【武田 洋子】親・教師は必ず知っておきたい…「発達障害の子に薬は必要?」と問われた小児科専門医が臨床経験をもとに導き出した”納得の回答”
どんな薬にも一定の薬効があるが、同時に「副作用」が出るリスクも否定できない。発達障害の子どもを持つ保護者のなかには、病院で“発達障害の薬”を処方されて「飲ませていいのか?」と心配になったことがある人も、きっといるはずだ。果たして薬物療法とはどのように付き合っていけばいいのか。新刊『発達障害を抱える子どもの「できる!」を増やす作戦事典』の著者で小児科専門医の武田洋子先生が、臨床経験をもとに分かりやすく解説してくれた。
【前編を読む】教育や治療よりも前に大切なこと…小児科専門医が教える“発達障害”の子が将来「自立」するために必要な「2つの力」
「こだわり」「常同行動」への対応法
特にASDを抱えている子は物事に強い「こだわり」を見せたり、同じことをくり返してしまう「常同行動」が出たりすることがあります。たとえば、
●いつも同じ道順にこだわる
●物の並び順が同じでないと嫌がる
●同じメニューの食事を好む
●スイッチをクリックしたがる
●扇風機の羽根を回し続ける
●本のページをめくり続ける
●ドアの開け閉めをくり返す
などが例として挙げられます。こうした行動は生まれつきの特性によるもので、本人にも家族にも非はありません。
こだわりや常同行動に対しては、子どもは気が済むように同じことをくり返すことで安心しているので、無理にやめさせようとするのはおすすめできません。周囲が広い心で受け入れ、上手に付き合いながら暮らすのが得策です。
たとえば、お手伝いなど生活の役に立つスキルを教えてあげ、こだわりや常同行動と共存しながら、日々を平穏に過ごせるように、心がけてください。こうした取り組みは、家族も助かり、子ども自身の将来の社会生活、特に一人暮らしの力につながります。
なかにはたとえば、電車や車の名前を覚えることにこだわり、多くの名称を暗記する「博士型」のこだわりを示す子もいます。このような「こだわり」はむしろポジティブに捉えて、豊富な知識や人格を尊重してください。
日常生活に支障をきたす「こだわり」「常同行動」については、たとえば次のように対応していくことをおすすめします。
●こだわっても問題が起こらないような「替わりのもの」を子どもにすすめてみる
大きいバスタオル→ハンドタオル→ハンカチ→など、手触りが同じものがおすすめ
●誰も困らない時間帯や場所に限定していけるよう、子どもの様子を見ながら試す
(小見出し)薬物療法をどう捉えるか
ここで薬物療法についてお伝えしたいと思います。だいぶご家族の理解が進んでまいりましたが、まだ子どもに薬を飲ませることを懸念する見方もあるようです。たとえば、
●子どもの脳にダメージを与えるのではないか
●発達障害は個性であり、薬を使うのではなく、自然な心の育ちを待つべきではないか
●薬を飲んでも、やめたら元通りになるのではないか
などといったご心配をときどき聞きます。
しかし、薬物療法により発達上の障害特性が緩和され、その子が生まれつき持っている能力を本来のレベルまで十分に発揮できるようになり、明るく前向きになるケースも確かにあるのです。
たとえば、ノートのマス目に収まるように文字を書けなかった発達障害の子が、服薬後はマスのなかに収まる文字を書けるようになった、文字もきれいになったという例はたくさんあります。処方された薬を子どもが「応援団」と呼び、「僕は応援団がついているから」と、見違えるように学習への取り組みが改善し、他の子とのトラブルもなくなった、という例もありました。
成人後にADHDと診断されたある方が、薬を飲んで初めて“脳の静寂”を経験して、
「みんなはこんなシーンとした世界で暮らしているのか。自分の脳は、絶え間なく何かに反応し動き続けていた。その脳が、今は考えようとしたことだけを考えて、あとは沈黙している」
と感動したというエピソードもあります。薬物によりADHDの特性が緩和され、集中できるようになったものと思われます。
もちろん薬物治療がすべての子に必要な訳ではありません。発達障害への対応法にはいろいろあります。ここまでに公開した一連の記事のなかでもご紹介してきた通りです。その上で、必要があれば薬物治療の力も借りたほうがよい、ということです。
薬物療法を含む様々な対応法を十分に活用するためにも、周囲が発達障害のことを理解していて、気になる子がいれば早めに専門機関へつなげるようにしていただきたいと思います。支援によって毎日を過ごしやすく変えていき、子どもを安心で包み込んで、達成感の積み上げを図りましょう。その結果として自尊感情が向上し、薬物治療からの卒業を目指すこともできます。
「発達障害とわかってよかった」
そもそも、発達障害があるか・ないかに関わらず、誰にでも「できること」と「できないこと」があります。また、発達障害の特性は生来のものであり、努力すれば治るわけではありません。ですから、子どもたちは何でもできるように頑張る必要はないのです。誰かができないことは、できる人が代わりにすればいいのですから。
無理をすることなく、「できないこと」は当たり前にヘルプサインを出して助けてもらえる。そのような「生活者」になることを子どもたちに目指してほしいというのが、私の願いです。
自然体を大切にしつつ、「できること」には自信を持って取り組む、そんな大人になれれば十分ではないでしょうか。自分の“得意”を伸ばしながら、必要なときには周囲にサポートを頼める。子どもにはそうなってもらいたいし、また、そのようになれるよう支えていきたいと思います。
「みんな違って、みんないい」
これは金子みすず(*)の「私と小鳥と鈴と」という有名な詩の最後の一節ですが、そのとおりだと思います。
「みんなこうするから自分も」「みんなはできるのに自分は(うちの子は)できない」と考えるのではなく、「違ってもいい。違うからいい。みんな違ってみんないい」と一人ひとりが心から思えるような場に、家庭、学校、そして社会全体がなっていくことを祈ります。
私たち小児科医は、学問と経験の力で発達が気になる子ども達のお役に立ちたいと思っております。早期診断は、早期希望につながります。「発達障害とわかってよかった」と、周囲の方々が前向きな明るい気持ちで、上手に子どもに接することができるようにと願います。
*「ず」は通常、濁点付きのくり返し記号が使われますが、パソコンやスマホで表示されやすいようにあえてこの表記を用いました。
