星稜・奥川投手のお母さんに聞いた、子育て、教育方針(後編)

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今夏の甲子園で大会ナンバーワン投手の称号にふさわしい活躍を見せた奥川恭伸投手(星稜)。投手としての凄さはあらゆる数字で証明されていますが、マウンドでの立ち振る舞い、周囲への謙虚な姿勢など、能力以外でも“ナンバーワン投手”である姿も目立ちました。その根底にあるものを探るべく、お母さんの真由美さんに、奥川投手の幼少期のことや教育方針などについてお話を聞かせていただきました。(2019年11月10日掲載記事の再掲です)

■野球のきっかけは7歳上の兄

産まれた時は4000グラム超えのジャンボベビーだった。だが、足が長く、すらりとした体型で、真由美さんいわく「体が締まっている4キロの赤ちゃん」だったという。ミルクをとにかくよく飲み、1度に1本半(200mlと半分)を飲むことはしょっちゅう。幼いころから食欲は旺盛で、とにかくよく動き回る子どもだった。

そんな恭伸君の目線の先には、いつも7歳上の兄、圭崇さんの姿があった。

すでに学童野球チームに入っていた兄の姿を目で見て動きを真似するようになり、野球中継をテレビで見ては、気になったバッターの身振り手振りをマネしながら家でバットを振ることもあった。

兄の学童野球に連れて行けば、そばでキャッチボールをしてみせた。「周囲に、『僕も投げられるんだぞ!』っていう猛アピールですね」と真由美さんは笑うが、中学に進んだ兄の練習を一緒に見に行って、ブルペンに入って投げることもあった。

大好きだったという打撃が上達した裏には、真由美さんの“特訓”があった。

「小学校から中学校の初めくらいまで、自宅内でスポンジボールを投げて、打つ練習をやっていたんです。でも学年が上がるごとにボールが当たると痛くなるので、私がヘルメットを被ってティーを上げていました。そうしたらわざと私に当てようとして打ってくるんですよ(笑)。そんなことをしていたら、そのまま上達していって(笑)」。

■小学校ではガキ大将

幼いころから体が大きい方だったということもあり、飛ばす力も平均以上だった。そんな中でも野球を始める時に交わしていた“勉強が1番。野球は2番”という家族での約束も守り、塾にも通いながら好きな野球に没頭していた。

ただ、小学校高学年までは真由美さんが頭を抱えた時期もあった。

「4、5年生くらまでは、ハチャメチャと言うか、ガキ大将というか…。もともと思ったことをガッと言うタイプで、同級生の子を傷つけることが多かったんです。お菓子を持って謝りに行くこともありました。そのたびに“相手に思いやりを持ちなさい”と、特に厳しく言うようになりました」。

■細かく注意した、受け答えと言葉遣い

中学3年になると軟式の全中大会で優勝を果たしたが、そこで取材を受ける機会が増え、目上の人とも会話をすることが多くなった。そんな中、真由美さんは「言葉を選んで、こういう受け答えはダメだとか、上を目指したいならちゃんと対応できるようにならないといけないよ、とも言ってきました」と言葉遣いに関しては細心の注意を払ってきた。相手を思い、敬意を表す気持ちの大切さは、場数を踏みながら恭伸君の中でもしっかりと育まれてきたのだ。

■気を配った成長期の睡眠時間

恭伸君を語る上でどうしても外せないのが睡眠時間だ。幼いころからとにかくよく寝る子どもだったが、今でも夜の11時に就寝し、朝6時に起きる習慣をきっちり守っている。成長ホルモンが分泌されるのが夜11時から深夜2時と、中学時代に厳しかった恩師から教えられたこともあり、真由美さんは断眠させないよう普段から気を配ってきた。

「もともと産まれた時から本当によく寝ていました。ミルクを飲んだら寝る。遊んだら寝る。以前、家で一度、やすがいなくなってみんなで探し回ったことがあったんですけれど、2階への階段の途中でぐっすり寝ていたんですよ(笑)。今も帰ってきたらご飯を食べるのを忘れて寝ることもありますから」

と母が言うほどの“睡眠好き”。寝る子は育つ、とはよく言うが、普段から体をしっかり休められているからこそ、大舞台で最高のパフォーマンスを披露できたのだろう。

真由美さんは、ここまでの恭伸君の歩みについてはこう振り返る。

「今まで、色んな岐路に立ってきたとは思うのですが、その時に出会った方々に良い方に導いてもらっているような気がします。“ここでこうしておけば…”というのはあまりなくて。やすは“自分でこうしたい”と思えば自分で決めて進む方ですが、その時その時に出会った人の影響もあり、良い思いをさせていただきました。それに、高校では試合を重ねるごとに野球に対する考え方が変わってきてたとも思います」

これからは何もかも自分で判断して、その先を歩んでいかなくてはならない。だが、真由美さんをはじめ家族の温かいサポートの中、しっかり踏みしめてきた足跡を恭伸君は思い返し、次のステージにも生かしていくだろう。高校野球を終え、厳しい世界で奮闘する恭伸君の背中を、真由美さんはこれから静かに見守っていくつもりでいる。(沢井史/写真:ご家族提供)