと思います。

sorae:日本の民間ミッションで可能性が高いのは、やはりエンターテインメントの分野でしょうか?
油井:エンターテインメントも実験もそうですが、日本からはありとあらゆる斬新なアイデアが出てくると感じています。
これは、日本が平和で、人々の生活に「ゆとり」があるからだと思うんです。日々の生活にいっぱいいっぱいだと空を見上げる余裕もなくなってしまいますが、少し余裕があるからこそポジティブなエネルギーが生まれ、新しい宇宙の使い道が考えられる。
海外から日本に旅行に来る沢山の方々の中には、アニメやYouTubeを見て来ている方もいるので、そういった「ソフトのエネルギー」で発展していく可能性があるのではないかと思います。
sorae:現場の宇宙飛行士の方々は、こうした日本の民間利用についてどんな反応をしていましたか?
油井:他の国の飛行士たちもみんな本当に興味津々で、「何か手伝いたい!」と言ってくるんです。逆に私が「映っちゃいけないから手伝わないで」と説明しなければなりませんでした(笑)。私自身も、ぬいぐるみの撮影のセッティングをやりたかったですし。

日本独自の有人宇宙輸送手段や次世代への想い
sorae:基幹ロケットの整備やHTV-Xの開発が進む中、日本独自の「有人宇宙輸送能力」を持つことについてはどのようにお考えですか?
油井:私も持つべきだと思っています。前職がテストパイロットだったので、もしも日本がそういうものを作ることがあれば、「その時は私が飛ぶしかないかな」とも思っています。すべての技術をJAXAがしっかり開発し、それを民間の方々に自由に使っていただく。それが理想の形ですね。
sorae:もしも次のミッションの声がかかったら、やはり行きたいですか? 月への思いなどはいかがでしょうか。
油井:行きたい気持ちはもちろんありますが、国全体を考えると若い人の育成が重要だと思っています。月へ行くにしても、安全を確保しながら着実に進める必要がありますから、私を超えるような優秀な飛行士をしっかりと養成して、いつでも対応できるような日本の宇宙開発の現場にしていきたいです。
sorae:日本の宇宙飛行士の層をさらに厚くしていくべきだということですね。
油井:そう思います。機会は限られていますが、そこを有効に活用し、計画的かつ戦略的に日本の宇宙飛行士の枠組みを使っていってほしいですね。

1970年長野県生まれ。航空自衛隊のテストパイロットを経て、2009年にJAXA宇宙飛行士候補者に選抜。2015年7月〜12月に長期滞在クルーとして約142日間ISSに滞在。今回のCrew-11ミッションでは2025年8月〜2026年1月にかけて2度目のISS長期滞在を行い、宇宙滞在日数は累計308日となった。
文・編集/sorae編集部
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