減税減税また減税でいいのか…猪突猛進の高市政権に提案したい「未来を守るためのサンセット条項」
政治は、有権者の目先の負担を軽減する方向に傾きがちだ。日本では、いま論議されている消費税減税問題に、それがはっきりした形で表れている。しかし、消費税は、社会保障制度を支える重要な財源なので、仮に減税を行なうのであれば、それが一時的なものであることを確保する方策を講じるべきだ。
負担増加は嫌われる
増税や社会保険料引き上げのような国民の負担の増加は、人々に嫌われる。だから、政治家が負担増を提案すれば、支持率が落ちる可能性が高い。
逆に、減税や社会保険料の引き下げは、人々に歓迎される。手取りが増え、買い物の際に支払う金額が減れば、その効果は誰にもすぐに実感できる。だから、負担軽減を掲げる政治家や政党は支持を集めやすい。
これは古来不変の政治的な力学だ。多くの政治家がそれに流され、目先の負担を軽減する一方で、その財源を明確にしないまま、将来の社会に禍根を残してきた。
本来、為政者にとって最も重要な責任は、国民生活の基礎となる条件を、将来にわたって維持し続けることだ。
現代社会でいえば、年金、医療、介護などの社会保障制度を維持することは、その最も重要な責務の一つだ。そして、それを継続するための安定した財源を準備する必要がある。これこそが政治の基幹的責務だ。
だから、負担の軽減だけを政治の成果と考えてはならない。必要な行政サービスを提供し、その費用を、国民がどのような形で負担するかを決めることは、政治のもっとも基本的な責任の一つだ。
減税色一色の日本の政治
ところが、現在の日本の政治は、これとは逆の方向に進もうとしている。
2026年2月8日に行われた衆議院総選挙では、多くの政党が、消費税減税、所得税減税、社会保険料の軽減、現金給付など、何らかの形での国民負担の軽減を提案した。消費税については、食料品の税率をゼロにする案、一律に5%へ引き下げる案、さらには消費税そのものを廃止する案まで示された。
消費税は、社会保障制度を支える重要な財源だ。消費税収は景気変動の影響を比較的受けにくい。また、現役世代だけでなく、高齢者や訪日外国人を含め、消費する人が広く負担している。
今後は、人口の高齢化によって、医療や介護を中心に社会保障支出が増大する。他方で、生産年齢人口の減少によって、税や社会保険料を負担する人の数は減っていく。
したがって、仮に物価高対策として消費税減税を行うのであれば、それが一時的な措置であることを確保する仕組みを設けるべきだ。
もちろん、日本の議会制度において、将来の国会の決定を現在の国会が完全に拘束することはできない。それでも、減税が安易に延長されないように、制度的、財政的、政治的な障壁を設けることは可能だ。具体的には、次のような仕組みが考えられる。
サンセット条項
第一は、サンセット条項だ。
減税終了時点で改めて増税法案を成立させる仕組みにすると、政治的には、実行が難しい。そこで、一定の期日が来れば、減税措置が自動的に失効する規定を、あらかじめ減税法律に設けておくのである。
例えば、「食料品の消費税率を2年間に限って1%とする。ただし、2028年3月31日をもってこの特例は失効する」と明記しておく。
こうした時限措置は、理論上も実務上も可能だ。アメリカでも、税制上のサンセット条項はしばしば用いられてきた。
ただし、国民に人気のある減税は、期限が近づくと延長を求める政治的圧力が強まり、その結果、何度も延長されたり、恒久化されたりする場合が多い。したがって、サンセット条項を設けるだけでは十分ではないかもしれない。
第二は、自動復元条項だ。
単に「期限が来たら特例が失効する」と書くだけでなく、「期限後は従来の税率に自動的に戻る」と明確に規定しておく。
例えば、食料品の税率を1%に引き下げるのであれば、特例期間終了後は、新たな法改正を必要とせず、従来の8%に戻るように規定しておく。
こうしておけば、国会が何もしなければ減税が終了する。政治的には、「増税法案を新たに通す」よりも、「期限切れによって元の制度に戻る」方が実行しやすいからだ。この点は重要である。
延長手続きを重くする
第三は、減税を延長する場合の手続きを重くすることだ。
例えば、「延長する場合には、減収額と同額以上の恒久財源を法律で同時に定めなければならない」、「社会保障財源への影響試算を国会に提出しなければならない」、「延長法案には独立財政機関の見解を添付しなければならない」などの規定を設けることが考えられる。
また、減税延長によって国債発行額、利払い費、社会保障財源の不足額がどれだけ増えるかについて、複数年度にわたる試算の提出を義務づけることも有効だろう。
第四は、減税の延長によって国民が何を失うのかを、はっきりと示すことだ。
例えば、減税を延長する場合には、同時に、社会保障給付の削減額、将来世代の負担増、国債増発額、利払い費の増加額などを明示する。あるいは、「減税を延長すれば、年金、医療、介護、子育て支援の財源がこれだけ不足する」とはっきり示す。
つまり、減税には必ず費用が伴うという事実を可視化することによって、安易な延長を難しくするのだ。
社会保障の将来像を国民に示す
以上のような制度的な仕組みを作っておくことは重要だ。しかし、それだけで減税の終了を100%確保できるわけではない。
最も重要なことは、社会保障制度を維持するために、なぜ消費税収が必要なのかを国民が納得できる形で、丁寧に説明することである。
内閣府は2024年4月、「経済・財政・社会保障に関する長期推計」を公表し、人口動態を踏まえて、2060年度までの財政、医療、介護の姿を試算している。したがって、政府による長期試算が全く存在しないわけではない。
しかし、この試算は、消費税率や社会保険料率が将来どこまで上昇するのか、国民一人一人の負担がどれだけ増えるのかなどを直接的に示したものではない。経済成長率や医療・介護費の対GDP比などが中心であり、一般の国民には理解しにくい。
政府は、年金、医療、介護、子育て支援に必要な費用が今後どの程度増えるのか、そして、その費用を税、社会保険料、自己負担、国債のいずれで賄うのかについて、複数の選択肢を、具体的な数字で示すべきである。
減税だけを語り、その後の社会保障制度について語らない政治は、責任ある政治とはいえない。国民にとって本当に必要なのは、現在の負担を一時的に軽くすることだけではない。必要な医療や介護、年金を将来も確実に継続することだ。
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