明治ひとり勝ちのヨーグルト市場に異変。いま何が起きているのか

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ヨーグルトといえば「ブルガリア」というイメージが真っ先に浮かぶほど、日本人に定着した感のある「明治ブルガリアヨーグルト」ですが、そんな「明治一強」だったヨーグルト市場にも変化が起きているようです。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんは今回、日本のヨーグルト商品史から機能性ヨーグルトブーム、そして新たなブームを呼び起こしそうな「ギリシャヨーグルト」などを取材し、ヨーグルト市場の最新動向について詳しく紹介しています。

“機能性からギリシャへ”。ヨーグルト市場の最新動向を追う

そろそろスギやヒノキ、シラカバの花粉が飛ぶ季節。スーパー、コンビニ、ドラッグストアの食品売場では、3〜4月のピークに向けて、花粉症の緩和に効果があると言われるヨーグルトの売場を拡大する動きが始まっている。

昨年あたりからヨーグルト業界では売れ筋に変化が起こり、近年市場を牽引してきた機能性をうたう商品に一服感が出ており、プレーンなタイプに回帰している。その中でも、急速に売上を伸ばしつつあるのは、「ギリシャヨーグルト」と呼ばれる、水切りを施してレアチーズケーキのような濃厚な食感が楽しめる商品群である。

また、プレーンなタイプでありながらも乳酸菌入りなどの機能を付与した、機能性ヨーグルトとの中間的な商品も増えており、機能の重要性が薄れたのではないようだ。

飲むタイプの機能性ヨーグルトに関しては、年間商品化してきた甘酒など、他ジャンルの発酵飲料に顧客が流れたとする説もある。

“機能性からギリシャへ”と主役が交代しつつある、ヨーグルト市場の動きを追った。

30年間で3.5倍。右肩上がりで成長するヨーグルト市場

マーケティングリサーチの富士経済がまとめた「2018年食品マーケティング便覧 総市場分析編」によれば、ヨーグルトの市場は1988年には800億円ほどだったのが、2016年には2,900億円ほどにまで膨らんでいる。過去30年で3.5倍以上になった。

機能性商品はひと段落し、「プレーン回帰」が起こっている

ヨーグルトは消費者の健康指向の高まりにより、長期トレンドでは右肩上がりで普及が進んでおり、今後も成長が見込めそうな有望な食品の1つと言えるだろう。

富士経済では、96〜97年に主要商品の幾つかが特定保健用食品の表示を開始したのが、成長の契機と考えており、テレビ番組や雑誌で繰り返し健康を改善する効果が取り上げられたので、今日の隆盛に結びついたとしている。12年には機能性への関心がより一層高まり、以降各社がプロバイオティクスに基づいた商品を強化した。

98年に英国のフラー博士によって提唱された、人体に良い作用をもたらす微生物、または微生物を含む食品がプロバイオティクス。共生を意味する“プロバイオシス”が語源となっている。腸内の細菌バランス、腸内フローラを整えることで、免疫力向上、便秘や下痢の症状改善、痩せやすい体質づくりなどに効果があるとのこと。菌活という言葉もほぼ同じ意味でよく使われる。

ビフィズス菌、乳酸菌などが典型的なプロバイオティクスの微生物だ。ヨーグルトが花粉症に効果があるというのも、プロバイオティクスの文脈で語られてきたことである。

一般社団法人Jミルクによる「平成30年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと今後の課題について」によれば、生乳供給量は09年度780万5,000トンから18年度は720万6,000トンへと、8%減っており、牛乳が飲まれなくなってきている傾向から乳製品全般が伸びているわけではない。牛乳からヨーグルト、あるいは過去30年で2倍以上の消費量となったチーズといった発酵食品へとシフトが進んでいる。

日本人の生活にヨーグルトを根付かせた「明治ブルガリアヨーグルト

さて、日本のヨーグルトの市場で最大シェアを有しているのは、明治ホールディングスで同社の調べでなんと43.5%を占めている。実際にコンビニに行くと、各社のPB(プライベートブランド)以外のNB(ナショナルブランド)では明治の製品がひときわ目立って棚を占拠しており、4割のシェアも納得できる。

スーパーやドラッグストアではコンビニに比べれば商品は多様化しているが、明治の占める売場のスペースは総じて広い。

明治は年商が1兆円を超え、乳業トップの大企業であるが、ヨーグルトにおいてもプレーンで「明治ブルガリアヨーグルト」、機能性で「明治プロビオヨーグルト」と、それぞれの分野でトップシェアを持つ核となる2大ブランドを有している。明治のヨーグルト売上の42.3%が「ブルガリアヨーグルト」、54.6%が「プロビオヨーグルト」となっており、まさに売上を二分している。

「ブルガリアヨーグルト」は、70年の大阪万博で、明治乳業(当時)の社員がブルガリア館でヨーグルトを試食したところ、従来の日本になかったなめらかで菌が活きている食感に魅せられ、こちらのほうが本物と、再現を目指したことから開発が始まった。

日本にそれまであったヨーグルトは、ゼラチンなどで固めていてゼリーに近い食感だった。

また、ブルガリア政府の認可により、ブルガリアの菌を使用している。この商品の成功により、日本人がブルガリアという国から連想するものがヨーグルトになっているほどだ。

ヨーグルトのスタンダードを変えてしまうほどの革命的な商品「ブルガリアヨーグルト」であるが、当初は酸っぱい、腐っているようだと消費者の評価はさんざんで売れなかった。しかし、海外のヨーグルトの味を知る人からは高い評価を受けており、粘り強い改良と販促で徐々に売上を拡大。81年に牛乳用パックから現在のようなフルオープンのパッケージに変えてブレイクを果たし、トップシェアに君臨するようになった。

現在はドリンクタイプ、フルーツ果肉入りなど、商品のバリエーションが広がっている。96年に特定保健用食品の認可を受けている。

「インフルエンザにかかりにくくなる」報道で店頭から消えた人気商品

一方の「プロビオヨーグルト」は「LG21」、「R1」、「PA-3」と3つの商品群に分かれており、それらの総称である。プロビオはプロバイオティクスを略した。それぞれ、プレーン、ドリンクタイプなどのバリエーションがある。

最初に発売されたのは「LG21」で、LG21乳酸菌を使用した高機能商品。2000年に発売された当時は、アルファベットや数字を商品名に使ったヨーグルトの商品はなく、新鮮な印象をもたらしヒットした。

17年6月現在、明治では累計70億個、毎日100万個以上が販売されているとしている。

LG21乳酸菌は正式には、ラクトバチルス ガッセリーOLL2716株で、21世紀への飛躍に願いを込めて「LG21」と名付けたとのことだ。明治独自の研究の中から、胃での働きに着目して選び抜かれた菌である。

これまでヨーグルトは漠然と体に良いとされてきたが、LG21乳酸菌は胃で生き残る力が強い特徴を持つ。日本人は胃癌や胃潰瘍の要因となるピロリ菌の保菌率が高く、5,000万人と推計されている。胃酸に負けずにピロリ菌を攻撃するので、慢性的な胃もたれ、胃の痛みが緩和されたという報告もある。

「プロビオヨーグルト」は特定保健用食品ではないので効能をうたっていないし、医薬品ではないので100%に近い確率で効くとは限らないが、高機能の内容はかかるものだ。

日本のプロバイオティクスの草分けは、はるか前から販売されていたカルピス(1915年発売)とヤクルト(1930年発売)だが、プロバイオティクスを意識した高機能商品ということでは「LG21」が起点になっていると言っても過言ではない。

また、「R-1」はブルガリア菌の一種、OLL1073R-1乳酸菌を使ったヨーグルトで、09年に発売。15年に「プロビオヨーグルト」シリーズに編入された。

この乳酸菌がつくりだす多糖体の働きにより、病原体と戦うナチュラルキラー(NK)細胞が活性化して免疫力が向上。インフルエンザや風邪にかかりにくくなるという報道が、12年初頭に朝の情報番組で取り上げられ、店頭から商品がなくなるほどの売上を記録した。

実際に佐賀県有田町では、半年間小学生がR-1乳酸菌の摂取を続けたところ、インフルエンザ感染率が隣接市町村の10分の1にまで低減されたという調査結果もある。

さらに、「PA-3」はプリン体と戦う乳酸菌PA-3の高機能を訴求した商品で、痛風や高尿酸血症の予防や症状緩和が想定されている。ビールなどお酒を飲む人にとって、プリン体の過剰摂取は痛風の原因と言われ気になる話題である。「PA-3」は15年に発売されている。

「プロビオヨーグルト」シリーズの成長は、特に「R-1」のインフルエンザに効くという評判が大きな影響を及ぼして体調管理を目的に飲む人が増え、胃の調子が悪い人は「LG21」、お酒をよく飲む人は「PA-3」と、タイプ別に広がり急成長した。

明治ブルガリアヨーグルトが値下げに踏み切った理由

明治のヨーグルトの売上は、2014年3月期には「ブルガリアヨーグルト」が731億円(前年同期比4.1%減)、「プロビオヨーグルト」が743億円(前年同期比30.3%増)と、両ブランドが初めて逆転。

その後「ブルガリアヨーグルト」は、15年716億円、16年761億円、17年803億円、18年779 億円と推移している。全般に伸びているが年によるバラつきがある。19年第2四半期は419億円(前年同期比2.3%増)と復調した。

一方の「プロビオヨーグルト」は、15年872億円、16年1,067億円、17年1,196億円、18年1,194億円と推移した。17年までは2桁成長が続けたが、18年には一転して微減。19年第2四半期は521億円(前年同期比4.7%減)と、不振が鮮明になっている。

ヨーグルトの売れ行きについて、明治・広報では「プロビオは近年ずっとテレビなどで話題になっていましたから、一服感があります。各社が競合する商品を出してきた影響も受けていますが、中長期的には心配していません。ブルガリアヨーグルトは新しいパッケージにした効果が出ています」と、説明している。

競合商品とはたとえば、18年3月に発売した、雪印メグミルクの内臓脂肪を減らすのを助ける特定保健用食品、「恵megumiガセリ菌SP株ヨーグルト」。18年10月にリニューアル発売した、森永乳業の母乳に多く含まれる抵抗力を強める素材「ラクトフェリン」を配合した「ラクトフェリンヨーグルト」、17年9月にアサヒ飲料が発売した「カルピス」由来の乳酸菌シリーズ「L-92」、「プレミアガセリ菌CP2305」などがある。「L-92」はアレルギー性鼻炎などの改善に役立つと言われる。

また、年間商品化してきた甘酒には、ビフィズス菌を増やし、アレルギー発症予防、美肌、抗酸化などの機能があると言われる。甘酒は直近5年で5倍の250億円ほどの市場規模になっており、17年には売れ過ぎて生産制限をかけるメーカーも出たほどだ。

甘酒は森永製菓がトップメーカーで市場の3割を占めるとされ、マルコメ、メロディアンなどが続く。大関、八海山など日本酒メーカーも強化しており、競争が激化している。

そればかりでなく、近年はプレーンタイプの「ブルガリアヨーグルト」でも、「LB81」乳酸菌入りであることをパッケージに表示。「LB81」は健康な腸機能を維持する働きがあると言われる。高機能のプロバイオティクス商品は値段も高めで、お財布にやさしいプレーンでいいと考える消費者が増えているための、プレーン回帰と考えられる。

ユーチューバーが絶賛したという、セブン-イレブンのPB「生きて腸まで届く乳酸菌 飲むヨーグルト」は「L55」乳酸菌、善玉菌を増やすガラクトオリゴ糖が入っている。これに限らずコンビニやスーパーのPBは、一般的な安価なヨーグルトで機能をもアピールしている。

こうした流れを受け、明治は18年4月、「ブルガリアヨーグルト」のパッケージを450gから400gに変更。希望小売価格を260円から250円に値下げした。実質は値上げであるが、単身者、高齢者が増えている背景もあってか、容量減と値下げが歓迎されて好調である。

新たに浮上した「ギリシャヨーグルト」ブームの風

そして、機能性ヨーグルトのブームが一段落した今、新たなヨーグルトの成長エンジンとなりそうなのが、ギリシャヨーグルトである。これは、水切りを行い濃縮されたヨーグルトで、高たんぱくであるのが大きな特徴。合わせて脂肪分ゼロをアピールする商品も多い。チーズケーキに近い食感で、腹にたまるので、サラダチキンなどと同様にフィットネスのブームと共に伸びている。

アメリカでは04年のアテネ五輪を機にヒットして、主流になっているヨーグルトで、市場の5割を占めるまでに達しているそうだ。

日本でのギリシャヨーグルトの草分けは、森永乳業「パルテノ」。3倍濃縮で濃厚かつクリーミーな味わいの商品で、酸味が少なく酸っぱいものが苦手な人も食べやすい。発売は11年。しかし、この頃から機能性商品が大ブームとなり、埋もれてしまってしばらくは売れなかった。

15年になって果肉ソース入りがヒットし、ギリシャヨーグルトの認知度も上がった。現状、日本のギリシャヨーグルトの市場は100億円を超える程度と目され、55%ほどを森永が握っている。

次いで、ダノンジャパンが「ダノンオイコス」を15年に発売。10年にアメリカで発売以来、フランス、イギリスなど世界8ヶ国で販売、アジアでは初の展開であった。通常の3倍の乳原料を使いたんぱく質も2倍。特に女性の間食ニーズを狙った。

また、ダノンジャパンはイオンのPBで発売した「トップバリュ セレクト ギリシャヨーグルト」の生産を15年から行っており、両ブランド合わせて森永に次ぐ高いシェアで市場を引っ張っている。

ダノン製品は「パルテノ」よりも固くて小腹を満たす満足感が高く、脂肪分ゼロも売りだ。

ギリシャヨーグルトの活性化は、明治が「明治ザ グリーク ヨーグルト」を18年4月に発売したことで加速されている。この商品も濃密な風味と脂肪ゼロが売りだが、食感は滑らかである。どの商品を選ぶかは各人の好みだろう。

明治・広報によれば「特にフルーツソース入りの商品で、ギリシャヨーグルトのニーズの高さを感じたので開発に踏み切った」とのこと。

現在はフルーツソース入りで、ブルーベリーミックス、フルーツミックス、グレープフルーツと3つの商品を出しているが、森永とダノンがヨーグルトの下にソースが隠れているのに対して、ヨーグルトの上にソースが乗っている。しかもソースの味付けも濃厚だ。このため、森永とダノンはプレーンの味とソースが混じった味の変化が楽しめるのに対して、明治は濃厚なソースの味が前に出た商品になっている。

商品の違いが、消費者の購買行動にどのような影響をもたらすか。注目される。

それにしても、ブルガリアとギリシャは隣の国で、明治は節操がない気もしないでもないが、アメリカの市場を見れば、ギリシャヨーグルトが日本のヨーグルト市場の2.5%に過ぎない現状のままということはなく、のびしろが期待できる。

1970年代から新しいヨーグルト市場を切り開いてきた明治にとって、他社を追いかける新しい展開だ。ギリシャヨーグルトのイメージが薄い明治が、どう巻き返して森永、ダノンに迫るのか。このまま先行2社が逃げ切るか。

また、激しい競争にさらされている機能性商品を、明治はどう立て直すのか。

明治のひとり勝ちが続いてきたヨーグルト市場が、にわかに風雲急を告げる情勢となっている。

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