記事のポイント
XのCEOリンダ・ヤッカリーノ氏は、Xが時代遅れのメディアに代わる新たな情報プラットフォームを目指すと主張した。
Z世代のユーザー増とAI戦略を強調し、文化的影響力とリアルタイム性を差別化要素とした。
広告主向けイベントにもかかわらず、広告施策に関する具体的な説明は避けた。


XのCEO、リンダ・ヤッカリーノ氏は、依然としてXを「反メディアのメディア企業」と位置づけている。同氏とイーロン・マスク氏が「時代遅れで経済的に破綻した第4の権力」と見なしている既存メディアに代わる革新的メディアがXだというわけだ。

こうした主張は物議を醸しており、ドナルド・トランプ大統領が再びメディアと対立している昨今においてはなおさらだ。だが、米マイアミで開催された「ポッシブル(Possible)」カンファレンスで4月30日に行われたアンソニー・ポンプリアーノ氏との対談イベント「フロム・ザ・デスク・オブ・アンソニー・ポンプリアーノ(From the Desk of Anthony Pompliano)」で、ヤッカリーノ氏はXの数字が自身の主張を裏付けていると声高に主張した(ただし、この数字は自社で算出したものだ)。

ユーザー数6億人とZ世代の存在



ヤッカリーノ氏によると、Xの月間アクティブユーザー数(MAU)は世界全体で6億人近くに達しているという。もっとも、この結果は1月にXのツールで算出された5億8600万人と比べればわずかな増加に過ぎず、2024年9月にXが発表した5億7000万人から大きく伸びたわけでもない。

ただし、ユーザー数の増加の3分の1近く(31%)がZ世代によるものだという。どうやらXは、リアルさを好み、可処分所得の高い彼らを引きつけているようだ。ヤッカリーノ氏はその根拠として、Z世代の購買力が2024年までに36兆ドル(約5180兆円)に達するとの予測を挙げた。

「Xは世界でもっとも強力な文化的影響力を持つ存在として台頭し、実際にグローバルな広場となっている」と、ヤッカリーノ氏は言う。「さまざまなアイデアが衝突したり、議論が交わされたり、真実が浮き彫りになったりするなど、あらゆる意見がもれなく歓迎される場所なのだ」。

さらに同氏は、Xが「時代遅れのメディア(が通ってきた道)を回避したり一気に飛び越えたりした」との考えを示し、ユーザーの65%はXをナンバーワンのニュースアプリと見なしていると主張した。

「新しい人々、すなわち新しい世代は、情報を解放したテクノロジーに支えられており、あらゆるデータやコンテンツで消費のされ方が完全に変化した」と、ヤッカリーノ氏は言う。

TwitterからXへ 理念の再構築



こうした発言はさまざまな点で、XがTwitterであった頃の理念が歪んだ形で再構築されたことを示している。2023年10月にマスク氏に買収されるまで、このソーシャルネットワークは、信頼できるニュースや情報源のハブを自負していた。だが今や、何かとあつれきを生み出すビリオネアのマスク氏は、Xそのものを情報源と位置づけようとしており、自身のいう「時代遅れのメディア」を検閲のない言論の場に置き換えるべきだとの主張を、何度となく繰り返している。

こうした変化がもっとも明確に現れているのは、誤情報やヘイトスピーチなど、ほとんどのユーザーが目にしたがらないコンテンツに対するXの対応だ。同社は自動モデレーションシステムの多くを廃止し、代わりに「コミュニティノート」を採用した。これはファクトチェックや情報の補足をユーザーに委託するクラウドソース型のシステムで、ヤッカリーノ氏によれば、現時点で世界中に100万人の「コミュニティノート作成者」がいるという。この機能は「真実を尊重する習慣をもう一度身につけさせてくれる」ものであり、それゆえに「世界にとって良いもの」だというのが、同氏の見解だ。

「時代遅れのメディアが、Xや今のコミュニティノートのような規模で、リアルタイムにファクトチェックや誤情報への対処を行い、エコシステムのリーダーとなるのは、本当に難しいことだと思う」と、ヤッカリーノ氏は語った。

ジャーナリズムは不要か コミュニティノートの拡張



ただしこのツールは、コンテンツモデレーションのすべてを担うことを意図したものではまったくなかった。社内のレビューチームや人工知能(AI)ツールなど、明らかな虚偽情報を強力に検出するシステムを補完する目的で開発されたものだ。

それでも、Xが2022年12月にこの機能を世界規模で導入して以来、メタ(Meta)やTikTokなどほかの企業が追随したという事実は、彼らも人々は互いに情報を共有できる限りジャーナリズムを必要としないとの判断を下したといえる。

「最初はGoogle、次にメタ、そして最近ではTikTokが、我々の先例に倣って、ファクトチェックを行ったり誤情報に積極的に対処したりするためのエコシステムを大胆に変革していることを、我々は大いに歓迎している」と、ヤッカリーノ氏は付け加えた。

Xの経営陣が自社のプラットフォームを既存メディアの対抗馬と位置づけようとするなら、その原動力となるのはAIだろう。ヤッカリーノ氏は、マスク氏がXを自身のAIスタートアップであるエックスAI(xAI)に売却することに決めた理由をこう説明した。一般的には、この決定はXをAIブームに巻き込み、収益を増やすための財務戦略と見られているが、データ戦略である可能性も捨てきれない。両社を統合すれば、xAIはXユーザーから生み出されるデジタルデータにアクセスし、モデルのトレーニングに役立てられるからだ。

「この2つを組み合わせれば、非常に大きな差別化ができる。ほかのAIサービスは静的であり、XのリアルタイムデータとXの極めて高度な機能の組み合わせを活用して稼働するものでないからだ」と、ヤッカリーノ氏は語った。

良くも悪くも、Xは唯一無二の存在



ほかのプラットフォームのCEOと同じく、ヤッカリーノ氏もポンプリアーノ氏との対談で、自社のプラットフォームを称賛しながら、競合他社をためらうことなく批判した。

「Xをほかのプラットフォームと比較すると、ほかのプラットフォームは受け身でいられる場所といえる。あえて言わせてもらえば、情報を遮断する場所だ」と、ヤッカリーノ氏は述べた。「Xは、ほかのすべてのソーシャルプラットフォームと比べ、情報への注意の向け方という点でナンバーワンだ。ユーザーは積極的に参加して、情報を探し求めている」。

ヤッカリーノ氏は、おそらくもっとも話題となり、物議を醸したプラットフォームのCEOとして登壇していた以前の頃と比べ、今回のポッシブルでは自信に満ち溢れていた。

ただし、今回の対談では重要な話が欠けていた。ポッシブルが広告主向けのイベントであるにもかかわらず、Xがどのようにして広告主に出稿を促しているのか、具体的な手がかりが一切示されなかったのだ。そして、聴衆もその点を見逃してはいなかったようだ。

広告主の期待は? 「語られなかった」重要な論点



米Digidayは、ヤッカリーノ氏の対談が始まる前に、会場となったインスピレーション・ホール(Inspiration Hall)の入り口で並んでいた企業幹部らに声をかけ、Xとその経営陣に対する賛否の入り混じった報道が数年間続くなかで、聴衆が今回のヤッカリーノ氏の登壇をどう受け止めると思うか尋ねてみた。

匿名を希望した2人のメディアエージェンシー幹部は、どちらも複雑な思いを口にしていた。「くすぶっている不満が噴出する可能性もあるが、どうなるかは見てみないとわからない」と、1人目の幹部は語った。ただし、この幹部の声はかろうじて聞き取れる程度だった。聴衆が続々と座席に着くなか、ステージ上のDJが耳をつんざくほどの音量でレゲエを流していたからだ。

「ヤッカリーノ氏が野次られるようなことがあれば、それは非常に無礼な行為だと思う」と、2人目の幹部は述べた。「とはいえ、Xとの広告販売交渉が、法廷ではなく市場で行われると確信できる話を聞きたい」と、この幹部は付け加えた。

しかし、ホスト役のポンプリアーノ氏が、Xに残るブランドセーフティに関する懸念や、Xが広告出稿を躊躇する広告主に対して起こした訴訟について触れることは一切なかった。

[原文:With 600 million monthly active users, X’s Linda Yaccarino doubles down on dismissing journalism]

Krystal Scanlon(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:戸田美子)
──本記事執筆にはJim Cooperが協力