iPadアプリ移植を楽にするMac Catalyst、「いくつかの問題がある」と著名開発者からの声
ようやく配信開始されたmacOS Catalinaの新要素の1つとして、注目を集めている「Mac Catalyst」。既存のiPad用アプリをベースにネイティブのMac用アプリ開発を驚くほど簡単に始められると謳われていますが、それほど簡単ではなく「いくつかの問題に直面した」という開発者の声が伝えられています。米Bloomberg報道によると、たとえばiPad用の人気電卓アプリ「PCalc」をMac上で正常に動作させるため、開発者は当初の予想以上に努力しなければならなかったとのこと。当初のMac版は「より大きなMac画面に浮かぶiPadアプリのように見えた」ため、ユーザーインターフェースの多くの部分を再設計する必要があったと語られています。

そして同開発者は、一部の古いMacでは3Dゲーム開発用のフレームワークであるSceneKitを使うCatalystベースのアプリ処理に苦労しているとも付け加えています。

さらにRSSリーダーFiery Feeds for iPadの開発者は、iPadアプリをCatalystによりMac用インターフェースに馴染ませる上で「あらゆる種類の壁にぶつかった」とも述べています。

ほか、著名なiOSアプリ開発者Steven Troughton-Smith氏は、一部アプリのMac版ではビデオの再生中にマウスカーソルを非表示にできないことや、ゲームでキーボードとフルスクリーンモードを使用する際の問題に加えて、ビデオ録画や2本指でのスクロールにも難があると発見したとのことです。

その一方で、Bloombergは消費者サイドの視点から、Catalystによってアプリが移植できても、現状では「iOSとmacOSで同じアプリに二重支払い」をしなければならない問題も指摘しています。

例えばGoogle PlayストアはAndroidとChromebookデバイスで購入したアプリを共有でき、またアップル製品でもiPhoneやiPad、Apple TVでは一度買ったアプリは他のデバイスでも使えますが、Macアプリとしては共有はできず、有料アプリの場合は二重の支払いとなります。ユーザーにとってここは心理的抵抗がある――というわけです。

Troughton-Smith氏も「ユーザーとしては、同じアプリを手に入れるためだけに再びお金を払いたくない」「開発者としても、ユーザーにそうした負担をかけたくない」と述べています。

ただし、たしかにiPadからMacにCatalystを介して移植したアプリは近い存在ではあるものの、上述のように開発者に多大な負担がかかるとすれば、その労力に対して再び支払いを求めることは避けにくいのかもしれません。

さらにBloombergの記事は、6月以降にアップル公式サイトで紹介されていた2つのCatalystアプリが、今週になってサイト上から削除されたことも言及しています。

その1つが、看板タイトルとして紹介されていたレーシングゲーム「Asphalt 9」です。発売元のGameloftは「ゲーム体験を磨き上げるため」に「わずかに遅れたこと」、そして今年後半にリリースとされるとコメント。また、NetflixもCatalystに参加しないと表明したとのことです。


このように、現状では問題が山積みにもかかわらず、Troughton-Smith氏はCatalystこそが「Macアプリ開発の未来だ」と述べており、iPhoneやiPadプラットフォームにしか経験のない開発者がMacアプリを手がけるうえで有効な橋渡しだと評価しています。しばらくはアップルや開発者にとって、産みの苦しみの期間が続きそうです。