●ドラマ『100⽇後に別れる僕と彼』の茅野志穂役で「いつもとはちょっと違う新境地に挑んだ感覚」
人は誰かと出会う前から、無意識にフィルターをかけてしまっているのかもしれない。ドラマ『100⽇後に別れる僕と彼』(MBS 毎週火曜24:59〜/TBS 毎週火曜25:26〜放送中)でディレクター・茅野志穂役を演じる鳴海唯が、作品や自身の経験を通して、カテゴライズすること、されることについて考えを巡らせた。

鳴海唯 撮影:佐藤容平

○佑⾺と樹の本音の中に散りばめられた“宝物みたいな言葉”

――脚本を読んだのですが、とても面白かったです。ハッとするセリフや展開がいくつもあり、この物語が映像になったドラマを早く観たくなりました。鳴海さんは最初に脚本を読んだとき、どんな感想を持ちましたか? (※取材はドラマ放送開始前に実施)

最初に脚本を読ませてもらったとき、もやがふわっと晴れたような気持ちになって、すごく衝撃を受けました。佑⾺と樹がずっと嘘をついて、ドキュメンタリーに参加してくれるんですが、最後に語られる2人の本音が、この作品の全てを物語っている。そんな印象的なシーンが最後に描かれるのですが、2人から発せられる本音の中には宝物みたいな言葉がたくさん散りばめられてる印象がありました。

ドラマの題名だけを見ると、LGBTQ+の作品であるというカテゴライズをされるかもしれないのですが、それだけじゃなくて、志穂の女性としての葛藤や、志穂の先輩の尚美さんが抱える育休中の葛藤や難しさといったものもすごく丁寧に描かれているので、ひとくくりにできない面白さがある作品だと、脚本を読んだときに思いました。そして、私がこの脚本を読んでハッとしたように、ドラマを観てくださる方にも同じような体験をしていただけたらいいなと思いました。

――脚本を読んでいて私が一番共感したのが、鳴海さん演じる志穂で。第4話で志穂が自分の考え方について気づきを得たシーンは考えさせられました。

おっしゃっていただいたように、作品を通して視聴者の目線に一番近いのが志穂だと思うので、その役割を担うことができたらいいなというのが最初に思ったことでした。(このドラマは佑⾺と樹の)2人の物語ではあるんですけど、志穂の1人の女性としての葛藤と、ディレクターとして2人に向き合う上での葛藤みたいなものも並行して丁寧に紡いでいけたらいいなと。それを6話という話数の中でどれくらい丁寧に表現できるかは課題の1つでした。



○自分の撮影がないシーンでも現場にいた理由

――志穂はドキュメンタリーを撮っているディレクターじゃないですか。その役を鳴海さんが演じると聞いて、ぴったりだなと思ったんです。というのも、はじめて鳴海さんを取材させていただいたとき、インタビュー中に私の話も聞いてくださって、人に興味がある方なんだなという印象があって。

うれしい。ありがとうございます。

――なので、ディレクターという仕事に就いている人を演じることはどのような感覚だったのかが気になったのですが、いかがでしたか?

今回はいつもとはちょっと違う新境地に挑んだ感覚があって。カメラが自分のほうに向けられてない時間を過ごしたというか、自分が撮影じゃないシーンでもその場にいることが多かったんです。(佑⾺と樹にカメラが向けられている)2人のシーンを撮っているので、私はその場にいなくてもいいんですけど、2人はディレクターの志穂に向けてしゃべっているので。

――カメラに映っていなくても、志穂としてそのシーンに参加する意味があった。

2人をずっと見守る形で、自分のシーンじゃなくても一緒にいる時間が長かったので、志穂なのか私なのか、境界線がない。本当にドキュメンタリーを撮影しているようでした。2人を見ていたいという気持ちに自然となりましたし、志穂は2人に関連する方々の取材にも行くのですが、そのシーンの撮影で、監督がカットをかけてから「ちょっとそのまましゃべっていてください」と伝えて、セリフ以上の言葉が生まれる瞬間もたくさんあって。



――それを鳴海さんが志穂として目の当たりにしている。

はい。そういう瞬間が多々あったので、自分のシーンじゃないときも常に志穂としての感情が蓄積される時間がたくさんあって、不思議な体験でした。いつもは自分がカメラを向けられている側なので、その逆の立場にずっといるという感覚が面白かったです。5話は特にワンカットを意識して監督が撮られていたので、よりドキュメンタリー要素がぐっと強まっていて、全体を通してリアリティがすごくある仕上がりになってるんじゃないかなと思います。

――監督から鳴海さんに演出について何かお話はありましたか? もしくは鳴海さんから聞いたことだったり。

それでいうと、監督の草野(翔吾)さんがディレクターとして一番近くにいてくださるお手本だったというか。

――なるほど! 現場で監督の立ち振る舞いを見ていることも役作りになるわけですね。

そうなんです! 志穂にとっては、このドキュメンタリーが初の監督作品になるんですけど、実際に草野さんが初めてディレクターを務めたときの気持ちを聞かせてもらったり。草野さんもディレクターである志穂という役への思い入れが強かったので、その期待に応えたいという思いもありました。

●演技のワークショップで得た気づき「その時のハッとさせられ具合はすごく面白い体験でした」
○志穂が抱く葛藤に寄り添い、思ったこと

――先ほど、最初に脚本を読んだときの感想を教えていただくなかで、志穂の女性としての葛藤が描かれている点を挙げていたと思うのですが、志穂がそうした葛藤を抱いていることについてどのような受け止め方をされていましたか?

志穂はディレクターとして働くなかで、自分が女性であるということへのコンプレックスみたいなものがすごく強くて、それゆえに偏見を持ってしまっている。私自身も志穂のように性別でカテゴライズされて、悔しい思いをしたことはありますし、いまだにあるのが多分現実だと思います。

なので、この作品はそういうところを美化せずに描いているところが好きなんですけど、私自身は、性別でカテゴライズされたときの悔しさよりも、女性男性とか関係なく1人の人間として見られてるなと感じたときに幸福度がすごくある。志穂もその瞬間の幸せを知ってるから、逆にそういうふうにカテゴライズして見られたとき、嫌だなと思うのかもしれないのですが、それとこれとは今回は別問題だというふうに気合いを入れ直して作品に向き合っていきます。

ただ、志穂の中で解決はしてないと思うんですよね。そして多分これからも解決することはない気がするのですが、自分がそういう扱いを受けているのと同じように、フィルターをかけて誰かに接する状況が生まれているかもしれない。そしてまた、それに気づくという場面もあると思うんです。

マイクロアグレッションと言われるらしいんですけど、無意識の偏見や思い込みで相手を傷つけてしまう可能性は誰しもある。だから、偏見や思い込みをなくそうとするのではなく、自分と違う価値観を持ってる人がいるということを知って、それを知った上で、どのように共存していくかを考える。共感とか理解をすることとはちょっと違うのかなと私は思っていて。だから、まずは知るということが大切なのかなと思ったり。こういう話をすると堂々巡りになってしまうのですが(笑)。



――答えがないから(笑)。でも、考えるか考えないかで大きく違うと思いますし、そんなふうに思考を巡らせている人だからこそ、鳴海さんのお芝居は多くの人を魅了しているんだと思います。

ありがとうございます。

○ワークショップやバイクの免許取得、日常の出来事で得た気づき

――志穂がディレクターとして働くなかで気づいたことがあるように、鳴海さんが俳優をしているなかで気づきを得たことはありますか?

あるワークショップに参加したとき、すごく面白い体験をしたことがあって。3日間のプログラムで参加者は8人ぐらい。その3日間、お互いに誰も本名を教えられないんです。ニックネームを毎日変えて、その名前で呼び合うんですけど、ワークショップの最終日に初めて名前と何の職業をしている人なのかが分かるというもので。

――名前や素性が分からない人と3日間接することなんて、そうそうないですよね。

3日間ずっと「この人は何をしてる人なんだろう?」と思っていました(笑)。もちろん、ワークショップを受けに来ているので、お芝居をやっている人ではあると思っていたんですけど、「この人のお芝居すごく素敵だな」と思った方が普段、俳優ではなくて、グラビアアイドルやモデルの活動を主にされていることが最終日に分かって。

この仕事をしていると、事前にお会いする方のことを事前にWikipediaで調べて、どういう経歴なのかを知ってから出会えるんですよね。だから、その時点でいろんなフィルターがかかっているんですけど、その3日間はノーフィルターで何の色眼鏡もなしに「この人すごく素敵!」と思える時間だった。だから、そこで自分が普段いかに人のことを出会う前から色眼鏡をかけて見ていたかを気づかされる瞬間で、その時のハッとさせられ具合はすごく面白い体験でした。



――芸能の仕事にかかわらず、経歴でその人の印象を勝手に決めてしまうのは起こりうることですし、『100⽇後に別れる僕と彼』にもつながる体験ですね。

職業でカテゴライズしてはいけないと思っていても、無意識にそうしてしまっていることがあるので、それは人と接する上で気をつけたいところではあるのですが、またハッとさせられる瞬間があって、そのことに気づいて改めるんだろうなって。その繰り返しなんだろうなと思います。

最近も少し似た体験をして。別の仕事のために小型2輪の免許を取る必要があって、2日間かけてバイクの免許を取りに行ったんですけど、一緒に教習を受けているのは知らない人ばかりで。お互いに聞かないし聞かれないし、お互いに普段何をやっている人か誰も分からない。それがすごく心地よくて。その中で、みんなで一生懸命検定を受けて、合格して、大人の青春みたいな時間でした。

そのとき、何のフィルターもかからずに人と接する時間って、大人になればなるほどどんどん貴重になっていくんだなということを改めて実感して。そういう出会いがあったときは、いつも気づかせてもらえることが多いので、大切にしたいと思いました。大切にしたいと言っても、自分で作ろうと思って作れるものではないんですけど、絶対に俳優の仕事にとって活きる経験だと思っています。



■鳴海唯

1998年5月16日生まれ、兵庫県出身。2019年に連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)でドラマ初出演を果たす。2021年には『偽りのないhappy end』で映画初主演を務めた。近年の主な出演作に、連続テレビ小説『あんぱん』(NHK)、大河ドラマ『どうする家康』(NHK)、映画『アフター・ザ・クエイク』、ドラマ『MISS KING / ミス・キング』(ABEMA)、ドラマ『シナントロープ』(テレビ東京系)、『テミスの不確かな法廷』(NHK)など。

■ドラマ『100⽇後に別れる僕と彼』ストーリー

性的少数者のためのパートナーシップ宣誓制度について受けたインタビューが、「萌える」と SNS で注⽬を集めた、春⽇佑⾺(伊藤健太郎)と⻑⾕川樹(寛⼀郎)の同性カップル。そんな2⼈に、同棲⽣活を100⽇間撮影するドキュメンタリー取材の依頼が舞い込み、同性愛者への理解を広めたい佑⾺はそれを受諾する。しかしそのとき、佑⾺と樹は、すでに破局していた。佑⾺は樹を説得し、2⼈はカメラの前では仲の良い恋⼈を演じることに。そんなことを知る由もない映像制作会社のディレクター茅野志穂(鳴海唯)は、ありのままの彼らを記録しようと意気込むが……。完璧なパートナーでありたい佑⾺とそんな理想に息苦しさを感じる樹。カメラが捉えたのは、幸せな⽇常か、それとも巧妙に作り上げられた嘘なのか。2⼈の嘘と本⾳が交錯する100⽇間の記録を描いた物語が幕を開ける。