「息子は横領しているのでは」56歳シングルマザーが突如高級外車を買った我が子に疑惑を抱くまで
横領事件や闇バイトのニュースが続々…
2026年5月末、警視庁は自社製品の腕時計8本を無断で売却したとして、大手時計メーカーの元幹部の男(57歳)を業務上横領の疑いで逮捕した。男は「お金がほしかったからやった」と容疑を認めているという。
男は管理職だった2019年末に自社に保管されていた腕時計8本(販売価格約220万円)を持ち出し、買取店にて計約80万円で売却。それから約5年間、40回以上にわたり400本以上の腕時計(販売価格計約9600万円)を売却していたという。男は社内で発覚しそうになった後、行方をくらましてしまう。それから2年後、静岡県内の温泉旅館で働いているところを発見され、逮捕に至った。
順当に勤務していれば、給料とまとまった退職金が手に入ったはずなのに、犯罪に手を染めてしまう。その背景には何があったのだろうか。男は売却した金を飲食費やゴルフに使ったと供述しているが、真実の解明が待たれる。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「従業員の横領疑惑の調査も増えています。その背景には、依存症など心の病がある場合があります。自分の子供が犯罪に加担しているのではという親からの依頼もあります。ただ、調査の中には、依頼者の思い込みというケースも稀にあります」という。
学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修業に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。
これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにして行ったのかも含め、様々な事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮しながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは、56歳の会社員・藍子さん(仮名)だ。「息子の行動が派手になっており、調べてください」と連絡をしてきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定 メンタル心理アドバイザー JADP認定 夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやWeb連載など様々なメディアで活躍している。
貧乏な息子が高級外車を買ってきた…
藍子さんから連絡があったのは平日の午後でした。「今、息子が外車を買ってきました。最近、金使いが荒く、行動を調べて欲しいのです」と言います。それから1時間後にカウンセリングルームに来た藍子さんは、優しい雰囲気の、いかにも“お母さん”という女性です。
「今日、私は息子の休みに合わせ有給をとり、親子で話し合う予定だったのです。でも昼過ぎにすごい車が納入されて、常日頃思っていた不安が爆発してしまい、思わず山村さんに電話してしまいました」
同居する息子について伺おうとすると涙を流しながら「夫と離婚してから25年間、母一人子一人で頑張ってきて、お金のことで苦労させたから……」と嗚咽しています。まずは気持ちが落ち着くのを待ちつつ、切れ切れに話す情報をまとめていきました。
話を総合すると、息子は現在30歳。藍子さんは息子が5歳の時に、暴力をふるう夫と離婚し2人で暮らし始めます。当時、藍子さんは高校卒業からずっと働いている小さな食品輸入会社に勤務しつつ、必死で子育てをします。
「給料は当時手取りで15万円くらい。生活できないので、会社に内緒で夜はスナックや清掃などダブルワークもしていました。それでも稼げるお金には限界があり、お金のことで苦労をさせてしまった。皆が持っているゲーム機が買えないどころか給食費も滞納する始末だったのです」
養育費を得られず、ダブルワークで
当然、元夫からは養育費を得ることはできませんでした。離婚当時、元夫は工場に勤務していましたが、酒が原因でトラブルを起こしていた。社長の温情で働かせてもらっている状態だったそうです。
「その後、元夫は工場を辞めて音信不通になりました。絵に描いたような貧困家庭ですよ。息子の中学や高校の制服もお下がりでしたので、大学進学など夢のまた夢。高校3年の時、息子は『俺は勉強嫌いだし、進学する気はないよ』と言っていましたが、あれは絶対に行きたかったはずです」
息子は高校を卒業すると、介護サービスを運営する会社に就職しましたが、いじめに遭い適応障害を発症、1年間の休養を経て退職します。その後、建設業、飲食店、工場など職を転々とします。しかし、3年前にコンビニを運営する企業に就職し、やっと生活は安定します。
「これは、私がスナックの店員をしていた時代に知り合った男性の紹介なのです。息子は体力も根性もなく人間関係が苦手。男性は『食べ物は好きだよね。それなら、コンビニかスーパーがいいよ』と、今息子が勤務する会社の社長を紹介してくれたのです。あの業界は慢性的に人手不足だそうで、『すぐに来てください』と言われてから3年、仕事が続いており、ホッとしています」
息子が定職に就いたら、藍子さんもやっと子育て卒業です。この3年間はお金の不安からも解放され、離婚後初めて安心を実感したと言います。
「生まれて初めて友達と旅行をしたり、食事に行ったりしました。ずっとお金のことで苦しんでいたので、こんな幸せがあるとも思わず、心の底から幸せでした」
息子がブランド品を買うように…
ところが、半年前から息子の様子がおかしくなったといいます。
「それまで興味もなかったブランド物を購入し、スマートウォッチを新調している。夜出かけてお酒の臭いをさせて帰ってくることも増えました。息子の給料がいくらか知りませんが、手取りで25万円くらいでしょう。そんな贅沢ができるとも思えない。おしゃれになったから恋人ができたのか聞いてみたら『うるせえよ』と言われてしまって……そんなことも初めてでした」
息子の写真を見せていただくと、堅実な印象で、小柄で優しそう。全体的に藍子さんに似ています。
「これは2年前の写真です。今は髪も染めて別人のようです。10日ほど前、どうしても気になり、息子がお風呂に入っているときにスマホを見ると、いかにも美容整形していそうなアイコンの女性と、『大好き』『会いたい』『一緒に寝たい』と恋人同士としか思えないやり取りをしている履歴がありました」
その画面を撮影したものを私に見せてくれました。文面から察すると、ガールズバーの店員のようにも感じます。
「そんなお店に行くお金の余裕はないと思うんです。どうしても真実が知りたくて、息子に聞き出そうとすると、息子の態度が冷たくなり、距離を感じるようになりました。一度、息子が働いているコンビニから、尾行しようとしたらすぐに気づかれて『こういうこと、やめてくれない?』と怒られました。お店からお金を盗んでいるとか、闇バイトみたいなことをやっているとか、そんなことをしていたら、どうしよう」
息子の車のトランクにひそんで尾行するしかない
再び涙を流し始めた藍子さんは「息子の車のトランクにひそんで、尾行するしかない」と思い詰めています。ここまで話して、藍子さんが主に不安に思っているのは、息子の横領疑惑だとわかりました。半年前から続いている息子の分不相応な支出、明らかにガールズバーかキャバ嬢であろう女性との交際疑惑、そして今日の高級車の納入で疑惑が確信に変わったのでしょう。
「親の私が言うのもなんですが、息子は男性としての魅力はありません。高卒で給料も安く、容姿だって悪い部類に属します。“実家が細い”シングルマザー家庭育ちで、父親は失踪中。だから私は、息子に人間には“分(ぶ)”というものがあると教えてきました。『しょせん、貧困家庭出身なのだから身の丈を知りなさい』と今でも言い聞かせています」
これは、息子さんにとって“呪いの言葉”になるのではないかと思ってしまいました。希望や向上心を抱いても母親から「貧困家庭出身なのだから、身の丈を知りなさい」と言われてしまうと、高みを目指せなくなる。
「それに息子は躁うつっぽいところもあるのです。とにかく変なことをせず、平穏に暮らしたい。もし、悪い道に走っていたら、今の段階で食い止めたい。山村さん、調べてください」
最近、素行調査で横領や異性問題が増えてきたことを感じていましたが、母親からの依頼は初めてでした。藍子さんの切実な思いに打たれ、調査をすることにしました。
◇藍子さんが必死に生きてきたこと、息子さんを育ててきたことは素晴らしい。ただ、息子さんのことを決めつけて、縛ってしまっているようにも感じる。現状をしっかり調べて、一緒に貧困を超えて生きてきた二人が健やかに暮らせることを祈りたい。
まずは調査をして、現実を知ることが大切だ。調査の結果とその後は後編「30歳、貧しく育った息子はなぜ高級外車を買えたのか。56歳シンママが我が子を疑った「驚愕の真相」」にて詳しくお伝えする。
