【長谷川 学】東大病院でまたも「ガバガバすぎるガバナンス」が発覚…!今度は医療界の最高権力者に「医療事故隠蔽」疑惑
社会からの信頼に耐え得る透明性と説明責任を備えた運営が不可欠である――。
3月24日、東京大学の「医学系研究科・医学部・医学部附属病院改革検討委員会」(以下、改革委員会)が「改革にむけた提言」を発表した。同委員会は、東大大学院医学系研究科の元教授らが賄賂やソープランド接待を受けたとして逮捕・起訴された事件を受け、医学部や病院のガバナンス改革を進めるという。
委員会は6人で構成され、山口厚・元最高裁判事ら有識者3人と、東大側から東大経営協議会委員の國土典宏東大名誉教授 (70歳)ら3人が選ばれた。しかし、この人事が物議を醸している。
「不祥事に蓋をしようとする人物が…」
「國土氏に東大病院や医学部改革を論じる資格があるのか大いに疑問がある」
そう憤るのは、東大医学部OBで日本心臓病学会創立理事長の坂本二哉・東大健康管理センター元教授だ。國土氏は東大教授や日本外科学会理事長を歴任し、現在は国立健康危機管理研究機構国立国際医療センターの理事長を務める、医療界の最高権力者の一人だ。
疑問の声を上げているのは坂本氏一人ではない。医療界の複数の関係者からも「自らの足元で起きた不祥事に蓋をしようとする人物が、ガバナンス改革を語るのか」と冷ややかな声が噴出している。
いったい何があったのか。話は6年前に遡る。
'20年12月、國土氏が理事長を務めていた国立国際医療研究センター病院(現・国立国際医療センター。以下、国立国際)で、ある心臓手術が行われた。患者は、東大医学部出身の医師・Aさんの70代前半の兄。手術は、内視鏡を用いた手術で、執刀したのは同じく東大出身のH氏だった。
Aさんら遺族によると、執刀医は「すごく簡単な手術で失敗したことがない」と自信満々だったが、4時間の予定が11時間も続くなど不可解な点が多々あった。手術中に患者は心筋梗塞を起こし、約2ヵ月後に死亡。その間、病院側は「原因不明」としたまま特別な対応もせず、H氏に診療を継続させていたという。
調査機構への事故報告を“拒絶”
医療法では、提供した医療に起因し、かつ予期しない死亡が発生した場合、病院側が第三者機関である日本医療安全調査機構に報告し、調査を行うことを義務付けている。医療事故の可能性が高いと考えた遺族は調査を求めた。
ところが、病院と執刀医のH氏は「原因不明だが、この結果(死亡)は予期されていた」などと強弁して調査機構への報告を拒否した。
「病院側は当初、『手術ビデオは保存していない』と主張していた。その後一転して『残っていた』と言い出したが、『ビデオを3人の外部の専門家に見せたが、標準範囲内で問題なし』と重ねて主張。國土理事長と院長の連名の文書で、調査機構への事故報告を拒絶したのです」(Aさん)
遺族がビデオを取り寄せ、日本心臓血管外科学会名誉会長の高本眞一・東大名誉教授ら複数の専門家に見せると、衝撃の事実が発覚する。
この手術には人工心肺が使われた。人工心肺をつけて心臓を止める際、チューブから心筋保護液を注入するが、その際、大動脈基部とチューブの空気を抜くのが心臓手術の基本中の基本。ところがビデオには、少なくとも2回、チューブ内に空気が満たされた状態で保護液が注入されたと見られる場面が映っていた。
「病院側は、長時間のビデオだったため空気が注入された場面を見落とした可能性があります」(Aさん)
患者の死から1年8ヵ月、事態が動くも
高本氏は当時、筆者の取材に「空気除去が不十分で、その結果、心筋梗塞を発症した可能性が高いと思います」と話していた。さらに国立国際関係者はこう声を潜めて語る。
「実は3人の外部有識者は国立国際側が提供したビデオを見て、問題点をきちんと意見書に書いていたのに、それを国立国際側が遺族に伝えなかったのです」
高本氏ら複数の心臓外科の専門家の意見を踏まえ、遺族は改めて第三者機関による調査を求めたが、病院側は「承服しかねる」と突っぱねた。
事態が動いたのは、高本氏が学会誌にこの事例を病院名を伏せて論文発表し、〈患者中心の医療の理念に反した憂慮すべき事態〉と痛烈に批判してからだ。マスコミの報道も始まり、病院側がようやく事故報告に踏み切ったのは、なんと患者の死から1年8ヵ月が過ぎた頃だった。
しかし病院側は、この期に及んでも、過失による医療事故ではないという主張を変えなかった。独自の院内事故調査委員会(外部専門家5人と内部委員2人)を立ち上げ、空気混入と見られる場面があったことを認めつつも「問題ない範囲」とする報告書をまとめた。だが、その5人の専門家は全員が「匿名」であり、遺族が氏名開示を求めても拒否し続けた。
不誠実な病院側の態度に、遺族は国立国際の運営法人などを相手取って民事提訴に踏み切り、さらに執刀医であるH氏を刑事告訴している。
風向きが変わったのは昨年5月だ。第三者機関である日本医療安全調査機構が、73ページに及ぶ「医療事故調査・支援センター調査報告書」を開示したのだ。つづく【後編記事】『東大医学部の新人事に疑問の声が…医学界の最高権威がフタをしようとする“6年前の重大事故”』で詳報する。
「週刊現代」2026年6月22日号より
