(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢者施設というと、「元気なうちは安く、介護度が重くなるにつれて高くなる」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。しかし、「介護保険」との兼ね合いで、要介護認定を受けたあとに総支払額が安くなるケースが存在します。81歳母と53歳娘の事例をもとに、総支払額が下がる理由と、施設入居前に確認しておきたいポイントについて、元介護施設職員でFPの武田拓也氏が解説します。

元気なうちに安心できる住まいへ…月40万円の「高級老人ホーム」に入居した81歳母

都内に住むヒサミさん(仮名・53歳)の母・セツコさん(仮名・81歳)は、夫を亡くしたあと、しばらくは住み慣れた戸建てで一人暮らしを続けていました。しかし、年を重ねるにつれ足腰が弱くなり、家事や買い物が少しずつ負担になっていきます。

このとき、セツコさんは介護認定を受けておらず、要介護区分でいえば「自立」の状態。身の回りのことは基本的に自分でできていましたが、「元気なうちに安心できる住まいへ移ろう」というヒサミさんの勧めもあり、老人ホームへ入居することにしました。

選んだのは、都心にほど近い好立地にある高級老人ホームです。エントランスはホテルのように豪華で、食事も栄養満点。館内には大浴場やラウンジ、リハビリスペースもあります。充実したサービスと清潔で快適な環境に惹かれ、セツコさんはこの高級老人ホームへの入居を決めました。

月額費用は約40万円と決して安くありませんが、セツコさんには遺族年金を含めた年金18万円のほか、夫が遺した預貯金7,000万円があったため、支払いに不安はなかったといいます。

「なにかあっても職員さんが近くにいる」「月40万円は高いけれど、その分安心を買っている」

ヒサミさんもセツコさんが施設を気に入ってくれ、ひと安心です。

入居2年目で転倒し「要介護2」に…「追加出費」でよぎった資金不足の不安

ところが入居から2年が経ったころ、セツコさんが室内でつまずき転倒、骨折してしまいました。手術は避けられたものの入院中に足腰の筋力が落ち、以前のように一人で歩くことが難しくなってしまいます。

車いすでの生活を余儀なくされ、要介護認定を申請したところ「要介護2」と判定されました。

ここでヒサミさんの頭に真っ先に浮かんだのは、「これから施設の費用がどれだけ増えるのか」という不安です。

おむつ代や介護用品代、通院時の付き添い費など、要介護になったことで新たな出費が発生します。施設からの説明では、これまでより月2万円ほど負担が増える見込みだといいます。

「母がこのまま長生きすれば、預貯金が底をついて、いずれは私の預金を取り崩して介護費用を支払うことになるんじゃないだろうか……」

ヒサミさんは心配になりました。

「えっ、どういうこと?」追加出費が発生も、総支払額が安くなったワケ

しかし、実際に届いた請求書を見て、ヒサミさんは目を疑いました。追加費用が発生しているにもかかわらず、総支払額は以前より少し安くなっていたのです。

「えっ、どういうことですか?」

思わずヒサミさんが問い合わせると、施設職員は優しく教えてくれました。理由は、「自立」の状態で全額自己負担していた生活支援サービスの一部が、要介護認定後は「介護保険サービス」の自己負担分に切り替わったためだといいます。

セツコさんが入居する施設では、自立の入居者に対して、安否確認や生活相談、居室清掃、洗濯補助、買い物代行、服薬確認、館内移動の軽いサポートなどを「生活支援サービス」として提供していました。こうした支援は施設独自のサービスであり、月額費用に全額自己負担として上乗せされていたのです。

しかし、要介護認定を受けたことで、これらのうち一部の支援が介護保険サービスに置き換わり、自己負担割合が下がりました。その結果、追加費用が発生しているにもかかわらず、総支払額はむしろ安くなったというわけです。

「要介護になったら、老人ホームの費用は一気に上がるものだと思ってました」

思わぬ負担減に、ヒサミさんは笑顔がこぼれました。

「介護度」だけでは決まらない老人ホームの費用

老人ホームの費用について、多くの人は「元気なうちは安く、介護が必要になると高くなる」と考えがちです。

たしかに、一般的には介護度が上がるほど費用が増える傾向があります。おむつ代や医療費、通院付き添い、個別対応サービス、福祉用具、理美容、嗜好品など、介護保険の対象外となる実費負担が増えるためです。

しかし、今回の事例のように、自立時に高額な生活支援費を全額自己負担していた場合、要介護認定によって介護保険の対象サービスに切り替わり、結果として総支払額が下がることがあります。

特に高級老人ホームでは、自立の入居者向けのサービスが充実していることも少なくありません。食事、見守り、生活相談、清掃、洗濯、買い物代行、イベント、送迎、健康相談など、快適な暮らしを支えるサービスが手厚く用意されています。

一方で、これらの費用が月額利用料に含まれているのか、あるいは別途「生活支援費」として請求されるのかは施設によって異なります。この点を確認しないまま入居すると、あとから「思っていたより高い」と感じることがあるため注意が必要です。

【元介護施設職員のFPが解説】老人ホーム入居前に確認したい「3つ」のポイント

入居前に確認しておきたいポイントは、次の3つです。

1.要介護区分(自立・要支援・要介護)で料金がどう変わるのか

2.介護保険の対象になるサービスと、対象外の実費サービス

3.介護保険の自己負担が何割になるのか

施設の綺麗さや食事内容ももちろん大切ですが、入居後にかかってくる月額費用は一定ではありません。

要介護認定を受けた場合、どの費用が外れ、どの費用が追加されるのか。介護保険の自己負担はいくらになるのか。おむつ代や通院付き添い費は平均どの程度か。医療依存度が高くなった場合も住み続けられるのか。退去要件はどうなっているのか。

ここまでを事前に確認して初めて、「本当に安心して住み続けられる施設か」がわかってきます。

「母が要介護になったとき、費用が増えることばかり心配していました。でも実際には、請求の中身が変わっただけでした。もっと早く料金の仕組みを理解しておけば、必要以上に不安にならずに済んだと思います」

ヒサミさんは、今回の経験を振り返ってこう言います。

老人ホームの費用は、「元気なら安い」「介護が必要なら高い」と単純に言い切れるものではありません。施設の種類や介護保険の指定状況、契約内容、実費サービスの利用状況などによって変わってきます。

“想定外の請求”に慌てないためにも、入居前から「入居後のさまざまな可能性」を見据えて料金を比較し、シミュレーションしておくようにしましょう。

武田 拓也
元介護施設職員/FP