もっとも、「アジアのアウェーともなれば、自分たちの思惑どおりにゲームを進められないことがある」という指揮官の考えの下、劣勢の試合展開を想定して「取れなくても、取られるな」を合言葉にチーム作りが進められてきたのが、今回のU−23日本代表でもある。その意味で押し込まれながら1点をもぎ取り、1−0で勝利したのは理想的であり、このチームの真骨頂と言ってもいいだろう。

 その決勝ゴールが、セットプレーから奪い取れたのも大きかった。

 実は岩波や植田、遠藤と空中戦に強い選手をそろえながら、このチームはこれまでセットプレーからの得点が多くなかった。そのため、北朝鮮戦2日前の非公開練習でセットプレーの練習が入念に行っていた。岩波がニアへ、遠藤と鈴木武蔵(アルビレックス新潟)が中央へ、その瞬間に植田がファーに動いてマークから逃れて叩き込んだコーナーキックからの先制ゴールは、その非公開練習で試していた形でもあった。キッカーの山中亮輔(柏レイソル)が言う。

「狙う場所は決まっていたし、中の入り方もブロックしたり、フリーになって入ってきてくれたので、あとは自分のキックの質だけで決まるなと思っていた」

 指揮官によれば、セットプレーはまだ9つのパターンを隠し持っているという。

「2戦目、3戦目ではまた違うバリエーションを皆さんにお見せして取れればな、と思います」

 北朝鮮戦では確かに課題がたくさん生まれたが、何よりも初戦で勝点3を取れたことが大きい。そしてセットプレーからでも点が取れるという自信をつかみ、“ジョーカー”の浅野も秘密兵器として隠し持っている。リオ行きの切符獲得に向けて、日本は間違いなく余力と伸びしろを残している。

文=飯尾篤史