凝った設定と予測不能なストーリーで脚光! 潮谷験の新作『名探偵再び』はまさかの学園ミステリー

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 潮谷験はデビュー作から一貫して、凝りに凝った設定と、予測不能なストーリーで読者を翻弄している。その作者の最新刊は、なんと〝学園ミステリー〟である。といっても物語の設定は、やはり凝りに凝っている。そしてストーリーの行方も……。

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 主人公の時夜翔は、大叔母の母校である私立雷辺女子園高等学校に入学した。学園に対してさまざまな形で貢献した生徒の親族一名に対して、特別に服代・食事代・さらには寮生活を送る場合にはその費用も無償になるという制度を利用してのことである。実は大叔母の時夜遊は、かつて学園で起きた数々の事件を解決した名探偵であった。なかでも有名なのは、大浴場昏倒事件・美術室殺人事件・グラウンド雪密室殺人事件の三件だ。その事件を解決し、裏にいた黒幕のMの正体を暴いたものの、雷辺の滝でMと揉み合いになり、滝壺に落ちて共に死亡。しかも遊の死体が発見されることはなかった。そのような経緯で、今でも遊は学園で神格化されている。

 その名探偵の子孫である翔が入学したので、学園の一部は大盛り上がり。寮で同室になった、新聞部部長の水間静もその一人だ。また、「身の丈を超えた尊敬や賞賛を浴びるのが、とっても気持ちいいからです」と言い切る俗物の翔も、名探偵の子孫を演じて楽しく日々を過ごそうとする。特に事件らしい事件のない一年目は上手くいった。しかし二年生になると、次々と事件が起こるのだった。

 第一章の事件は、校内のフリマポラロイドカメラを買った一年生の小花早季が、大浴場で友人たちとはしゃいで下着姿の写真を撮ってしまう。その後、友人たちと風呂に入っている間に、写真が消失。風呂から上がってすぐに捜したが、どこにも見当たらない。そして脅迫の手紙と、友人が映った写真が一枚送られてきたのである。

 状況から考えて、写真は友人の誰が盗んだとしか思えない。しかし、どう持ち出したのか。隠したとしたら、なぜ見つからないのか。この謎が解かれることにより、脅迫犯が特定されるロジカルな推理の流れが美しい。これぞ、ミステリーの醍醐味である。

 しかし事件を解決したのは翔ではない。水が少なくなった雷辺の滝壺にあった、遊の骨に触れた翔は、大叔母の幽霊を見て話しができるようになっていた。その遊と取引をして、謎を解いてもらったのだ。そうか、本書は学園ミステリーであると同時に、幽霊探偵ものにもなっているのだ。作者、相変わらず癖の強い作品を書いてくれる。

 ところで雷辺の滝という名前や、遊とMの最期から、多くの人がシャーロック・ホームズと宿敵のモリアーティ教授が滝壺に落ちていったライヘンバッハの滝を想起するだろう。Mというイニシャルも、モリアーティ教授を意識したものだ。ということで本書は、幽霊の遊が名探偵役で、翔がワトソン役ということになる。自分を実力以上に凄い人間に演出することが当たり前になっている翔は、それ故に、周囲の人をよく観察している。滝壺から動けない遊に情報をもたらすワトソン役として、うってつけの人間なのだ。

 第二章の事件は、全国複製絵画コンクールで最優秀賞を受賞した生徒が、美術準備室で何者かに殴打される。この話も推理の流れが美しかった。第一の事件の依頼人の小花が、この事件にも関係者として登場するのだが、その使い方にも感心した。第三章の事件は、水間も参加した複数の新聞部の幹部が集まる合宿で、レクチャーと称して生徒たちをいじめるパワハラ新聞記者の死体が発見される。不可解な状況に着目して真相を見抜く、遊の推理が鮮やかだ。

 さて、個々の話を面白く読みながら、三つの事件が妙に過去の事件と重なり合う点が気になってならない。また各章の冒頭には、遊と面識があり、さらに彼女が幽霊になって存在していることも知っている人物による「とある観客の記録」が挿入されている。いろいろな引っかかりを感じながら第四章に入ると、一連の事件の関係者や、生前の遊を覚えている人たちが集まった部屋で事件が発生。しかも部屋に閉じ込められ、翔は遊を頼ることができない。この事件の顛末から終章にかけて、ストーリーは一気に加速。ここから先は詳しく書かないが、ラストのサプライズには仰天した。ある文章に目が止まり、それも伏線だったのかと驚いた。

 一方で、前半に出てくる〝プライド〟に対する翔の意見が、もう一度繰り返され、したたかな人間性を露わにする。たしかに翔はチャッカリしたキャラだが、それだけではないのだ。遊との微妙な関係の変化も読みどころ。癖の強い設定で謎解きを楽しませながら、登場人物の魅力も表現した、一級のエンターテインメント・ノベルなのである。

(細谷正充)