セクハラをとがめられると「ふざけんな!しばくぞ」と発言した(siro46 / PIXTA)※写真はイメージ

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「子どもは2、3年待ってくれ」「作るな」――。鉄鋼などを扱う専門商社X社で部長職にあった上司Aが、部下の女性社員に放った言葉だ。

Aは長年にわたり複数の女性社員へセクハラ行為を繰り返していたほか、人事評価をちらつかせた威圧的な言動も問題視されており、「社内の他部門に頭を下げたくない」との理由から業務遂行における問題行動も起こしていた。

そのためX社はAを懲戒解雇したが、Aはこれを不服として解雇の無効を求め提訴。裁判所は、この懲戒解雇を有効と判断した。

以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

X社は、鉄鋼や金属などの販売や輸出入を行う会社だ。問題となった上司Aは部長職にあり、勤続約20年だった。多くの課を掌握する立場にあり、裁判所は「要職にあった」と認定している。そのような立場の人間からセクハラや評価をちらつかせる脅し発言をされても、部下は文句を言えないだろう...。以下、問題行動を見ていこう。

■ 口頭指導
解雇の約10年前、ある女性社員がX社に対し、上司Aからのセクハラ被害を訴えた。Aから「経験人数は何人?」「土日、泊まりで●●に行こう」と何度も誘われたり、身体を触られたりしたという内容だ。これを受け、X社はAに対して口頭指導を行った。

■ 厳重注意
しかし、Aの行動は改まらなかった。解雇の3年前、別の女性社員とタクシーに同乗した際、肩を抱き「今から俺んちに行こうよ」「今晩は泊まろうよ」などと関係を迫ったため、X社から厳重注意を受けた。

■ 歓送迎会での問題行動
2度あることは3度ある。解雇の8か月前、歓送迎会にて、上司Aがまた別の女性社員の胸や太ももを触ったのだ。本人が嫌がっても、周りが注意をしても、セクハラ行為を止めなかった。それを見ていた別の女性社員が「証拠を残して人事に言います」と忠告したところ、上司Aは「ふざけんな!しばくぞ」と吐き捨てた。

■ 「子どもを作るな」発言
上司Aが所属していた部の一般職社員は1人だけで、その社員は女性だった。Aは、女性社員に対して、「子どもは2、3年待ってくれ、作るな」と言ったのだ。女性社員は「でも授かりものですし、早めに一般職社員を入れてください」と返したところ、Aは「新入社員はコストがかかるからダメ」と発言した。

それだけではない。「あなたは新入社員の指導員だからすぐにいなくなられたら困る。2年、3年はラップして一緒に仕事してもらわないと困る」「だから子どもは待ってくれ。子どもの予定はどんどん遅れたら遅れるだけいい、なんなら離婚してくれたっていいねんで!」と笑いながら述べた。

■人事評価をちらつかせて脅す
上司Aは、毎年、自己申告の時期になると、女性社員に対して「自己申告は人事しか見られないって言ってるけどあれは全部ウソやからな。私には全部筒抜けや、余計なこと書くなよ、評価に響くで~!」と脅しめいたことを述べた。

また、「評価したってんねんから、それぐらいやってくれよ」「断るん?評価してるのに?」などと頻繁に述べた。

■ 業務遂行における問題行動
以上の部下の女性らに対するハラスメント行動以外にも、Aの日頃のごう慢な態度が、取引先に迷惑をかける事態を招いた。

営業担当者の承認漏れにより、取引先への支払いが遅れたときのことだ。Aが財務課長に直接申請すれば大ごとにならなかったはずが、Aは「社内の他部門に頭を下げたくない」と対応を拒否。この理不尽なこだわりのため、営業担当者が取引先に謝罪し、支払いを1か月遅らせてもらう事態へと発展した。

■ 被害申告と懲戒解雇
ついにガマンの限界に達したのだろう。3名の女性社員がセクハラ被害をX社に訴え、会社による上司Aへの事情聴取が行われた。Aは、「大部分が人間関係が成り立っている前提で発言したものばかり」などと反論したが、そう思っているのが“本人だけ”なのは世の常である。X社はAの言い分を認めず、懲戒解雇とした。

そして、この処分に納得できないAが、「懲戒解雇は無効」と主張し提訴した。

裁判所の判断

裁判所は、X社による懲戒解雇を有効と判断した。

各行為についての裁判所の判断は、以下のとおりだ。

セクハラ行為について
女性社員の胸や太ももを執拗に触ったり、性的で卑猥な言動を長期にわたり繰り返し行うなどしており、このようなAの言動は、いずれも不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性社員に対する言動として極めて不適切なものであり、その勤務環境を著しく害するものである。

■ 子どもを作るな発言
個人が自由に決めるべき私的な事項に不当に干渉するもので、極めて不適切な言動である。

■ 人事評価をちらつかせて脅す
Aは、業務に関する事項についても部下に対して人事評価をちらつかせており、会社の業務に与える悪影響も看過できない。しかも、社内の他部門に頭を下げたくないという理不尽な理由で財務部への申請を拒否したことにより取引先への支払いが遅れており、かかる行為は、取引先からのX社の信用を失墜させる重大な規律違反行為である。

そして、裁判所は以下の理由を述べて、上司Aの懲戒解雇を「有効」と結論づけた。

Aは要職にあるにもかかわらず、悪質な規律違反行為を繰り返し行っており、部下職員の士気に与える悪影響は大きく、職務内規律に与える悪影響も重大である そして、Aは従前にも不適切な言動を行ったとして口頭注意や厳重注意を受けたことがあり、行いを改める機会は十分あったにもかかわらず、同様の行為を繰り返した その上、部下に対し、人事部に提出する自己申告書に記載しても私には全部筒抜けだから「余計なことは書くなよ、評価に響くで」と述べて脅していたというのであり、規律を遵守する意識に乏しいというほかない 最後に

一般に、懲戒解雇は労働者にとって極めて重い処分であり、その有効性が認められるには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められる。

しかし本件では、個々のセクハラ行為の悪質性に加え、①管理職という優越的な立場を濫用していたこと、②妊娠・出産という私生活に不当に干渉したこと、③人事評価をちらつかせ部下を威圧していたこと、④過去に複数回の注意を受けても改善が見られなかったこと、などが総合的に考慮された。裁判所は、これらの行為が企業秩序を著しく乱す重大な規律違反にあたると判断したといえる。

職場での不適切な言動は、一つひとつが軽微に見えても、積み重なることで解雇という重大な処分につながりうる。特に管理職の言動は、部下や職場全体に与える影響が大きいことを自覚する必要があるだろう。本件の判断が、今後の労務管理を考える上での参考になれば幸いだ。