車の傷は「タッチアップペイント」じゃ直せない!? 筆で直接塗っちゃダメ! プロが教える正しい補修術
付属の筆は太すぎる!? じゃあ、どうやって塗るの?
狭い道や駐車場などでうっかりクルマをこすってキズを付けたときや、飛石によるキズ隠しとして「タッチアップペイント」が有効です。
タッチアップペイントとは、小さなキズや塗装の剥がれた部分に類似するカラー塗料を塗って目立たなくさせる補修剤です。
【画像】大丈夫! 浅めのキズなら「タッチアップペイント」で補修可能です!(12枚)
大きなキズや金属の地肌まで見えてしまうほど深いキズには向きませんが、ちょっとした擦りキズや線状のキズなどは手軽に補修できます。
このタッチアップペイントの魅力はプロに修理を依頼するより安価で済むことと、上手に塗ればキズを目立たなくさせることができ、さらに塗装面のキズからはじまる鉄板の酸化、そして錆の発生防止が期待できることです。
タッチアップペイントはディーラーで購入することもできますし、ボディ色によってはカー用品店などでも販売されており、1000円程度という価格もお手頃です。
しかし実際に使ってみると、しっかりに塗ったはずなのにキズは消えず、キズから塗料がはみ出して悪目立ちしてしまい、「タッチアップしなければ良かった」と後悔する人もいるようです。
塗っているときは上手にできたはずのタッチアップの痕跡が目立ってしまうのはなぜなのでしょうか。
神奈川県の整備工場の代表H氏は、「タッチアップの塗装皮膜の厚みがキズの深さに足りてないから」と指摘します。
「タッチアップペイントが失敗したと感じている人の多くが、一度の補修でキズが消える、また直しにくい深いキズでもタッチアップで補修できると思い込みがちなんです。
しかしタッチアップで対応できるキズは比較的浅めで線状のもの程度で、ボディの金属部分(地肌)が見えるような深いキズをタッチアップペイントだけで直すのには時間と手間がかかります。
まずはキズの深さや大きさで、自分で直せるものかプロに任せるべきかを判断することが大切です」
キズの判断としては、爪が引っかからない程度の浅さなら対応可能です。それ以上でもタッチアップペイントを重ね塗りすることで、目立たせなくすることもできなくはないのだとか。
「タッチアップペイントの塗料は乾くとかなり薄い塗膜になります。これを何度も重ね塗りすれば、キズを埋めることはできます」(整備工場代表 H氏)
何度も塗りと乾燥を繰り返すことで塗装膜とキズの深さが同じになり、はじめてキズが目立たなくなるといいます。キズの補修には根気が必要のようです。
では、タッチアップペイントの上手な塗り方やコツなどはあるのでしょうか。プロならではのテクニックがあるのか聞いてみました。
「一般的なタッチアップペイントは、キャップに付属している筆で仕上げるタイプが多いのですが、あの筆の扱いが難しいんです。
筆に塗料が含まれすぎていたり、または少なすぎたり、また付属の筆がキズよりも太いことが多くて塗料がはみ出てしまうこともあります」(整備工場代表 H氏)
そこでおすすめなのが、細めのマイナスドライバー。マイナスドライバーの先端に適量をつけて、キズを埋めるように塗料を乗せていくのが上手に仕上げるコツだといいます。
「私は古いワイパーブレードの芯の金属部分を加工して使っていますが、キズと同じ程度の太さで塗料を乗せられるかで仕上がりが変わってきます。
加工しやすい木材片などを使う方法もありますが、木材が塗料を吸ってしまうため金属の細い棒状のものを使うのが良いでしょう。
キズの深さまで流し込むように塗料を塗り、はみ出た部分は乾く前にペーパーウェスなどで拭き取り、乾燥して確認する。この作業を繰り返します」(整備工場代表 H氏)
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塗料のはみ出しを気にするあまりマスキングテープを使いたくなりますが、H整備士はあまりおすすめしないといいます。
なぜなら、はみ出した塗料がマスキングテープに染み込んで、塗る必要がない部分に塗料が広がってしまう恐れがあるので、むしろフリーハンドで塗って、乾く前に拭き取るほうが効率的に作業できるそうです。
キレイに仕上がらなくてもタッチアップペイントする意味がある!
一般的な人がDIYでタッチアップペイントしてもキレイに仕上がらないことが多いのですが、それでもキズを発見したら、まずはタッチアップペイントでキズが広がるのを抑えることは大きな意味があるのだそうです。
「擦っただけでなく、飛石などの塗装皮膜にキズがついて金属下の地が出てしまうほど深いキズの場合、そのまま放置していると酸化が進んで錆が発生しやすくなります。
応急処置として塗料でキズ部分を覆って空気を遮断することで防錆効果が期待できます」(整備工場代表 H氏)
仕上がりの悪さは後で対処できるので、まずはタッチアップペイントを試すほうが良さそうです。
「塗料は乾燥すると下地の形状に沿った薄い塗膜を形成します。一回の施工ではキズが完全に埋まらないので、何度かタッチアップを重ねることでキズの深さまで塗膜を積み上げる必要があります」(整備工場代表 H氏)
ただし、ここで重要なのは急いではいけないということ。一回のタッチアップでも乾燥までに3〜4時間はかかります。
完全に乾燥する前に塗料を重ねると半乾きだった下の塗膜が溶け出して、余計に乾燥まで時間がかかってしまいます。
「筆より細いものでキズの溝を埋めるように塗料を流し込む感覚で、塗りと乾燥を繰り返すので、プロでも一日で完成させるのは難しい部分もあります。
ご自身で作業される場合は、数時間おいてタッチアップを繰り返すことで、塗膜だけでキズの溝を埋めることができるようになると思います」(整備工場代表 H氏)
ちなみに最終的な乾燥までには、数日から一週間程度の時間が必要となり、キズの深さ以上の塗膜を塗り重ねてはじめて整形(表面を研磨し表面を整える)ができるようになるのだそうです。
「このタイミングで、やっとマスキングテープが必要になります。
まずはキズよりも盛り上がった塗膜に合わせて周辺をマスキングし、1000番程度の耐水ペーパーで表面を研磨します。
そしてキズが目立たなくなるように番手の違うコンパウンドで表面を整えていくという流れになります」(整備工場代表 H氏)
これでキズが目立たなくなるレベルにまで補修できるそうです。タッチアップは自分でもできるけれど、根気と手間がかかる作業だといえます。
「それでも自分で作業することで、気づかなかった別のキズを発見できたり、タイヤのひび割れなどほかの不具合も発見しやすくなります。
手間をかけたくない、または自分で作業して仕上がりに満足できない場合は、改めてプロにお願いしていただければと思います」(整備工場代表 H氏)
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手軽な補修と思われがちなタッチアップペイントですが、意外にも奥が深い作業であることがわかりました。
まずは自分でトライしてみるとその難しさがよくわかるのですが、それでもキズを放置しておくよりタッチアップペイントで表面を保護しておくメリットは大きそうです。