「友だち以上、恋人未満」の男性を包丁で刺し、裁縫針で傷口を縫合しようとした女の理解しがたい言い分【裁判傍聴記】
「長く争うつもりはないので従います」
起訴状の読み上げに対し、どこかはすに構えた調子で被告人の女が答える。開廷表には、「傷害」の2文字が無機質に並んでいた。
女は愛知県名古屋市港区の自宅で、令和8年5月5日の午前0時から5時頃にかけて、口論の末に被害者男性の左頸部と背部を包丁で突き刺し、加療2カ月の怪我を負わせた。
その後、女はその傷口を裁縫針で縫合しようとした。
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酒を飲んで口論の果てに…
平成2年9月19日生まれ。専門学校を中退後、職を転々とし現在は貨物自動車の運転手をしているという被告人は、検察官が身上経歴を読み上げている最中、足先をクロスさせ、袖をまくってみたり爪を見たりと、くつろいだ様子を見せていた。
その振る舞いから、緊張した様子は見て取れない。
人定質問で本籍地を問われると、彼女は投げやりに答えた。
「愛知県⋯。あー、分かんないです」
事件前日の5月4日、被告人は知人と15時頃から飲食店でお酒を飲んでいた。知人が帰った後も飲み足りないと感じた女は、被害者の男性を呼び出して飲食を共にするも、口論となり腹を立てた被告人は1人で帰宅した。
その後、日付をまたいだ5月5日、被害者が被告人宅へとやってきた際に再び口論となった。
「殺すぞてめぇ」
「やってみろ!」
「じゃあやってやるわ!」
そうした売り言葉に買い言葉の応酬の果てに、女は包丁を持ち出した。その日、女は焼酎900mlを1本半程度飲んでいた。普段から同程度飲んでいるのだという。
弁護士からの質問で明らかになった事件のきっかけは、あまりにもささいなものだった。
「以前から(被害者より)他の男と連絡を取るなって言われていて、ケータイを取られたりもしていました。それなのに相手はスナックに行っていたので」
「話が違うって言うか。自分に甘くて他人に厳しいんだなって」
そう語る被告人は、被害者との間で行われた言い争いの詳細について、当時カッとなっていたために覚えていないのだという。それは決して、お酒が原因ではないと女は供述した。
「殺すつもりだったらメッタ刺しにしています」
起訴状では、被害者が土下座をしている時に刺したとされていたが、向き合った状態で抱き合うような形で背中を刺したのだと女は主張した。
言い争いの末、刺してやろうと思った女がキッチンで包丁を手に振り返ると、正面に被害者が立っていた。そこで、被害者の背面に手を回すようにして刺したのだ、と。
刺した後、キッチンでうずくまっている被害者を尻目に、女はリビングへと移動した。包丁を置いてソファに座ると、被害者がやってきて「本当にごめんなさい」と謝罪してきたのだという。
また、被害者が土下座していたのは事実だが、強要をしたことはないと女は語った。そうした供述の食い違いについては、女がおおむね罪を認めていることなどから争点とはならなかった。
弁護士より、殺意の有無を問われた女は薄く笑いをにじませながら答えた。
「殺すつもりだったらメッタ刺しにしています」
今後は被害者と会うつもりはないと女は言う。その理由を問われ、少しの間を置いて答えた。
「なぜ⋯。うーん。何の感情もないからです」
口先をすぼめ、鼻から抜ける特徴的な声が法廷に響く。
検察官より被害者との関係性を問われると、女はこう表現した。
「友だち以上、恋人未満です」
その瞬間、傍聴席から失笑が漏れ聞こえた。
被告人には同被害者に対する暴力行為による前科前歴があった。それにもかかわらず、2人の関係性が続いていたことについて、女は「向こうから必要以上に来るので」と冷たく言い放った。
しかし、被害者を呼び出したのはまぎれもなく女自身であった。2人の間では、これまでも口論の際に刃物を持ち出すことがあったという。
被害者を刺した後、裁縫針で縫合しようとした理由を問われると、「出血を止めるために縫おうとしました」と答えた。しかし縫合はうまくいかず、被害者には止められたものの、彼女が119番通報した。
女は通報した理由を「相手の生命が大事だと思ったので」と説明した。一方で、被害者が通報を拒んだ理由を「私のことを想ってのことだと思う」と語った。
そんな被害者は被告人に対し、厳罰を望んでいるという。
2人の間にどのような背景、事情があるかは、裁判での供述だけではうかがい知ることはできない。最終陳述で何か言いたいことはあるかと問われた被告人は、間延びした声で答えた。
「わー⋯。ないです」
検察側は3年の拘禁刑を求刑し、弁護側は寛大な判決を求めた。判決は8月5日、名古屋地方裁判所603号法廷で言い渡される。
文/桑原怜史 内外タイムス

