松下洸平はなぜ視聴者を“虜”にするのか 『銀河の一票』で体現した危ういカリスマ性
元幹事長秘書の茉莉(黒木華)とスナックのママから東京都知事を目指すあかり(野呂佳代)が奮闘する『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)も、いよいよラストスパートだ。「私たち民衆は物語に弱い」……と、劇中で何度も語られてきたはずなのに、政治素人で無所属の新人が都知事選に挑むという無謀すぎる物語に、毎週心を揺さぶられずにはいられない。
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『銀河の一票』には、それぞれの物語がある。政界から降ろされた後も社会と接続を持ちつづけたガラさん(岩谷健司)と元西多摩市市長の蛍(シシド・カフカ)、生成AI音声のあまりに急速な発展に心を痛めていた白鳥光留(日髙のり子)、都連非主流派の“神輿”となった風間藍生(梶裕貴)。第3話でちらりと登場した、とし子ママ(木野花)が暮らすグループホームの職員・相良(伊能昌幸)の物語もつづいていたことに驚いた。
けれど、これこそが、第1話で「政治の話じゃないです。私たちの話です。私と、あなたの」と高らかに宣言していた『銀河の一票』らしさなのだろう。
そんななか、最終回を目前にした今も、実はまだ多くを語っていない――いや、まだ本心を明かしていなさそうな人物がいる。民政党・公民党からのダブル推薦を受け、華々しく出馬した日山流星(松下洸平)だ。あかりのライバルであり、幼なじみの茉莉にとっても打倒すべき相手である。
しかし、単なる“敵”として見なすには、あまりに複雑なキャラクターだ。中島みゆきの「悪女」の歌詞のように、「大好きだけど、大嫌い」とか「悲しいけど、腹立つ」とか、たいていのことは「混ざってる」。気持ちだけではない。人もまた矛盾を抱え、簡単には割り切れない存在だ。そんな流星はまさに「混ざってる」人の象徴なのではないだろうか。彼の物語を少し紐解いてみよう。
「ギルバ人質事件」で、武器を持っていないことを証明するために自ら服を脱ぎ、丸腰で犯人との交渉に臨んだ流星は、一躍人気政治家の仲間入りを果たした。頭脳明晰で弁も立つ。人々の心を掴む術を知っている人物だ。
あらためて彼の視点で本編を見返してみると、意外にも(?)流星の出番はそう多くない。流星自身も「映えちゃうんだろうね、どうしても」と冗談めかして語っていたが、実際に彼は登場するたびに視線をさらってゆく。これまで誠実な好青年役で信頼を積み重ねてきた松下洸平が演じることも相まって、毎回強烈な印象が残る。柔和さと胡散臭さ、誠実さと危うさを同居させた松下の芝居は絶品だ。
「もう誰も追い込まない国にする。それができる力や立場を国民1人の死にとらわれて手放しちゃダメだよ。俺たちは影響を与える側にいる。国を背負う人間は個人を背負っちゃいけない」
「あの学部長だけじゃない。毎日たくさんの人が亡くなっている。でもその死のほとんどは、国に影響しない」
第1話で、茉莉が託した告発文を星野幹事長に密告した後の流星のセリフは強烈だった。「もう誰も追い込まない国にする」という流星の理想は、のちにあかりたちが掲げる「誰も消えたくならない東京都」に通ずるものがある。
しかし、そこへ至るアプローチはまるで別物だ。理想を叶えるために多少の犠牲を払っても仕方ないという流星の思想は、ともすれば自己責任論に結びつく危うさがある。そのとき真っ先に取り残されるのは、ガラさんの相談所に駆け込まざるを得なかった人々をはじめ、あかりたちが歩み寄り、声をすくい上げようとしている人々ではないだろうか。
だが、流星というキャラクターを「冷徹な政治家」として片付けられないのは、彼の考え方に共感する人も少なくないと思うからである。生きることに必死で、誰かを思いやる余裕すら失われつつある時代。まずは自分が生き延びなければ――そんな切実さの延長線上にあるのが自己責任論だ。むしろ流星は、いまの時代の空気を誰よりも体現した人物なのだろう。
だが、かつては流星も“取り残される側”だった。会社が倒産した父から無理心中を迫られ、母が家を出ていったという凄惨な過去が明かされたのは第5話のことだ。それでも心折れなかったのが、流星の類いまれなる“強さ”である。彼は、たまたま見かけた若き日の星野に自らの“かわいそうな物語”を売り込む。そこから逆境を跳ね返した流星は、現在の日山流星へと至る。
「ちがうよ、茉莉ちゃん。お父さんは変わったんじゃない。変えたんだよ、自分が背負う物語を」
この流星のセリフを聞いたとき、蛭田直美の前作にあたる『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)を思い出した。区議会議員選挙への出馬を見据えた元テレビプロデューサーの一平(香取慎吾)が、イメージ戦略の一環として亡き妹の夫一家との共同生活を始める物語だ。4人の脚本家による共同執筆作だが、選挙編に突入した終盤の3話は蛭田が中心となって手がけている。
本作にも、選挙当選のために“物語”を背負う主人公がいた。きっちりと地盤を固め、党の公認候補(ちなみに『日本一の最低男』に登場するのも民政党!)として出馬を目前に控えていた一平は、区長選の出馬へと舵を切る。そして、ある企みのために、一平は自分が背負う物語を“日本一の最低男”へと変えるのだ。「言ってたよな、人を動かすのは物語だって」と笑いながら。
もしかしたら一平や星野幹事長のように、流星もまた背負う物語を変える日が来るのだろうか。それとも、いままでの物語を最後まで貫くのか。日山流星、最後までなかなか食えない男である。(文=明日菜子)
