アルファードやN-BOXの「スライドドア車」がなぜ人気独占? “引き戸“タイプが日本でウケる訳

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日本人になじみ深い? スライドドア装着車が人気を得る理由とは

 毎月発表される国内販売ランキングの上位車種を見ると、後席ドアがスライド式のモデルが多くランクインしています。

 直近の小型/普通車の登録台数1位はトヨタ「ヤリス」ですが、この販売実績にはコンパクトカーのヤリス、SUVの「ヤリスクロス」、スポーツモデルの「GRヤリス」が含まれます。

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 ヤリスシリーズを別々にカウントすると、登録台数の実質的な1位はトヨタのコンパクトカー「ルーミー」で、スライドドアを装着しています。高級ミニバンのトヨタ「アルファード」も上位に入り、これもスライドドアを備えます。

乗り降りしやすいという特徴を持つスライドドア

 軽自動車の届け出台数は、1位がホンダ「N-BOX」、2位はスズキ「スペーシア」、3位はダイハツ「タント」と続きますが、この3車種もすべてスライドドア装着車です。

 また、軽自動車の上位にランクインするダイハツ「ムーヴ」でも、販売の6割は派生車の「ムーヴキャンバス」で、やはりスライドドアを装着しています。

 国内販売ランキングの上位には、スライドドアを備えた車種が圧倒的に多いです。なぜでしょうか。

 ある自動車メーカーの商品企画担当者に尋ねると以下のように返答しました。

「スライドドアは現代のクルマには大切な付加価値です。とくに比較的若いお客さまの場合、幼い頃から自宅にミニバンがありました。スライドドアに親しんで育ち、便利なこともよくご存じです。そのためにミニバンだけでなく、軽自動車やコンパクトカーでも、スライドドアを装着した車種を選ぶ傾向があります」

 もともと日本家屋には、古くから引き戸が使われていました。障子やふすまを含めて、スライドさせるドアは身近な存在です。

 乗り物では、1900年頃に製造された鉄道の客車には、すでにスライド式の扉が見られます。クルマの分野でも第二次世界大戦前から採用例があり、1960年代の後半からは、トヨタ「ハイエース」のようなワンボックスボディの商用車やこれをベースに開発されたワンボックスワゴンに装着されて急速に普及しました。

 1990年代に入ると、トヨタ「エスティマ」、日産初代「セレナ」、ホンダ初代「ステップワゴン」など、スライドドアを装着するミニバンが続々と発売されます。

 そのため前出の開発者がいうように、1980年代の中盤以降に生まれた20代から30代の人達は、ミニバンに親しんで育ちました。セダンよりも、スライドドアを装着する背の高いクルマが基本形なのです。

便利なスライドドア 注意したい点は?

 スライドドアにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 もっとも分かりやすい機能上の特徴は、前席側のヒンジドアと違って、開閉時にドアパネルが外側へ張り出さないことです。隣に駐車する車両にドアを当てる心配がなく、狭い場所での乗降性も優れています。

スライドドアは開閉時にドアパネルが外側へ張り出さない

 スライドドアは開口部が広いので、乗員が体をねじらずに乗り降りできることも特徴。高齢者の体の負担も少ないです。スライドドアでは電動の開閉もでき、子供や荷物を抱えた状態で乗降するときも便利です。

 また、助手席を前方に寄せて後席の足元空間を広げておくと、ベビーカーごと車内に乗り込むことも可能。雨が降っていても濡れずに子供を後席のチャイルドシートに座らせることができます。

 このようにスライドドアにはさまざまなメリットがあり、子育て世代に人気のミニバンや背の高いコンパクトカー、軽自動車で普及しました。いまではスライドドアで育った世代が成長して親になり、スライドドア装着車の売れ行きを伸ばしています。

 ただしスライドドアには注意点もあります。消費者庁は、スライドドアで指などを挟む事故が発生していることを指摘しています。

 電動スライドドアには、閉めているときにタッチセンサーなどが反応すると、反対方向に動かして停止する挟み込み防止装置が採用されています。安全装備ではありますが、万全ではなく、子供が指を挟んで骨折する事故も報告されているのです。

 手動式のスライドドアの場合、電動式と違って挟み込み防止装置は付いていません。閉める直前に子供が手を出せば挟まれてしまいます。

 指や手を挟む場所は、スライドドアパネルの前側だけではありません。閉まる直前に、後ろ側(戸袋になるリアフェンダーとの境目付近)に手を挟む危険もあります。

 また、路上に駐車したときも注意が必要です。スライドドアは開いたときにドアパネルが外側へ張り出さないことから、後方から接近する車両から見るとドアが開いていることが分かりにくいです。従って駐車している車両のスライドドアから、人が降りてくる危険性を察知しにくいです。

 さらに、スライドドアは子供の飛び出しを誘発しやすいといえます。横開きドアであれば、乗員の斜め前方はドアパネルで塞がれて横方向に降車しますが、スライドドアでは斜め前方も開けています。そのために車道に飛び出しやすいのです。

 このような危険を防ぐために、スライドドアの操作は必ず親が十分に注意しておこないましょう。子供にも自分で操作してはいけないことを教えます。車内からドアを開けないようにするチャイルドセーフティドアロックを利用する方法もあります。

 このほかスライドドアは、急な坂道に駐車したときなど、横開きのドアと同等かそれ以上に開閉性が悪化しやすいです。手動式は平坦路の開閉操作でも体力を要することもあります。

 また、センサーで開閉するタイプのスライドドアは、洗車機で洗車中にドアが開いてしまうことがあるというトラブルも報告されており、洗車前に自動開閉機能をオフにするなどの対策が必要です。

 それでも電動で開閉できるスライドドアは、クルマを生活のツールとして使うユーザーにはとても便利です。子供を抱えながら買い物袋を持ち、さらに傘をさしているときなど、電動スライドドアの効果は絶大です。

 注意点を把握したうえで、安全に使っていただきたいです。