あの看板、ずっとかかったまんまだな

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筆者の実家の近くに、かれこれ十数年、ずっと閉店セールをしている店がある。

セールが始まった当初は、「ああ、閉店するんだ、残念だな」と思っていたが、あまりに長期にわたって開催されているので、誰も疑問に思わなくなっていた。よく繁華街でも、閉店セールのたびに店の名前が変わっていく店舗をみかけるが、この店の場合、かなり腰が据わった感じの本格派閉店セールのようだ。

知り合いにも聞いてみると、「うちの近くにもそんな店があった」という目撃談は意外と多く、「ずっと閉店セールの店」は日本全国に存在しているのかもしれない。今回は、そんな不可思議な店についての積年の疑問を晴らすべく、お店にいって話を聞いてみた。

住宅地にひっそりとたたずむその店舗には人影がなく、もしかしたら閉店セール中であるどころか閉店してしまっているのではないかと思ったが、店内には商品であろう電化製品が並んでおり、営業中のようだ。この店の看板は、セール開始以来、つねに「閉店セール」の幕に隠されつづけていたため、この店が電気屋であることを店内に入って初めて知った。

勇気を出して店に入り、「すみませーん」と何度か呼んでみると、奥から店主らしきおじさんが出てきた。取材を申し込むと、「なんだこいつ」という顔をしながらも、承諾してくれた。

店主さんによると、この店が閉店セールを開始したのは約20年前。経営状態が悪化し、店を続けられなくなったので本当に閉店するつもりでセールを開催したところ、「閉店セールをしたら意外と品物が売れたんで、セールの期間を伸ばし伸ばししていたらこんなに経ってしまいました」とのこと。実際、商品の割引はまだ続けているらしく、閉店セールは名実ともに継続中のようだ。

しかし、閉店セールをしたら意外と品物が売れたといっても、20年も経てばその効果もなくなるのではないだろうか? 店主さんにこの疑問をぶつけてみると、「閉店セールをし始めて2か月後に、近所に新しくマンションがたくさん建ち始めまして、それでお客さんが増えまして、なんとか今までやってこられました」とのこと。2か月間、閉店セールをしていたところにまずツッコミを禁じ得ないが、これは粘り勝ちというところであろう。

とりあえず、お客さんもきているのであれば、いったん閉店セールの幕を下ろす気はないのだろうか? 質問してみたところ、「下ろすと、近所の人が僕が死んだと思ってびっくりすると思う」とのこと。閉店セールが当たり前の状態になってしまったので、下ろすに下ろせない、というのが店主の正直な心境のようである。

今は大きな家電量販店が近くにでき、商品の販売よりは修理や取り付けが主な仕事になってきているとのこと。20年前にできたマンションの住人が今ではシニア世代になり、長年にわたってその家庭と付き合いがあるのだそうだ。

「もはや商売というより趣味。利益なんて全く出ません。この閉店セールは、僕がポックリ逝くときまで続くと思います」と笑いながら語る店主さんの本性は、20年前に閉店の危機を救ってくれた人々のために店を続ける、ハートフルなおじさんなのであった。

(エクソシスト太郎)