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 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーのひとつであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

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 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む「歌ってみた」などの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。

 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名を超えるメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さでシーンに大きな影響を与えている。

 前回までにOriensのメンバーとして赤城ウェン、宇佐美リト、緋八マナについて執筆してきたが、今回はOriensの最後のメンバーとして佐伯イッテツについて触れていこうと思う。

■イケボとネットミーム、まさかの同居

 佐伯イッテツは、同期である3人とおなじ2023年4月2日に初配信し、4人によるリレー配信でトリを務めてデビューを飾った。佐伯といえば、なんといってもその声色が特徴的。リスナー、同期メンバー、先輩や後輩らが口を揃えて「声が良い」「イケボ」と評する声は、一言でいえば「ダンディ。

 雄々しさのある声で多くの女性ファンからの支持を得ている一方、本人自身は非常に感情豊かなタイプである。よく笑い、泣き、戸惑い、さまざまな表情と輪郭をファンに届けているのだ。

 どんな人でも声から発せられるイメージ像があるとおもう。声が細いと小柄、可愛らしい声なら愛らしい風貌、声が太いと筋肉質……といったイメージだ。佐伯の配信を見ていると「その声でそんなことを言うのか……」と思ってしまうことが多々ある。それも、一度や二度ではない。ダンディな声でありつつ、その声とイメージに縛られないギャップが魅力の人物。それが佐伯イッテツといえるのかもしれない。

 そんな“彼らしさ”をさらに印象づけるのは、彼がネットミームを中心にしたアニメ・マンガ・ゲームネタが好きであるという点だ。試しに彼のXをのぞいてみれば、一目瞭然だろう。プロフィールには「モットーは悪・即・斬」と、『るろうに剣心』斎藤一の言葉が掲げられ、ヘッダーには90年代末から00年代初期(平成中期)頃のインターネット黎明期を思わせるチープなデザインと色使いを模した自己紹介画像、YouTubeのチャンネル説明欄には「やあ (´・ω・`)ようこそ」から始まる“バーボンハウス”ネタ……ネタの大渋滞だ。

 配信でも基本的にテンションはおなじだ。さまざまなネットミームが自然と口から出ては、時折「何のネタ?」「それって◯×△?」とネタについてツッコまれ、嬉々として説明する姿が見られる。佐伯いわく「小学校の頃からインターネットに触れていた」とのことで、幼い佐伯少年の脳に自然と“居付いた”といって良いのかもしれない。

 これだけに留まらず、00年前後(平成中期)のインターネットネタはもとより、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽や映画といったサブカル領域全般のミームや小ネタをピックアップし、動画やサムネイルに入れ込むことが多い。彼が元ネタと言える作品を網羅しているかはひとまず置いておいて、インターネットというどこか浮ついたカルチャーを無邪気に楽しみ、自分を体現するものとしてこれまでの活動で表現してきた。

 こういった嗜好性が影響してか、彼の作る画像や動画は“ネットカルチャー味”のする独特なセンスがにじみ出ている。また佐伯は、動画・画像作りも得意なのだという。

 VTuberの配信サムネイルは、時折ファンが描いてくれたファンアートを使うこともあるが、イチから自作しているものがほとんど。こうしたサムネイルを見るだけでも、彼のセンスが伝わってくる。

 たとえば、彼のアーカイブを見ていくと、ときおり緑一色のグリーンバックそのままなサムネイルが目に入ってくるのだが、これは突発で配信を行う際に使われているもの。さすがに配信中は制作してもらった自室からお届けしているが、ふつう透過用の素材として使われるグリーンバックをわざわざサムネイルに使い、それで良し!としているのが佐伯らしい。

 さまざまな言動から垣間見えるネットカルチャー由来のセンスをみると、強いクセモノ感があるのは確かだろう。低めの声色で穏やかな人物かとおもいきや、ネットミームやサブカルネタをためらいなく言葉にして、あれこれと笑顔で話していく。

 そのギャップたるや、現状彼らについている若い女性ファンよりも、筆者のようなアラサーの男性ファンすら引き付けられてしまう。

 その真価は、佐伯イッテツの3Dお披露目配信「3D初見プレイPart1」にある。あなたはいくつのネタとミームに気づき、混在したデザインとテクスチャーを楽しめるだろうか。

■佐伯自身も“よくわからない企画”がなんと40本も?

 さて、そんな佐伯がどんな配信をしているのか。ゲーム実況以外にもさまざまな企画に挑戦している佐伯なのだが、そのクセの強さも人一倍だ。

 某ゲームを模した「サイキクラフトアドベンチャー」という架空のゲームを編み出してフィットネスをする、三連休中の企画配信としてコメントに指示してもらってスイカ割りを試みる、スタジオに出ると称して実写動画を流し、石を料理して食べるなど、体を張っているどころではないレベルの企画配信をしばしば行なっている。

 こういった企画配信は、佐伯のYouTubeチャンネルで「よくわからない企画集」として再生リスト化されており、現在まで40本以上もの動画が再生リストの中に入っている。デビューから約3年以上経ち、本人ですら「よくわからない」といえる企画を40本分も考え、配信上でみせているのは、単純に末恐ろしさすらある。

 自身で考えた無理難題に体当たりでのぞむ姿は、にじさんじの公式切り抜きチャンネルでも捉えられている。

 そんな佐伯だが、同じグループで活動する赤城、緋八、宇佐美の3人からは「人見知り」だと言われている。普段の配信で見せる笑顔いっぱいの佐伯からはなかなか想像できないが、「大人数になると途端に何を話せばいいかわからなくなってしまう」というのは、筆者も経験がある。

 そういった自身の気質については佐伯本人もわかっており、「人見知りというより、内弁慶なんだと思う!」という自己評価をリスナーに話していた。

■人見知りで内弁慶、そんな彼の司会進行から見えるもの

 佐伯が大人数のときに置かれているポジションを気にしてみると、石神のぞみとともに司会役を担当し、同時期にデビューした面々にくわえ、先輩・後輩・海外メンバーを含めてビシビシと仕切っていたのが記憶に新しい。

 同じくネットカルチャー好きである石神とはVTA時代から親交を深めており、何かとイジりやすい石神が横にいることで佐伯も緊張がほぐれ、スムーズに司会をこなせていたようだ。

 配信を通じて上述したようなネタ動画を生み出し、普段の会話からネットミームやネタを積極的に引用する佐伯は、はたから見るとボケ役に見られがちだ。

 だがこうした場に立つ時の彼は、相手の出方を見てアレコレとツッコミを入れ、しっかりと場を回している。そういった姿を見ていると、彼のセンスがあくまで自分に向けられたものであること、そして“根はしっかり者”であることが伝わってくる。冗談は冗談、ボケはボケとして自覚してコントロールしているのが、こちらにも伝わってくる。

 佐伯が在籍するOriensと、同期グループのDytica。彼ら8人によるMECHATU-Aは、7月22日にはファーストミニアルバム『On-Deck!』がリリースされ、2026年10月10日にはファーストライブ『Over Drive!』をKアリーナ横浜で開催する予定となっている。

 現在のにじさんじにおいてもっとも勢いがあるといっても過言ではない8人。彼ら8人がずらりと並んだとき、個性豊かなライバーたちをひとまとめにして司会をするのは、佐伯イッテツその人なのかもしれない。

 おもえば、にじさんじはこれまでもネットミームやネットカルチャーに高いアンテナを持ったタレントを生み出してきた。“始祖”である月ノ美兎にはじまり、社築、花畑チャイカ、春崎エアル、リゼ・ヘルエスタ、周央サンゴ、石神のぞみ……。後輩も含めるならば栞葉るりや渚トラウトらも入るだろう。

 この系譜の中に、もちろん佐伯も入るはず。なによりこのメンツを見ればわかるように、司会役もしくは引っ掻き回す役となり、場をコントロールする人物が多い。自身の発する言葉に自覚的だからこそ、自身の言動をカメレオンのように変え、場に適応してしまう……そんな柔軟性、ある種の空気読みのようなスキルが、佐伯の中にもあるのかもしれない。

 ネットカルチャーに染まった様々なネタを飛び道具のように放ちつづける佐伯が、この日のこの瞬間だけは、7人のトークを切り盛りしながら約2万人の視線をものの見事にコントロールしていく。そんなシーンが生まれれば、それは痛快なモーメントになるんじゃないだろうか。筆者は、密かにそんな期待をしている。

(文=草野虹)