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サッカーW杯北中米大会で、新たに加わったルールが物議を醸している。一つは、試合中盤に3分間、時間を止めて飲水タイムが設けられること。もう一つはBTSやマドンナらが出演するハーフタイムショーが決勝戦で開催されることだ。「選手がプレーに集中できない」などと疑問視する声が上がっている。
ジャーナリストの森田浩之氏は、今大会の新ルールをめぐる違和感の本質は、飲水タイムやハーフタイムショーそのものではなく、サッカーが最後まで守ってきた「止まらない時間」が商品として売られ始めたことにあるとみる(以下、森田氏による寄稿)。

◆飲水タイムとショー演出が示した“アメリカ化”への違和感

「サッカーはアメリカのものじゃない!」──サッカーワールドカップ(W杯)北中米大会のスタジアムに、そんな声が響く。批判の矛先は、前後半に1回ずつ設けた3分の飲水タイム。選手を暑さから守る目的で初めて全試合一律に導入されたが、ベンチが指示を出す時間にもなっている。

これでは事実上、アメリカンフットボールのようなクオーター制に変えるものだとの反発が、欧州を中心に巻き起こった。中継ではCM枠に活用できるため、FIFA(国際サッカー連盟)の新たな商業化戦略とも見られている。

決勝で行われるハーフタイムショーにも、反対の声が広がる。シャキーラ、マドンナ、BTSが出演し、中断時間は通常15分のハーフタイムより長い25〜30分になりそうだ。アメフト全米王者を決めるスーパーボウルをまねた形だが、試合の流れを止め、芝にも悪影響を招くと批判されている。

ただし、本当の問題は飲水タイム自体でも、人気歌手がピッチに登場することでもない。サッカーが守ってきた「止まらない時間」が商品として売られ始めたことだ。

アメリカのスポーツは時間を細かく区切る。アメフトもバスケットボールも、実にさまざまな局面で時計が止まる。その合間にCMを入れ、音楽を流し、会場を盛り上げる。スポーツではあるが、試合が止まる時間を売るビジネスでもある。

◆FIFAが切り売りし始めたのはサッカーの「時間」そのものだ

だがサッカーは、頑固なまでに時間を止めない。45分が始まれば、時計は動き続ける。ゴールはいつ生まれるかわからず、その緊張感こそがサッカーだった。

猛暑の中で飲水タイムが必要だという理屈はわかる。だが、その3分に監督が戦術を修正できれば、競技のあり方が変わる。CMが入り込めば、休憩が「売れる」時間になる。

同様に、前後半の間の短い余白を30分のショーに変えれば、45分×2の試合は巨大イベントの一部にすぎなくなる。主役は選手か、ステージか。

FIFAにすれば、自然な流れだろう。世界最大のスポーツを巨大な北米市場で売る。そのために、アメリカ人にわかりやすい形に変える。だがその瞬間、サッカーはサッカーであることの一部を手放す。

サッカーでは、退屈なように見える時間も、実は次のゴールへの伏線になっている。流れを切らないからこそ、試合が一つの物語になる。その時間まで切り売りされるなら、私たちは何を見ているのか。

サッカーはとっくに商品だった。だが、ピッチ上の90分だけが違った。今回FIFAが売り始めたのは、放映権でも広告枠でもない。サッカーが最後まで守ってきた「時間」そのものだ。

<文/森田浩之>

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など