ついに「650円」が出た!カップラーメン業界大研究 新たな戦場は「高価格帯」&「名店コラボ」

キーワードは「名店コラボ」と「高価格帯」
令和7年に注目されている話題のカップラーメンは、ワンコインでは買えない高級品だ――。
約4年前、カップラーメン業界を震撼させた商品が産声を上げた。国内外に88店舗を展開する人気豚骨ラーメンチェーン『一蘭』が、『わかめラーメン』など数々のヒット商品を世に送り出してきたエースコックとタッグを組んで完成させた、『一蘭 とんこつ』(537円)だ。
当時の業界には、「300円の壁」という言葉が定着していた。消費者がカップラーメンに出せる金額は最大でも300円程度で、それ以上の商品は売れにくいというのが、各社の暗黙の了解だったのだ。
ところが、『一蘭 とんこつ』はその壁を優に超える価格設定で、しかも具材は一切入っていない。にもかかわらず、さまざまな小売店で完売になる大ヒット商品となったのだ。インスタントラーメン専門店『やかん亭』を運営するインスタント麺ハンターの大和イチロウ氏が、「一蘭ショック」を振り返る。
「一蘭の成功は、新たな商品開発の流れを生み出しました。それ以前も名店コラボのカップラーメンは数多く販売されてきましたが、いずれもメーカー主導の商品でした。つまり、メーカーがラーメン店に赴き、コラボを提案して商品開発を行うというスタイルです。しかし『一蘭とんこつ』の場合は、開発を一蘭が主導し、エースコックが製造を担当するという形態で作られたのです」
この新時代の潮流を踏襲し、『一蘭 とんこつ』を凌駕する衝撃を業界に与えた商品が、昨年9月に登場した。『凄麺』シリーズなどを販売する中堅メーカーのヤマダイが、人気味噌ラーメン店『すみれ』の店主、村中伸宜氏と共同で創りあげた、『すみれオールスターズ』だ。
「村中氏がヤマダイのカップラーメンのクオリティに感動し、『これならウチの麺もスープも再現できるのではないか』とオファーを出したことで開発がスタートしました。まさにラーメン店主導の商品で、定価はなんと650円です。ただ、間違いなく価格に見合う価値がある。『すみれオールスターズ』はノンフライ太麺の商品ですが、通常は麺を蒸してから乾燥させるところを、店と同じように茹(ゆ)でてから乾燥させているのです。
スープも秀逸で、店とほとんど同じと言っても過言ではない。すみれ独特の焦がし味噌のロースト感や、スープを冷まさないための油がしっかりと表現されています。レトルトのチャーシューやメンマもついていて、もはやカップラーメンというよりもラーメン店のテイクアウト商品のような感覚です。むしろ、650円は安い。私が運営する店でも、入荷後即完売となる人気ぶりです」(同前)
’25年の業界の行く末を占うキーワードはやはり、『一蘭 とんこつ』と『すみれオールスターズ』に代表されるように、「名店コラボ」、そして「高価格帯」であることに疑いの余地はない。各社は定番商品を漫然と売り続けるだけでは生き残ることが難しい。
スープは店とほぼ同じ
それを最もよく理解しているのが、年間売り上げ7329億円を誇る絶対王者・日清食品HDだ。
「『カップヌードル』はたしかに業界ナンバーワンのシリーズですが、これからは定番商品だけではやっていけません。’14年発売のトムヤムクン味や、昨年11月発売の白味噌味など、話題性のあるキャッチーな商品を並べていく必要があるほか、話題の名店とコラボした300円超えの高価格帯商品などをさらに充実させるかもしれません」(ラーメン研究家の石山勇人氏)
実は、名店コラボの高価格帯商品を他社に先駆けて販売し、消費者に定着させていったのは日清だった。’00年代前半、当時最も勢いのあったラーメン店の『山頭火』『一風堂』『すみれ』とのコラボカップラーメンをセブン&アイHD限定で立て続けに発売したのだ。これらの商品群は本格的な味わいが人気を博すロングセラー商品となり、現在も改良を重ねながら、それぞれ『山頭火 旭川とんこつ塩』、『一風堂赤丸新味』、『すみれ 札幌濃厚みそ』(いずれも354円)という商品名で販売されている。やはり、コラボカップ麺という戦場も、時代を先取りした日清の独擅場となるのだろうか――。
否、日清の名店コラボ商品は、他社の猛攻に晒(さら)されている。
ヤマダイから『すみれオールスターズ』という『すみれ 札幌濃厚みそ』の上位互換が発売されたうえ、セブンプレミアムゴールドのカップラーメンの中では東洋水産(年間売り上げ4890億円)の『飯田商店 しょうゆらぁ麺』(321円)が躍進を続けているのだ。
「水産会社というバックグラウンドを活かし、何種もの魚介出汁(だし)を使うことができるのが東洋水産の強み。かつての魚介スープといえば、鰹節や煮干しの粉末ばかりが使われていましたが、今ではイワシ出汁、サバ出汁、アゴ出汁、昆布出汁なども使われるようになっている。これらを配合することで、飯田商店のスープの味に近づけているのです」(年700食ラーメンを食べている即席麺愛好家の大山即席斎氏)
セブンプレミアムゴールドのカップラーメンの特徴は、小袋の多さだ。日清の『一風堂赤丸新味』を開けてみると、粉末スープ、液体スープ、チャーシュー、辛みそ、黒香油(くろこうゆ)の5種類が入っており、東洋水産の『飯田商店 しょうゆらぁ麺』には液体スープ、かやく、のり、特製油の4種類が入っている。
「昨今のカップ麺はスープの質が非常に高い。一風堂の味が再現できるのならば、5種類の小袋も手間ではありません。『飯田商店 しょうゆらぁ麺』は香味油にアルミパウチ一つを割(さ)くこだわりを見せています。香味油を後がけすることで、飯田商店のラーメン独特の上品な香りを演出しています」(自作ラーメン研究家の神田武郎氏)
袋麺ナンバーワンの『サッポロ一番』を擁し、業界3位の年間売り上げ1803億円を誇るサンヨー食品は、人気チェーンの『天下一品』とコラボした『サッポロ一番 名店の味 天下一品 京都濃厚鶏白湯』(356円)、家系ラーメンの老舗である『杉田家』とコラボした『サッポロ一番 名店の味 杉田家 横浜濃厚豚骨醤油』(321円)を販売。自社最大の強みである『サッポロ一番』のブランド力と、各名店のブランド力の相乗効果で、着実に売り上げを伸ばしている。
「少し手間かもしれませんが、名店コラボのカップラーメンを食べる際、麺にお湯を注ぐのではなく、別の鍋で茹でてカップに戻すと、まるで生麺のような食感になる。そこにスープを入れて馴染ませてから食べると、まるでお店のようなクオリティのラーメンを楽しむことができます。カップラーメンのスープは味がかなり濃いので、コンビニに売っているラーメンの生麺を追加で茹でて、替え玉をしてもいい。300円超えのコラボ商品は、少し工夫をするだけで、俄然おいしくなります」(神田氏)
カップラーメン業界はまさに、大コラボ時代に突入した。長らく君臨してきた日清帝国の絶対的な覇権に、揺らぎが生じつつあるのかもしれない。