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大分の夏の訪れを告げる恒例の「おはよう野球」が開幕した。県内の職域チームなどが出場し、トーナメント方式で争う。試合は文字通り午前6時から始まる。筆者の所属するOBSチームは、5月23日に初戦を迎えた。

【写真を見る】時速140キロの打球が顔面を直撃…進化するバットの初速に私の反射神経はどう挑み、どう散ったのか 草野球サードで体験したリアルな危機と“紙一重の奇跡”

小さな隙を抱えたまま「ホットコーナー」へ

だがこの日、50歳となった私はいくつかの「小さな隙」を抱えたまま、サード(三塁手)に就いた。このポジションは、右打者の強烈な打球が飛んで来ることから「ホットコーナー」とも呼ばれている。

慌ただしい朝、グラウンド入りはギリギリ。ユニフォームに着替えるのが精一杯で、まともなウォーミングアップ(準備運動)はろくにできていなかった。体も目も、まだ眠ったままだ。

さらに、いつもなら試合前に必ず付け替えるはずのソフトコンタクトレンズのストックを切らしており、日常使いのメガネをかけたままだった。

1/100秒の攻防

野球の塁間は27.431メートル。いつもなら、味方投手の球威や相手打者の雰囲気を見て、ポジションを変えていた。しかしこの日は、朝の慌ただしさのせいか、「まぁ、いいか」と、ベースより約1メートル前寄りの位置に構えていた。

その油断を、現代野球の「スピード」は容赦なく突いてきた。初回、先頭打者への、わずか2球目だった。近年のハイテクバットが放った打球は、体感で「時速130~140キロ前後」とも思える凶暴な弾丸ライナーとなって、私のド正面を襲った。

白球が、26メートルの距離を駆け抜ける時間は、わずか0.6秒強。50歳の肉体は、確かに反応していた。私はグローブを「下から上へ」と突き上げ、必死に打球の軌道を遮ろうとした。かつての現役時代なら、そこで白球はグローブの中に収まっていたはずだった。

だが、進化を遂げた高機能バットの初速は、私の反応速度をコンマ数秒だけ上回った。グローブのわずか上をすり抜けたボールが、私の顔面に直撃した。

脳が激しく揺れ、視界は一瞬で暗転した。

全治約5週間

救急搬送され、診断結果は「鼻骨骨折」。そして左目の下を「9針」縫う処置を受け、全治約5週間と告げられた。

かつての軟式バットといえば、アルミ合金製が主流だった。しかし現在、草野球の現場に普及しているのは、カーボン素材などを使用した高機能バットだ。

多層構造がもたらす反発力は向上し、打球初速はかつてと比べ飛躍的に上昇。さらに軟式野球連盟によるM号球(従来より硬く変形しにくいボール)への統一も重なり、打球速度はより一層増している。

「軟式だから大丈夫」――その油断こそが、最も危険なのだ。

鏡の前で気づいた「奇跡の一致」

この日病院から帰宅後、鏡の前に立った私は言葉を失った。

目の周りはどす黒い紫色に染まり、上唇はパンパンに腫れ上がり、目の下には黒い糸で9針縫われた生々しい傷跡があった。

そして、あることに気がついた。傷跡が、メガネのレンズの輪郭と「完全に一致」していたのだ。

私は強い近視のため、メガネのフレームからレンズがはみ出るくらいにフチが分厚い。あの0.6秒の瞬間、眼球へ一直線に突き進んできた白球を、その分厚いレンズの塊が文字通り「盾」となって受け止め、軌道をわずかに下に逸らしていたと直感した。メガネは割れずに持ちこたえ、私の眼球を守りきってくれた。

コンタクトレンズを忘れ、メガネのまま守備に就いたという「最大の隙」が、皮肉にも私を「眼球直撃」から救う最大のファインプレーとなった。同時に、私はフと思った。

「この位置、どこかで見たことがあるな」

人気漫画『ONE PIECE』の主人公、麦わらのルフィの左目の下にあるあの傷。奇跡的にも、全く同じ場所にその9針の勲章は刻まれていた。「もう引退か」と沈んでいた心に、不思議と現役続行へのガッツが湧いてきた。

【検証】もしも「後方1メートル」に守っていたら

その後、私はサードのポジションについてシミュレーションを重ねていた。

「もしあの時、サードベースより後方1メートルの深い位置に守っていたら、どうなっていたか」

バッターからの距離は「約28.4メートル」に伸びる。あの凄まじい打球速度なら、後ろに下がってもライナーのまま突っ込んできただろう。しかし、空気抵抗と重力により、打球の通過位置は「あごから首」あたりと、確実に数センチは下がっていたはずだ。

その高さであれば、仮に捕球できず体に当たっていたとしても、眼球直撃や顔面骨折というリスクは100%回避できていた。

たった2メートルのポジショニングの差が、生死を分ける。これが、ホットコーナーに身を置く者が現代野球から突きつけられた、リアルな物理的教訓だ。

50歳には50歳の進化した戦い方がある

なぜ顔面を直撃したのか――それは「道具の進化」と「50歳になった自分の身体」の現在地を、私自身が正しく見積もれていなかったことにある。

今回の私の事故は、決して他人事ではない。サードに就くプレーヤーの皆さんには、ぜひ伝えておきたい。

・ウォーミングアップを徹底し、目と身体を呼び覚ますこと
・状況に応じて守備位置を変えること
・一瞬の怠慢を排除すること

道具が進化し、身体が変わるなら、これからの守り方を変えればいい。50歳には50歳の、進化した戦い方があるはずだ。左目の下に刻まれたルフィと同じ“勲章”とともに、私の復帰への大航海は、もう始まっている。