精神科病院における暴力という問題に切り込んだ衝撃の漫画『暴力病院』(竹書房)。本作は、著者の水谷緑さんが、精神科病院に勤務する実在の関係者から得た証言をベースに、フィクションとして再構成した作品だ。

マンガを読む】働き者のやさしい先輩が、患者を“キレながら蹴る”暴力男に豹変…「姥捨山と呼ばれた精神科病院」で目にした“衝撃の光景”とは

 日常化する暴言・暴力と、それに麻痺していくスタッフたち……。関係者が重い口を開いた「現場のリアル」とは。著者の水谷さんに聞いた。(全2回の1回目/マンガを読む)


『暴力病院 看護助手が精神科で見たもの』より ©︎水谷緑/竹書房

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明るい病院とは真逆の「暴力病院」

──水谷さんは、精神科をテーマにした漫画をいくつか発表されています。ですが、今回『暴力病院』の執筆にあたって取材した病院は、今までとは全く毛色が違ったそうですね。

水谷緑さん(以下、水谷) 今まで取材した病院は、雰囲気が明るくて、スタッフの方々も熱意や活気にあふれているところばかりでした。ただ、真逆な状態の病院もあることは以前から聞いていました。

──真逆、といいますと?

水谷 まず、昼間でもカーテンが閉めきりで、とにかく暗いそうなんです。患者さんに光の刺激を与えないようにしているのかもしれませんが、食事中でも関係なく、常に薄暗いと聞きました。あとは、臭いが強烈だと。

──臭い?

水谷 その病院では、病室のベッドにそれぞれ個別のトイレが備え付けられているんです。患者さんは自分のトイレで用を足すのですが、水が流れるのではなく、そのまま放置されていて。

 しかも、便座には蓋がないので便が丸見え。看護助手さんが汚物を確認して水洗トイレまで捨てにいくんですが、それまでは放置されたままなんです。

 だから、便の臭いが充満していて、部屋に入った瞬間に吐き気がするくらい強烈な臭いがするらしくて。その部屋の患者さんたちは諦めているのか、病気や薬の影響なのか、ボーッとしたままベッドに横たわっていて、無反応みたいなんですけど。

──今まで取材した病院は、とても雰囲気が明るかったと聞きました。この病院はどうなんでしょうか。

患者が人として対等に扱われていない

水谷 看護師さんの話を聞いていると、患者さんとの距離をすごく感じました。これまでの病院は、看護師さんが患者さんを一人の人間として扱い、丁寧に接していましたし、患者さんがどうしたら良い方向に進むのか、普段からよく話し合っていたんですけど……。

 その病院は、看護師さんたちが本人の聞こえるところで、患者さんたちの悪口を言っているみたいなんです。ナースステーションでも食堂でも、患者さんを見ながら「アイツらこんなことしたんですよ」「ヤバいですね」と。

──人として対等に扱われていない感じがします。そもそも患者さんは、看護師さんとコミュニケーションを取れる状態なのでしょうか? 

水谷 看護師さんが話しかければ普通に会話ができる人もいますが、モソモソと小声で話す感じの人が多いそうです。あとは、話しかけられただけでビックリして固まってしまう人もいて。もちろん、なかには積極的に声をかける看護師さんもいるみたいですけど。

 その病院には、ある男性の看護師さんがいて。誰よりも率先してテキパキと仕事をこなして、みんなから頼られていたそうなんです。私が取材した看護師さんも、この病院に転職して間もない頃は「この人はいい人そうだな」と思っていたんですね。

 でも、患者さんたちを食堂に誘導するとき、その男性の看護師さんが患者さんに向かって「早く行けよ! バカが!」「このクソが!」と言いながら、背中を蹴っている姿を見たと言うんです。ノロノロ歩く人、反応が鈍い人に対して、業務をスムーズに行うためにやっていたらしいのですが……。

暴力そのものが日常化した現場のリアル

──他のスタッフは止めなかったのですか。 

水谷 誰も何も言わないし、暴力にみんな慣れてしまっているみたいです。そもそも患者さんに対して無関心。決められたシステムの中で最低限の業務だけやって、時間が来たら速やかに帰りたい。そんな人たちがほとんどだと。

──暴力そのものに慣れてしまっているのでしょうか。

水谷 なんとも思わなくなっちゃうんですかね。でも、毎日その現場にいたら、人の暴力を見ても何とも思わなくなりそうだな……とは思いました。患者さんも慣れているのか、暴力を振るわれてもやり返さないみたいです。

スタッフに対する偏見も根強い

──精神科で働く看護師に対しても、偏見があるとよく聞きます。

水谷 それは取材の中でも感じました。他の科に比べて少し下に見られるというか。

 他の診療科のように、患者さんの容態が急変して緊急対応に追われたり、心電図を読み解いて迅速な処置を行ったりする場面は、精神科では比較的少ないそうです。そうしたことが苦手な医療従事者は「お前は精神科で働いて来い」と言われることがあると聞きました。

 でも、精神科の看護師さんは大変な仕事です。患者さんの些細な変化から状態悪化をいち早く察知すること、信頼関係を築くためのコミュニケーション、その人らしさを引き出す工夫など、患者さん一人ひとりとどのように関わるかはすごく大切なことだと思います。

──取材した人たちが働いていた病院では、スタッフの退職も多かったそうですね。

水谷 他の病院で出禁になった人たちが集まる、最後の受け皿のような病院だったこともあって、全体的にモチベーションが低い雰囲気だったそうです。もちろん仕事の充実よりも給料や残業など待遇面だけで続けている人もいますし、どれが正解というのはないんでしょうけど。(つづく)

患者の体を“拘束せざるを得ない”事情も…精神科病院における暴力は「誰かを悪者にすれば解決する問題」なのか〉へ続く

(松永 怜)