記事のポイント
香りの持続性需要が高まり、高濃度香水やプライマーなど新レイヤリング製品が台頭し、米国で43%成長するカテゴリーも出ている。
大手のエスティ ローダーから独立系ブランドまで、トップ・ミドル・ベースノートを長時間維持する技術や皮膚環境を整えるプライマー開発が活発化している。
若年市場の「即効性嗜好」によりトップノート偏重が進む一方、香りが喚起する感情や記憶の持続こそ需要増加の背景にあると専門家は指摘している。


初めて香水を試す新規顧客が必ず尋ねる質問があると、オーモンド ジェイン(Ormonde Jayne)創業者のリンダ・ピルキントン氏は語る。

「25年にわたってブランドを愛用してくれている顧客もいるが、新規のお客さまが来ると必ず最初に『長持ちしますか?』と聞かれる」。

ロンドンのオールド・ボンド・ストリートにある自身のブティックでは、濃度42%まで調香できるカスタマイズサービスを提供している。これは一般的なオードパルファムの香料濃度15〜20%と比べても高く、強い香りを求めるファンに人気の選択肢となっている。

「持続性」が変える香水市場



香りの持続やパフォーマンスは、香水において昔から語られてきたテーマである。しかし、顧客層の変化が、香水メーカーの対応を大きく変えつつある。現在では高濃度の香水が増加し、「プライマー」や「エンハンサー」と呼ばれる香りのレイヤリング製品も登場している。

「2018年にローンチした当初は、どちらかといえばオードトワレの要望が多かった」と、オルファクトリー NYC(Olfactory NYC)創業者のJJ・ヴィットリア氏は語る。「しかし最近では、より長持ちし、より強いものを求める声が増えた」。

10月、オルファクトリー NYCは「インテンス」オプションを導入し、カスタムブレンドの香料濃度を15〜20%から20〜30%へ高めることを可能にした。この新オプションは、一般的なオードパルファムの持続時間6〜8時間を上回る着用体験を提供するという。同ブランドは、2025年の売上が1500万ドル(約235億円)に達する見込みだと共有している。

若い消費者のあいだでは「smellmaxxing(香り強化)」やレイヤリングといった行動が広がり、香水購買において多いほど良いというムードも強まっている。調査会社サーカナ(Circana)によれば、米国では高濃度のエクストレ ド パルファムの売上が2024年に43%増となった。

多くのブランドが高濃度化で需要に応える一方、開発者の関心は、スプレーした瞬間に感じる「最初の香り」をいかに長持ちさせるかという点にも向かっている。

「持続性を考えるとき、これまでは『どう肌に香りを残すか』だった」と、エスティ ローダー カンパニーズ(The Estée Lauder Companies)で香水研究開発担当VPのジェイミー・フェレイラ氏は語る。「いま議論しているのは、『トップ、ミドル、ベースのノートすべてを1日中どう維持するか』だ」。

香水は通常、揮発性の高いシトラス系トップノートが薄れ、フローラルのミドルノートへ移行し、最後にムスクなどのベースノートが長く残るドライダウンのプロセスをたどる。

フェレイラ氏によれば、エスティ ローダー(Estée Lauder)は2023年に、トップ・ミドル・ベースノートをすべて保持する「トライポリマーシステム」を特許取得したが、同社はさらに新たな持続技術への投資を続けているという。

スタートアップとの連携と新拠点



1月、エスティ ローダーはテクノロジースタートアップのエクスード(Exuud)と提携すると発表した。

同社の特許取得済みフレグランスデリバリーシステムを商業製品に活用し、より均一で長持ちする香り体験を提供するためである。また、パリにグローバル フレグランス アトリエを開設し、持続性を含む新たな香りイノベーションの研究を続けている。

インディブランドも、長持ちする香水需要に取り組んでいる。2024年、フューチャー ソサエティ(Future Society)のジャスミナ・アガノヴィック氏は、皮膚のpHや保湿バリアを整え、香りの持続性を高める「オプティマル ハビタット フレグランス プライマー」を発売した。バイオテクノロジー由来の成分「aeonome」などが使われている。

この流れは、デザイナーズブランドやマスフレグランス領域にも広がっている。7月にはシャネル(Chanel)が香水プライマーを発売し、同月にはセレーナ・ゴメスのレア ビューティ(Rare Beauty)がオードパルファムと、香りの持続性を高める3種類のレイヤリングバームを発表した。

アガノヴィック氏によれば、このプライマーはローンチ以来、フューチャー ソサエティの売上トップ3に常に入っているという。その理由について、彼女は新世代の香水消費の常識を映していると分析する。

アメリカはパフォーマンス至上主義



しかし、香水品質評価の基準が欧州と異なるようだ。

「アメリカ人はパフォーマンスに執着している。それが香水の品質を判断する唯一の基準であるかのように」とアガノヴィック氏は語る。「アメリカの香水市場は、年齢ではなく『市場そのもの』がまだ若い。欧州は長い香水文化を持ち、品質は持続性ではなく別の基準で評価される」。

新規消費者が市場に参入するなか、求められる価値観が即効性寄りにシフトしている可能性があると彼女は指摘する。しかし、それは同時に「店頭で好きになった香りが、数時間後には違う香りになってしまう」問題も生む。

「トップノートは最初に感じる部分であり、店舗では多くの人が乾くのを待たずに判断してしまう」と彼女は言う。「そのため調香師は、ドライダウンよりトップノートを最適化するプレッシャーが増えている。それが持続性の問題につながっている可能性がある。実際に持続性を担うのはベースノートである」。**

ELCのフェレイラ氏は、消費者が求めているのは性能以上の「本能的なもの」だと説明する。

「人は香りに感情的なつながりを持つ。それはノスタルジアや記憶を呼び起こし、人の感情を動かすものである」とフェレイラ氏は語る。「その感情をより長く保てることこそ、香りの持続性が求められる理由の一部だ」。

[原文:Beauty Briefing: How demand for longevity is driving the perfume market]

Emily Jensen(翻訳・編集:杉本結美)