「仕事始めがつらい」は甘えじゃない!【バーンアウト(燃え尽き)】専門家が語る回復のヒント
実はそれ、心がすり減り、仕事にやりがいや達成感を感じられなくなる“バーンアウト症候群(燃え尽き症候群)”かもしれません。
真面目に仕事に向き合う人ほど陥りやすいといわれるこの状態。どうすれば抜け出せるのでしょうか? 公認心理師・臨床心理士で、働く人のメンタルヘルスやブリーフセラピー(短期療法)を専門とする二本松直人先生に、その見分け方や回復の第一歩、日常でできる予防法について伺いました。
“ただの疲れ”とは違う? 感情がすり減る「バーンアウト症候群」の正体
画像:PIXTA--「バーンアウト症候群」とは、どのような状態なのでしょうか。
「仕事などに真面目に向き合い、頑張り続けた結果、心のエネルギーが枯れてしまった状態です。大きく3つの特徴で説明できます。
1つ目は"情緒的消耗感"。これは、忙しさや責任の重さが積み重なり、気力や感情がすり減っている状態です。十分に休んでいるはずなのに疲れが取れず、気持ちに余裕が持てなくなります。
2つ目は"脱人格化"。人と関わる仕事が負担になり、相手に対してうんざりした気持ちを抱いたり、必要以上に冷たい態度を取ってしまったりする状態を指します。
3つ目は"個人的達成感の欠如"。以前はやりがいを感じていた仕事に意味を見いだせなくなり、成果を出しても達成感や満足感が得られなくなります。
例えば、『仕事なんてどうでもいい』と投げやりになったり、『もう辞めたい』という考えが頭から離れなくなったりしている場合、バーンアウト症候群に陥っている可能性があります」
--“ただの疲れ”とバーンアウト症候群は、どこで見分ければいいのでしょうか。
「一般的な疲れは、だるい、眠い、朝起きづらいなどの身体的な不調が中心です。一方で、バーンアウト症候群の大きな特徴は、感情面の疲れが前面に出てくる点にあります。
もともとバーンアウト症候群は、看護師や教員、接客業など、人と直接関わりながらサービスを提供する"ヒューマンサービス職"に多く見られるストレス反応として研究されてきました。
人と向き合い続ける中で気力を使い果たし、バーンアウト症候群に陥ると、『誰とも話したくない』『人と関わること自体がつらい』と感じるようになります。単に体が疲れているのではなく、人に向き合うエネルギーが枯れてしまっている。この点が、“ただの疲れ”とバーンアウト症候群を見分ける大きなポイントといえるでしょう」
--どのような性格や働き方の人が陥りやすいのでしょうか。
「仕事に強く感情移入する人や、完璧に仕事をこなそうとする人は、バーンアウト症候群に陥りやすいとされています。責任感が強く、『自分が頑張らなければ』と無理を重ねてしまうことで、気づかないうちに心のエネルギーを消耗してしまうためです。
また、いくつかの研究では、男性よりも女性の方が陥りやすい傾向があることも示されています。
働き方の面では、単純に業務量が多いことだけが原因ではありません。上司や同僚からのサポートが得られない環境や、仕事とプライベートのバランスが崩れている状態が続くと、リスクは高まります」
--リモートワークやフリーランス人口の増加など、現代ならではの働き方は影響しているのでしょうか。
「もちろん影響しています。リモートワークの普及やフリーランスの増加によって、時間や場所に縛られない自由な働き方が可能になった一方で、その自由さがバーンアウト症候群のリスクを高める場合もあります。
特に問題になりやすいのが、仕事とプライベートの境界線が曖昧になることです。自宅で仕事をしていると、意識しないまま仕事の時間が長くなり、気持ちを切り替えるタイミングを失ってしまいます。
例えば、仕事をする場所と寝る場所が同じ場合、身体も心も"休むモード"に入りにくくなります。その状態が続くことで疲れが慢性化し、知らず知らずのうちにバーンアウトにつながることもあります。現代的な働き方をしている人こそ、意識的にオンとオフを分ける工夫が求められます」
仕事のミスを取り返そうとするのは逆効果? 回復への第一歩
画像:PIXTA--バーンアウト症候群になると、どんな影響が出るのでしょうか。
「まず日常生活に影響が表れやすくなります。仕事で抱えたストレスを家庭に持ち込んでしまい、些細なことでイライラしたり、家族と口論になったりするケースも少なくありません。自分では抑えているつもりでも、感情のコントロールが難しいのです。
仕事面でも、さまざまな悪影響が出てきます。集中力が続かず生産性が下がったり、ミスが増えたりするほか、仕事へのやりがいや達成感を感じにくくなります。さらに、改善や工夫をしようとする意欲が低下し、"ただこなすだけ"の状態に陥りがちです。
こうした状態が続くと、"仕事を辞めたい"という気持ちが強まり、離職を考えるきっかけにもなりかねません。日常生活と仕事の両面に影響が及ぶ点から見ても、バーンアウト症候群は放置すべきではありません」
--状態を悪化させてしまう行動はありますか?
「よく見られるのは、生産性が落ちていることに自分で気づかないまま、"頑張って挽回しよう"と無理を重ねてしまう行動です。ミスやトラブルを前にすると、休むより先に努力量を増やそうとしてしまいます。追い込まれている状態では、自分を休ませるという判断そのものが難しいのです。
その結果、仕事を終えて家に帰ってからも頭が切り替わらず、一人で反省を続けてしまい、十分に休めないまま翌日を迎えることになります。疲労が回復しないまま再びミスを重ね、さらに自分を責めるという悪循環に。知らず知らずのうちに精神的な健康を一層損ねてしまう点が、最も注意すべきポイントといえるでしょう」
--そこから抜け出し、回復するために取り組むべき“最初の一歩”は何でしょうか。
「回復の第一歩として大切なのは、仕事とプライベートの境界を明確にすること。オンとオフを切り替える小さな区切りをつくることが、回復への確かな一歩になります。
『白衣を脱げば、もう医者ではない』と意識的に気持ちを切り替える医師もいるそうです。これと同じように、自分にとっての"白衣"にあたるものを見つけることが重要です。仕事用の服を着替える、パソコンを閉じる、仕事部屋から離れるなど、仕事モードを終わらせるための象徴的な行動を決めておくのです。
その"白衣を脱ぐ"行為が習慣化できれば、仕事のことを考え続ける時間を減らし、自分を回復させるための時間に意識を向けられるようになります」
--最後に、バーンアウト症候群を防ぐための心構えを教えてください。
「大切なのは、感情や対人関係に振り回されすぎないよう、意識してバランスを取ることです。
例えば、相手の感情をすべて受け止めようとせず、少し距離を保ちながら理性的に対応する場面を増やしてみることも一つの方法です。また、自分の担当ではない仕事を安易に引き受け過ぎないことや、上司や同僚などの周囲からの評価を必要以上に気にしすぎないことも、自分を守るうえで大切です。
日々の仕事の進め方や人との関わり方を振り返り、自分の心をすり減らさないための"境界線"をどこに引くかを意識してみてください。その積み重ねが、バーンアウト症候群を未然に防ぐことにつながっていきます」
【二本松 直人 プロフィール】
公認心理師・臨床心理士。ブリーフコーチ・エグゼクティブ、ブリーフセラピスト・シニア。2023年に東北大学大学院教育学研究科博士課程を修了し、教育学博士を取得。日本学術振興会特別研究員を経て、福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター助教を務める。2025年9月より富山大学学術研究部人文科学系講師。
これまで、就労移行支援事業所や学校現場、被災者支援などの現場で、短期療法(ブリーフセラピー)や家族療法を専門とするカウンセリングに従事。組織で働く人々のメンタルヘルスや災害時の支援に関する研究を行っている。
(取材・文/みやざわあさみ)
