気合いでは続かない、「仕組み化」で学びを血肉に【学びの秘訣:角谷リョウさん(睡眠コーチ)】

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大手企業の睡眠改善研修を数多く手がける、睡眠&超回復のプロ・角谷リョウさん。元公務員からパーソナルトレーナー、そして睡眠の専門家へと、分野を越えて学び続けてきた人です。

そんな角谷さんが語る「学びの秘訣」は、意外にも“意志力に頼らないこと”でした。2冊のノートを入り口に、続く学びのつくり方を伺いました。

学びの入り口は、2冊のノート

――今日は「学びに関わるモノ」として、ノートをお持ちいただきました。

メインはノートと手帳です。僕はノートが最重要だと思っていて、頭の中のアイデアや考えていることを、いかに書き出すか。学びってインプットが大事だと思われがちですが、僕はむしろアウトプットのほうが大事だと思っているんです。だからデジタルではなく、紙とペン。しかも広くて書きやすいことが大切で、この大きい方は一冊1,200円くらいするんですが、紙質がよくてすごく書けるんですよ。

――パソコンに打ち込むのではなく、あえて紙に書く。そこにこだわりがあるんですね。

ただの仕事ならキーボードでも音声入力でもいい。でも学びでいちばん大事なのは、認知、つまり“感覚”が変わることなんです。要約サイトを眺めて分かった気になるのではなく、味わうことが必要で、自分の感覚そのものが変わっていかないと意味がない。その感覚を変えるには、手と脳と五感を使うことが大切。書くというひと手間の作業の中で、頭の中が整理されていくんです。

これは僕が得意な認知行動療法の考え方でもあって、思考と行動を変えるには、頭で分かっているだけでなく、行動を通じて考え方や習慣のパターンを変えていく必要があるんです。

――タイピングではなぜ、それができないのでしょう。

タイピングは速く記録できる一方で、内容をそのまま写しやすい。学びとして深めたいときは、あえて手で要約しながら書くほうが向いていると思います。

手で書くと、文字の強さや筆圧、字の大きさに、そのときの感情がのりますよね。大事なところは強く書くし、これだと思ったら大きく書く。その強弱が大事なんです。学んだだけでは意味がなくて、それが自分の血肉になることが大事。血肉にするには、書くというひと手間、ふた手間がいります。それには紙がいちばん向いていると思っています。

一日の気づきを、寝ているあいだに“進化”させる

――もう一冊は「振り返り用」だとか。どんなタイミングで使うんですか。

振り返りは絶対に夜、寝る前です。寝る前、ついついスマホを見てしまうけれど、デジタルはアルゴリズムに振り回されて「次はこれを見たほうがいい」と思考を乗っ取られてしまう。だからお風呂と寝る前のリラックスタイムはデジタルオフにして、寝る直前にその日あったことをノートで振り返るんです。

これは僕の専門の睡眠の話につながります。寝ているあいだは、脳の活動が大きく下がって休息する時間(ノンレム睡眠)と、起きているときに近いくらい活動している時間(レム睡眠)があって、記憶の種類によって関わり方は異なりますが、その両方で、脳が日中に考えたことを整理したり、記憶として定着させたりしていると考えられています。

だから、寝る直前に言語化して「今日はこういう気づきがあった」「ここが改善点だった」と書いてインプットをしっかりしておくと、寝ているあいだに脳がそれを定着や整理してくれて、自分の中で新しい気づきや思考につながる可能性が高くなる。せっかくの一日の気づきを流してしまわず、しっかり捉えて脳に記憶させたほうが、僕としては絶対に得なんですよ。

多くの人は、寝る前に疲れてゴシップ情報などを頭に入れて寝てしまう。それだと脳がそっちで動いてしまって、すごくもったいない。休息という意味でも、自分の学びという意味でも、寝ている時間を有効活用できるかで、相当な差が出ると思います。

――夜の振り返り行為は、ある程度の言語化能力が必要そうですね。

それはめちゃくちゃあって、最初はみんな言語化ができないんです。だから練習していく。最初はテンプレでいいんです。「今日は誰に感謝した」を名前と一緒に3行書く、できたことを3行書く。小学生レベルからのリハビリみたいなものです。2か月くらいで、わりと書けるようになります。すると「なぜ自分はこう思ったのか、それは元々こういう考えがあったからだ」と、深い言語化ができてくる。書く癖がつくと、日中も「これは夜に書こう」といい気づきを拾うようになって、いいループが回り出す。夜が楽しくなりますよ。

言語化は本当に大事です。僕は人間の認知を司っているのは言語だと思っている。だからこそ、言語化だけはAIに譲っちゃいけない。事務的なメールは任せていいけど、対話や内省までAIに任せきりにしてしまうと、自分で考え、言葉にする力を鍛える機会がなくなってしまう。そこは磨いていったほうが絶対にいいです。

不安や恐怖から始めていい|公務員からの転身

――角谷さんは都市工学を学んで神戸市役所に勤めたあと、トレーナー、そして睡眠の専門家へと、分野を大きく変えてこられました。飛び越えるのは、なかなか難しいことだと思いますが、不安はなかったのですか?

よく「心理的安全性がないと挑戦できない」と言いますよね。

でも、僕はむしろ逆だと思っています。不安や危機感って、新しいことを始める原動力にもなるんですよ。このままだと何も成長しない、あるいはクビになるかもしれない――それはノルアドレナリンという脳内物質で動いている状態で、行動のきっかけとしては健全とも言えるんです。「これができたら給料が増える」より、「これができないと仕事がなくなる」のほうが、人間は動くというのが、僕の実感です。

ただ、恐怖だけだとメンタルがやられてしまいます。だから一定のレベルまでいって“楽しい・面白い”というドーパミンの領域に移る。学べば稼げる、というパターンですね。

でも稼ぐだけでもいつか飽きてくる。そこから「自分のやっていることは世界や社会に貢献している」という、もっと大きな視野に移っていく。これはセロトニンの領域です。

神経伝達物質の働きにたとえるなら、僕の感覚では、不安や危機感から始まり、面白さや報酬感、さらに社会的な充足感へと動機が移っていくイメージです。こんな段階を踏むように学んでいくと、すごく楽しく、高い領域までいけると思っています。

――とはいえ、ガラッと自分の職業を変えられる人は多くありません。トレーナーを選んだ理由は何だったんですか。

僕は無謀にやっているわけじゃなくて、“勝ち筋”が見えるかどうかをちゃんとリサーチするんです。

元々トレーナーという仕事自体には興味があったんですが、トレーナーの世界でも、有名な人・売れている人を10人くらい実際に受けてみて「これがトップか、自分なりのやり方で勝ち目がありそう」と感じてから本格的にトレーナーの道を目指しました。

多くのトレーナーさんは運動畑の出身で、社会やビジネスのことはあまり知らない。でもお客さんが本当に求めているのは、マッチョになることじゃなくて「いい感じにモテて、仕事ができる自分になりたい」ということ。そのニーズに対して、あらゆる分野の情報を集めてアレンジするのは、自分のほうが有利だと思えたんです。ライバルの方向性や自分なりの勝機を見極めてから、トレーナーの世界に入ったんです。

――そこから睡眠にフォーカスしたのは、なぜですか。

自分の中で、良い仕事をするにはどうすればいいか、というテーマがずっとあったんです。

差をつけるなら、食事と睡眠がいちばん効率がいい。海外は完全にそっちへ行っていて、日本は遅れているから“絶対に来る”と思っていました。なかでも睡眠は強力で、ほとんどの人ができていなくてボトルネックになっている。本を書いている専門家の皆さんの話を聞いても正直ピンと来なくて「これは勝機があるな」と感じたんです。しかもデータがまだないから、追いつくのではなく自分で領域を作っていける。先行者利益の面白さもあり、睡眠の世界にシフトしていきました。

最初は感度の高い個人やエグゼクティブ向けにやっていましたが、対企業向けにもニーズが多くありそうと考えて、東京に出て大企業に営業をかけていったんです。最初は大変でしたが、一社実績ができると、いまは毎週のように大手からオファーが来るようになりました。

また睡眠改善は、じつはメンタル不調の予備軍の方にも届きやすいんです。睡眠の改善がメンタル改善につながることも多いですし、認知行動療法だからメンタル不調や不眠症の再発予防も期待できる。企業にとってはすごく価値のある投資なんです。

気合いは信じない、「仕組み化」で続ける

――続けられる人と、続かない人。どんな違いがあるんでしょう。

一時のノルアドレナリンや気合いだけで乗り切ろうとするのは、めちゃくちゃ無理があります。英語を始めよう、ダイエットしようと思ったときはお金も時間も気力もある。でも繁忙期になれば気力は下がりますよね。だから僕は気合いに頼るべきじゃないと思っていて。

僕自身、起きたいから起きるんじゃなくて、眠かろうがぬるっと起きる。そのままシャワーを浴びて顔を洗ってルーティンをしていたら目が覚める。最低ラインができれば、調子のいい日はもっとできる。大事なのは精神力や気合いではなく、仕組み化と環境設定です。僕は自分の気合いも、やる気も、100億パーセント信じていません(笑)。

すごいハイレベルな人ほど、淡々とやっているんですよ。褒められてテンションが上がるのはプラスアルファで、すぐ消える。淡々と、高いクオリティでやり続けられること。それがいちばん強い。やったりやらなかったりは、もったいないんです。

――頑張って気合いで乗り切ろうとする人には、どう伝えますか。

「ゴールは何ですか」という話をします。みんな、いい仕事がしたい、稼ぎたい、今よりいい自分でありたいと思っている。だったら、体力のあった昔のやり方で、本当にこの先もうまくいきますか、と。20代のがむしゃらはそれでいい。でも30代になると、何でも引き受けて期日ギリギリで乗り切るやり方は、効率が悪いと薄々気づいている人が多いんです。

実際、ずっとがむしゃらでやってきてミスが増えていた人が、大事な場面で「余裕がなさそうだ」と任せてもらえなかった。それでやり方を変えて、仕事を整理してコンディションを整えたら、上司にすごく喜ばれた、という例もあります。仕組みさえ作れば、これまで続かなかった人も続くんですよ。

――たとえば勉強だと、どう仕組み化するのがいいんでしょう。NHK出版では、語学テキストを多く出版しているので、語学を学ぶうえでのおすすめの仕組み化があれば教えてください。

個人的には仕組み化の前に、「必要性をどれだけ高められるか」が鍵になると思っています。

「いつか海外旅行に行くかも」くらいの理由で英語を毎日続けても、たぶん2年経ってもあまり伸びないと思います。でも海外赴任で英語しか通じない、となったら、やるしかない。同じノルアドレナリンでも、必要性のレベルが違うんです。だから初期設定がすごく大事で、自分が少し不安になるくらいの目標を持つこと。「絶対に転職する、それにはこの資格がいる」という前提から逆算して仕組み化していくといいと思います。

加えて、階段を細かくすること。英検なら級、TOEICならスコア、とある学習塾では55段階を売りにしてますよね。人間って、進歩が見える化されているとモチベーションになりやすいんです。また高額な英語コーチングが短期間で伸びるのは、時間をブロックしてステップを刻み、やっただけ上がると見せているから。そのゆるい版を自分で設定するのが良いと思います。もし自分一人で設定するのが難しいければ、最初だけコーチングやそういったサービスを使って“勘所”をつかんでみるのが良いかもしれません。

いま学んでいることと、今後の展望

――角谷さんが、現在進行形で学んでいることはありますか。

やっぱり認知行動療法ですね。自分の考えを変え、感覚を変え、習慣を変える方法で、基礎として勉強できるものはほぼやってきました。それでも講座に行き、学会に入り、日本のトップ、世界のトップのセッションを実際に見に行く。海外の資料は翻訳してもらったりもします。

トップを見るのは大事で「世界のトップはこのレベルでやっているのか」が分かると、自分のスタイルでそこに勝つにはどう行けばいいかを考えるんです。それがめちゃくちゃ好きで。正直、勝てる道筋も見えている、というと言いすぎですけど(笑)。

――セミナーにも出て、研修もして……。一日の時間が足りないのでは。

本当にないです(笑)。

じつは毎朝2時半に起きて、3時前にはオフィスにいます。25分刻みで一週間ぶんの予定を組んでいるので、“何をしようかな”と迷う時間はない。夜は8時台に寝るので、睡眠は6時間くらい。夕方に仕事を終えて、子どもと図書館に行って、ご飯を食べてお風呂に入って読み聞かせをして寝る、という毎日です。だからこそ、こぼさないように夜の振り返りの時間を取っているんです。

いまは、今年18年ぶりに診療科名に"睡眠障害"を掲げられるようになったこと*にも注目しています。これまで睡眠の悩みは精神科か内科か迷いがちでしたが、"睡眠障害"を専門にうたえるようになる。ただ日本では、不眠症の認知行動療法が保険適用されたのはごく最近で、対象も限られていて、実践できる医療機関は現時点ではまだ多くないと考えています。そこで自分のノウハウをクリニックと連携して渡し、看護師さんが実践できるマニュアルを作ったり、コーチやAIを育成したりしています。学会で論文も出したいし、本も3冊が書きかけで止まっていて……やりたいことが多すぎて、どの仕事を選ぶかが目下の悩みですね(笑)。

*診療科名の組み合わせとして“睡眠障害”を掲げられるようになりました。たとえば“睡眠障害内科”などの形で表示できるように。

――最後に、角谷さんにとっての「学びの秘訣」を一言で表すとしたら何になりますか?

もう、絶対に“仕組み化”です。いかに意志力に頼らずできる仕組みを作るか。やる気に左右されないこと。それに尽きます。寝る前に書くという仕組みがあって、書いて寝れば、それがそのまま勉強になっている。あとはその仕組みを作るだけ。2時半に起きるのも、すごいと言われるけど、僕の中ではただの“普通”。仕組みがあるから、トントンと起きるだけなんです。

――ありがとうございました! 意志力でも気合いでもなく、続く仕組みを整えていく。それが角谷さんの“学びの秘訣”でした。

【編集後記】「気合いは100億パーセント信じていない」と笑う角谷さん。けれどそれは投げやりとは正反対で、続けられる仕組みと環境をどこまでも丁寧に整えていく姿勢の裏返しでした。一日の小さな気づきをノートに書きとめ、眠っているあいだに“進化”につなげる。私たちが流してしまいがちな時間を、学びに変えていく。今日からまねできそうなヒントが、たくさん詰まったお話でした。

角谷リョウ(すみや・りょう)|睡眠&超回復研究所 代表/パフォーマンスコーチ。都市工学を専攻し神戸市役所に勤務後、パーソナルトレーナーを経て睡眠改善の専門家に。Lifree株式会社の共同創業を経て、これまでに延べ14万人超の睡眠改善をサポート。大手企業の睡眠改善・コンディショニング研修を多数手がける。上級睡眠健康指導士、Garminコンディションアドバイザー。著書に『働くあなたの快眠地図』『働く女子のための睡眠革命』(共著)などがある。
Note:https://note.com/suimin_ryo

STAFF
Photo : Yoshihiro Niimi
Text&Edit : Shun Inoue