2022年2月から始まったウクライナ戦争で、ロシア軍兵士として戦った日本人がいる。戦場ではどんな戦いが行われていたのか。ロシア軍の特殊部隊「アフマット」に現在も所属している金子大作さんは「突撃部隊は白兵戦にたどり着く前に、ドローン攻撃や迫撃砲などで5割の兵士が殺傷される。一緒に戦った仲間たちも次々と死んでいった」という――。(第4回)

※本稿は、金子大作『ロシア軍の日本人兵士 最強の特殊部隊「アフマット」で見た地獄』(講談社)の一部を再編集したものです。

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■「ロシアに住む気はありますか?」

怪我をした僕を、司令官の一人はこう労ってくれた。

「私の家でのんびり過ごしたらいい」

お言葉に甘え、司令官の仮住まいでゴロゴロと寝て過ごす羽目になった。

「暇だったらこれでも撃って遊んでいたらどうだ?」

笑顔で手渡されたのは手榴弾。ロシア兵流のジョークに、苦笑いで返すほかなかった。

2週間後、歩ける程度に回復してからキャンプに戻ると、何やら慌ただしい。どうやら次の戦場が決まったようだ。ところが、アフマットの中隊最高司令官が気を遣ったのか、それともフォーメーション訓練が鮮烈だったのか、僕は「トレーナー(教官)」に任命された。戦うために戻ったのだから、自分として本望ではないが中隊最高司令官は頑なだった。

またあるときは、一つの質問をするためだけに司令官が現れた。

「家を買ってロシアに住む気はありますか?」
「生き残れたときはロシアで妻をもらうのが夢ですよ」

そう伝えると、何も答えずに帰っていった。将来もロシアに滞在する意思があるか司令官は確かめていたのだと思う。後に知るが、アフマットに入隊すると5年間は海外への渡航が禁止されていた。

■北朝鮮兵と手を組むことに

アフマットに入隊して2カ月弱、2024年6月19日のことだ。ロシアに大きなニュースが入ってきた。プーチン大統領が北朝鮮に電撃訪問。金正恩総書記と首脳会談を行ったという。ロシアのトップが北朝鮮を訪問するのは実に24年ぶりで、「包括的戦略パートナーシップ条約」を結んだと言われている。

訪朝から数日後、軍の内部ではさまざまな情報が駆け巡った。要約すると以下の内容だった。

「最大25万人の兵士をロシアに派遣すると、北朝鮮から約束を取り付けた。北朝鮮兵は北部軍管区に派兵する。北朝鮮の軍事工場がロシアの防衛産業のために稼働する。対してロシアは音速ミサイルの技術供与と、北朝鮮が他国と不測の事態に陥った場合はロシアが核の傘で北朝鮮を守ることを約束した」

北部軍管区とは対ウクライナ戦線を指す。その後、実際に派兵された北朝鮮兵はロシア領内の防衛活動の一端を担った。

こうした情報に接した国防省に33年勤務していた仲間は、感慨深げにこんなエピソードも披露した。

「俺は若い頃、北朝鮮の応援のために北緯38度線の国境に派兵されたんだ。あれ以来になる。連携は上手くいくだろう」

アフマットで流れていた情報は、かなり確度が高かった。その後、北朝鮮兵が実際に派兵され、彼らの訓練や日々の生活を僕は間近で見てきたからだ。

写真=iStock.com/Dragos Condrea
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■約5割の兵士がドローンに殺される

現代戦はドローンの登場によって戦争を新たなフェーズに押し上げている。ドローンに搭載された赤外線や暗視カメラ、光学式ズームの進化は凄まじい。潜んでいる敵を見つけると「カミカゼ」と呼ばれるドローンが突っ込んでくる。

頭上から爆弾を落とす投擲ドローンも無数に飛んでいる。最前線はまさに地獄絵図だ。突撃部隊は白兵戦にたどり着く前に、ドローン攻撃や迫撃砲などで5割の兵士が殺傷される。一緒に戦った仲間たちも次々と死んでいった。

2024年7月中旬、ついに戦場への出撃命令が下った。前々から最前線での戦闘を希望しており、司令官もようやく受諾したようだ。

アフマットに所属して初めての戦場。詳しくは明かせないが、ルガンスクの片田舎だった。逃げたウクライナ人の民家を活動拠点にして最前線に向かう。庭で堂々とマリファナを栽培している民家もあるぐらい、普段はよそ者が訪れない田舎町である。ライフライン機能は完全にストップしていた。電線から盗電する作業も兵士らで行い、水も支給されたわずかな量しかなかった。

最前線でアフマットとウクライナ軍は、互いに「ブリンダッシュ」を設け、300mの距離を隔てて数百名の兵士が睨み合っていた。

■ドローンに24時間狙われ続ける

ブリンダッシュとは塹壕のことで、森で隠れ蓑とする簡易な休憩場所も同じようにブリンダッシュと呼ぶ。戦地の周りには民家も点在した。僕が仲間と活動拠点としていた民家は、最前線のブリンダッシュから1〜2km離れた場所にあった。

睨み合いが続き、白兵戦は起きない。しかしその代わりに、毎日のように敵の迫撃砲やドローン攻撃にさらされ仲間たちは神経をすり減らしていた。この地域を確保できれば、戦略的に大きな価値がある。ロシア側は、多額の費用をかけて多くの兵士と精鋭部隊を投入していた。

ただ、ウクライナも考えは同じで、「カミカゼ」と呼ばれるドローンを1日に5〜7機も飛ばして対抗してきた。2024年4月以降、戦地には熱感知機および暗視カメラを搭載したドローンが導入されるようになった。ウクライナ軍の最大の標的は、数百名いる兵士のなかで唯一の狙撃兵である僕だった。

この地域はロシア軍のドローン迎撃用の妨害電波システムがなかったため、ウクライナのドローンが24時間、好き勝手に飛び交っていた。ある日、戦闘中に腹の具合が悪くて公衆便所に駆け込んだことがある。

穴を掘ってあるだけのボットン便所で、踏ん張っていると迫撃砲弾が「ヒュイーン」という轟音とともに真上を飛んでいった。落ちた場所は目の前だった。もう少しで、便所で死ぬところだ。おそらく偵察ドローンに僕の行動が見られていたのだろう。

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■戦場で恐れられる「4タイプのドローン」

敵のドローンを撃墜する任務を「アンチドローン」と呼ぶ。狙撃兵としてそれを任された僕は、ドローンの特徴を覚える必要があった。大まかに分けると、戦場では4タイプのドローンが飛び交っている。

偵察ドローン

戦場を監視し、拠点にライブ映像を送る。迫撃砲の着弾点や次に狙いをつける座標なども送信している。

カミカゼドローン

迫撃砲「RPG-7」などの砲弾を搭載して、文字通りカミカゼアタックをする。針金を機体に巻きつけており、その針金が接触すると電気が流れて起爆する。また、衝突時のスピードが足りなくても必ず爆発するよう、電気信号で起爆させることもできる。バッテリーを先に打ち抜けば墜落させても爆発はしない。

投擲型ドローン

カミカゼのように使い捨てではないため、「マビック」などの高価なドローンが使用されている。手榴弾程度の重さの爆弾を2個積載できる。5倍ズームの4Kカメラと熱感知カメラで人間を識別する。最大高度200mから爆弾を投擲。高性能爆薬「TNT」の周りに金属片を巻きつけて重量を保ち、爆弾を正確に目標へ落とせるよう計算されている。その代わり、本体は軽量化を図るべく3Dプリンターで作られている。

■“魔女”と呼ばれるウクライナの独自兵器

バーバ・ヤーガ

スラブ民話の魔女の異名をとるウクライナ独自開発の大型ドローン。暗視カメラを搭載して深夜に飛行する。

最大15kgの弾頭が搭載可能で、対戦車地雷なども投擲できる。本体の腹下に防弾プレートがあり、プロペラは6つ。2つまでならプロペラが破壊されても飛行可能。撃墜するには飛行システムを司るパーツか、バッテリーを正確に撃ち抜く必要がある。

アウディーイウカの戦地は廃墟と化した焼け野原で、グレーと黒、茶色だけのコントラストだった。両軍が建物や塹壕に絨毯爆撃を仕掛け、破壊の限りを尽くしたからだ。ところが、ルガンスクではドローンが攻撃の主力となり、絨毯爆撃はほとんど見られなかった。

「自前でドローンを製造できるようになったから、ウクライナ軍は1万機のドローンを所有している」

ロシア軍ではこんな情報まで飛び交っていた。ドローンには飛行可能な範囲がある。この範囲とは操縦士から電波が届く距離を指しており、当時は操縦士から半径8〜9kmが飛行圏内だった。自動車は格好の標的であるため、物資の補給トラックは飛行圏外の待機が常識となった。兵士がトラックまで補給物資を取りに行き、80kg近い荷物を背負って戻らないといけない。

■真夜中まで戦闘が続き、睡眠時間は3時間

そんな事情もあってルガンスクでは暗視ゴーグルの配給が遅れ、その隙をウクライナ軍は突いてきた。

夜襲を頻繁に仕掛け、真っ暗闇での戦いを強いられて多くの仲間たちが亡くなっていった。ドローンの革新的な進化と攻撃の多様化で、ロシア軍は大打撃を被っていた。

最前線で戦闘を始めると、任務を終えるまでブリンダッシュで何日も過ごす。4日連続でブリンダッシュがカミカゼに攻撃されて、そのたびに兵士が亡くなっていた。僕はAK-74で4機、5機とドローンを撃墜したが、すぐに新たなドローンが投入されて終わりの見えない戦いが続いた。

ルガンスクでは24時間、常に戦闘状態だった。夜は夜で暗視・赤外線カメラを搭載したドローンが飛び、体を休める時間はまったくなかった。最前線に出ると、ロシア軍では1時間に1度、無線で現状報告する規則がある。生存確認と戦況を司令官に伝えるためだ。寝てしまって報告できなかった兵士には罰則が科された。仲間の一人は無線連絡を怠り、司令官から罰として携帯電話を取り上げられた。

睡眠時間はせいぜい一日3時間。長くても5時間ほど。取れたとしても1時間おきに起きて現状報告する義務がある。

写真=iStock.com/Anna_Anikina
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■時速120kmで突っ込んでくる

戦場のストレスはそれだけではなかった。汗まみれのまま、ブリンダッシュの土の上に体を横たえる。風呂は1カ月に1度、野池で汗を流すことぐらいだ。水は貴重で体を拭くことさえ許されず、たまの洗濯も野池に衣類を持ち込んで行った。

当然ながら睡眠中が一番敵から狙われやすい。カミカゼドローンは200m上空から対象物を探し、発見すると急降下。時速80〜120kmで一直線に対象物に向かってくる。

人間の五感で感じ取れるのは100m先が限界で、200m先では音も聞こえなければ肉眼でも確認できない。しかも、100m先で確認したら、50m以内に近づくまでに撃墜しなければならない。ドローンに接近を許すと、破壊しても搭載された迫撃砲の爆発で自分も巻き添えを食らうからだ。

50m以内にカミカゼが迫っている場合は、バッテリーの位置を正確に撃ち抜き、爆発させないようにするしかない。ドローンが発するわずかな風切り音を聞き逃すと、致命的な代償を払うハメになる。

ドローンを発見して3〜4秒間、このわずかな時間に狙いを定めてドローンを破壊する。1〜2発の弾丸を放つ猶予しかない。大半の兵士は撃墜する技術を持っていないから闇雲に銃をぶっ放すか逃げ惑う。こうして多数の兵士がカミカゼの餌食になった。

■爆発すれば150メートルが炎に包まれる

さらなる脅威は、大型ドローン「バーバ・ヤーガ」だ。ウクライナ軍の主力ドローンとして真夜中に飛び交った。迫撃砲弾2個分の破壊力ある爆弾を搭載しているから、単純計算で150mの範囲がバーバ・ヤーガによって炎に包まれる。真上にポジションを取られると一巻の終わりだ。

僕は戦地でバーバ・ヤーガ撃墜の任務を通達され、真夜中に9時間ぶっ通しで廃屋などから狙っていた。バーバ・ヤーガ撃墜に成功したロシア兵はおらず、極めて難易度の高い任務だった。暗視スコープで狙いをつけてもバーバ・ヤーガは止まっているわけではない。進行方向に動く速度を計算した上で狙撃する必要があった。

バッバッバッバッ……プロペラの爆音が闇夜を切り裂いていく。肉眼では何も見えないから暗視スコープを覗くと、その姿が映し出される。

「パーン」

モーターに向かってトリガーを引いたが、どうやら外れたようだ。怖いのはその後だ。僕の居場所を気づかれて反撃に遭えば太刀打ちできない。距離にして数百m。あの腹に響くような爆音が近づいてくる。真上を通過するとき、恐怖感さえ覚える。息を潜めて通過するのを待つだけ。対抗する手立てはない。

■可愛がっていた犬猫も爆撃で殺される

毎日9時間、ぶっ続けで暗視スコープでバーバ・ヤーガを探した。それに並行してカミカゼや投擲ドローンなど他のドローンの撃墜任務も遂行する。正直、日付の感覚さえなくなった。

金子大作『ロシア軍の日本人兵士 最強の特殊部隊「アフマット」で見た地獄』(講談社)

仮眠しようと思うと司令官から指示が出て、1時間の仮眠のみで出撃。ようやく終えて帰ってきても睡眠は良くて2時間。また別の場所での任務を告げられた。常に戦っている感覚だった。休憩のはずが、任務を言い渡されて時間をほとんど失ったことも多々ある。

最前線から戻った兵士が休息場所に用いていた民家も迫撃砲で破壊され、兵士2名が死傷。その上、可愛がっていた野良猫のニャーコも巻き添えで死んだことを、任務から戻ってきてから知った。猫のため、墓を掘り、仲間と一緒に供養もした。

意外かもしれないが、兵士の多くは人間よりも動物に優しい。戦地となって飼い主が逃げたのか、それとも殺されたのかわからないが、戦地では飼われていた多数の犬や猫が野良になっている。腹を空かしたペットを見ると、餌を与えてみんなで可愛がった。猫や犬に触れている時間が、唯一の癒しだった。

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金子 大作(かねこ・だいさく)
ロシア軍特殊部隊「アフマット」所属
1975年、大阪府生まれ。20代で大阪府内に板金塗装会社を設立。2000年代初頭の「VIPカーブーム」に乗り財を成した。2023年8月にロシアへ渡り、外国人傭兵部隊「ピャトナシュカ旅団」に狙撃兵として採用。現在は特殊部隊「アフマット」に所属する。アウディーイウカ、ルガンスク、クルスクなど激戦地での戦闘を経験。2026年5月現在は、ベルゴロドで戦う。著書に、『ロシア軍の日本人兵士 最強の特殊部隊「アフマット」で見た地獄』(講談社)がある。
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(ロシア軍特殊部隊「アフマット」所属 金子 大作)