富裕層の中には「AIに子どもの教育を任せる人」もいる

富裕層の中で「AIを活用した教育システム」を採用する学校に子どもを預ける保護者が増えていると、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じています。
Wealthy Families Swap Traditional Classrooms for AI Tutors and ‘Alternative’ Schools - WSJ
https://www.wsj.com/us-news/education/alternative-education-wealthy-families-ai-cd7922b3
https://www.theverge.com/ai-artificial-intelligence/961505/wealthy-ai-schools-alpha-forge-prep
ヘッジファンドの社長を務めるアンクル・ジェインさんには、11歳の息子アルジャン君がいます。アルジャン君はアメリカのニュージャージー州マディソンにある公立学校に通っており、学校生活を楽しんでおり、成績も優秀だったそうです。ジェインさんもアルジャン君の通う学校に何の不満も抱いていませんでした。
しかし、ジェインさんは近隣のリビングストンに新しく開校する「フォージ・プレップ」という学校に興味を抱いたそうです。この学校は、現実世界の問題解決・ビジネス構築・製品設計などを学ぶことができるという、非常に実践的な学校であるとのこと。
特に、ジェインさんが20代になるまで身につけることができなかった交渉術や営業スキル、人前で話すスキルなどを息子に学ばせることができるという点で、フォージ・プレップはジェインさんの起業家精神をくすぐったそうです。
ジェインさんは公立学校よりもフォージ・プレップを好む理由を、「未来は変化しています。もしも私たちが60年、70年、80年前と同じ方法で子どもたちを教育するとしたら、どうやって子どもたちに未来に向けた準備をさせることができるのでしょうか」と語っています。

フォージ・プレップは、2026年秋に開校予定で、当初は4学年分、合計34人の生徒が在籍する予定です。その後、最終的に12年生(高校3年生)まで学生を受け入れ、合計400人程度の生徒が在籍することになるとのこと。卒業生は卒業後に会社を設立し、フルタイムでその会社に携わる場合、フォージ・プレップから20万ドル(約3200万円)の投資を受ける事が可能となります。
フォージ・プレップの初年度の授業料は2万4000〜3万6000ドル(約390万〜580万円)で、学生の30%が奨学金などの経済援助を受けることが可能です。ただし、2027年度の授業料は6万ドル(約970万円)に値上がりする予定となっています。
フォージ・プレップのテクノロジー活用方針には、「スマートフォンの使用禁止」「Chromebookの使用は最小限」などがあります。指導員は全員元教師で、子どもたちはAIを「消費ではなく創造のために」使うそうです。
Forge Prep
https://forgeprep.org/

ジェインさんのように、高所得層の保護者の間でオルタナティブ教育が注目を集めているそうです。一流の幼稚園などに子どもを通わせる余裕のある家庭は、新しい選択肢を模索しているとウォール・ストリート・ジャーナルは報じています。
高所得層は生活スキルを重視し、教師を「ガイド」や「コーチ」と呼ぶような学校を探しているとのこと。中には、子どもの個々のニーズに合わせてカリキュラムをカスタマイズするAIベースのチューターを活用する学校も登場しています。
従来とは異なる選択肢を検討している保護者は、AIが経済に大きな影響を与える可能性が高く、従来の学習方法はもはや通用しなくなると考えているためです。実際、ジェインさんが息子の通う学校として選んだフォージ・プレップの資料には、「1940年ではなく、2040年のために作られた学校」であることがアピールされています。また、フォージ・プレップはAIチューターや少人数制の実践的な学習が、より個別化されたカリキュラムを実現する機会を提供するとも述べました。
このような学校は、公立学校とは異なり州に指標を報告する義務がないため、相対的な有効性を評価することは難しいとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘しています。

フォージ・プレップ以外にもオルタナティブ教育を提供する学校はあります。幼稚園から8年生(日本の中学2年生)を対象とした「アルファ・スクール」は、2014年にアメリカのテキサス州オースティンで設立された学校で、2025年時点でサンフランシスコやニューヨークを含む全米各地に8校を展開しています。さらに、2026年秋には追加で20校が開校予定という人気の学校です。
サンフランシスコ在住のベンチャーキャピタリストであるショーン・ジョンソンさんは、息子をアルファ・スクールに通わせる予定です。アルファ・スクールの幼稚園では、AIを活用した2時間の個別指導が行われたのち、インタラクティブなプロジェクト型ワークショップが行われています。なお、アルファ・スクールの幼稚園の年間授業料は7万5000ドル(約1200万円)です。
ジョンソンさんは息子が入学予定だった公立幼稚園に不満を抱き、アルファ・スクールへ通わせることを決めたそうです。「現状の教育制度には問題があることは認識しており、それを改善しようとする起業家が間もなく現れることとなるでしょう。必要なのは特定の分野の知識を暗記することではなく、臨機応変に考え、世の中を渡り歩ける能力を持つ人材を育成することです」とジョンソンさんは語っています。
ジョンソンさんはアルファ・スクールの最大の魅力を、「子どもにパーソナライズされた学習方法を提供してくれる点」と語っています。アルファ・スクールでは、AIを用いて生徒の学習状況、特に集中力などを記録するそうです。そして、生徒の学習成果に応じてその後の学習カリキュラムが変更されます。
アルファ・スクールのファンには億万長者のビル・アックマンさんも含まれています。アルファ・スクールの広報担当者によると、アルファ・スクールで対面式のガイド(教師)を務める人物は、10万ドル(約1600万円)以上の報酬を受け取っているとのこと。さらに、AIソフトウェアのサポートを行うリモートコーチ(教師)も複数雇用されているそうです。

ニューヨークのアルファ・スクールに子どもを通わせている保護者の多くは、ベンチャーキャピタルを含む金融業界で働いているか、起業家だそうです。一方、ベイエリアのアルファ・スクールに子どもを預けている保護者は主に、テクノロジー関連の職業に就いているとアルファ・スクールの広報担当者は語りました。
スタンフォード大学のキャロライン・ホクスビー教授は、フォージ・プレップやアルファ・スクールのようなプロジェクト型学習は何世紀も前から存在していると指摘。これらの学校が新しいのは、AIを組み込んだハイブリッド型のプログラムを提供しているという点にあるそうです。
ホクスビー教授は、特にテクノロジー業界で働く保護者たちの間で、AIがルーチン思考やパターン思考に取って代わるだろうという認識が広まっていると指摘。「従来とは異なるツールを子どもたちに使うことに非常に積極的です」と語りました。
ただし、AIを用いた学習の有効性がほとんど明らかになっていないともホクスビー教授は指摘。さらに、「科学的・実証的な証拠がほとんどない教育を、私は決して支持しません」と語り、AIを用いた教育に否定的な見解を示しています。
一方、アルファ・スクールの広報担当者は「アルファ・スクールは、数十年にわたる基礎研究に基づいてAIモデルを構築する上で貢献してくれる世界的に著名な学習科学者たちの協力を得ています」と語り、「科学的・実証的な証拠がない教育」というホクスビー教授の指摘に反論しました。

小規模なマーケティング会社を経営するレンツィ・ストーンさんは、中学3年生の息子のためにアルファ・スクールの自宅学習用ソフトウェアに月額800ドル(約13万円)を支払っています。ストーンさんはこれまでに2人の子どもの教育に、30万ドル(約4900万円)以上を費やしてきたとのこと。
ストーンさんは学校の文化やコミュニティには満足しているものの、学業成績には失望していると言及。AIを活用すれば学生のスクリーンタイムをはるかに生産的なものにできると主張し、「これは我が国にとって大きな転換期であり、カリキュラムを根本的に見直す必要があると思う」と語っています。
