本当に怖いのは返済額ではない──住宅ローンの金利上昇で迫る「マンション価格調整」とエリア選別の波

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住宅ローン金利が上昇すると聞いて、多くの人が真っ先に心配するのは毎月の返済額だろう。しかし、本当に注意すべきなのは返済額だけではない。
金利上昇は住宅ローンを通じて住宅購入予算を減少させる。このため、市場で成立する住宅価格を押し下げ、それが住宅市場全体の価格形成にも影響を及ぼす可能性がある。この借入可能額の変化についても、金利のある時代の住宅市場を考える上で重要な点と考える。
住宅ローン新規借り入れの8割超が「変動金利」を選ぶ理由
住宅ローン金利は、大きく「変動金利」と「固定金利」に分けられる。両者は金利の決まり方が異なるため、動きも異なる。一般に変動金利は日本銀行の政策金利など短期金利の影響を受ける一方、固定金利は長期金利や銀行の長期資金調達コストの影響を受けやすい。
変動金利の動向は短期プライムレートで、固定金利の動向は長期プライムレートで追うことができる。
日本銀行が公表する主要銀行のプライムレートをみると、2026年7月時点では短期プライムレートは2.125%、長期プライムレートは3.15%となっている。2021年と比べると、短期が0.650ポイントの上昇に対し、長期は2.15ポイント上昇と長期金利が先行して上昇している(図表1参照)。

その結果、住宅ローン利用者の選択にも変化が生じている。国土交通省の調査では、2024年度に個人向け住宅ローン新規貸出額に占める変動金利の割合は83.5%に達し、固定金利期間選択型は9.5%にとどまった(図表2参照)。

変動金利が選ばれるのは、固定金利よりも低いために返済額を抑え、借入可能額を増加させやすいことがあるだろう。長年続いた超低金利環境のために、今後も変動金利は低いまま推移するという期待もうかがえる。
どっちが有利? 変動と固定の比較より重要な「返済負担耐性」
ここでよく議論となるのが、「変動金利と固定金利、どちらが有利か」という疑問である。しかし、この問いに単純な正解はない。
変動金利には将来の利上げによって返済額が増えるリスクがある。一方で、固定金利はそのリスクを織り込んだ現在の高い金利を借り入れ当初から負担することになる。
言い換えれば、変動金利は「将来のリスク」を引き受ける選択であり、固定金利は「現在のコスト」を支払って安心を買う選択である。どちらを選ぶにも、何かを得る代わりに何かを手放すことになる。
金利上昇局面では、今後の金利動向を予想し、有利な住宅ローンを選ぼうとする人も多い。その結果、住宅ローン利用者は従来以上に難しい選択を迫られている。
しかし、重要なのは、どちらが有利かを当てることではない。家計がどの程度の金利上昇まで耐えられるかを考え、その範囲内で住宅ローンを組むことである。
将来の金利を正確に予測することは難しくても、自分の家計がどこまでの返済負担に耐えられるかは、あらかじめ試算することができる。では、実際に返済額はどの程度増えるのだろうか。
試算にあたり、前提条件は「返済期間35年、返済負担率30%、ボーナス返済あり、現在の金利は1%」とした。
すると、金利上昇が+0.5%では返済額は約8.5%増加し、1.0%では17.4%増加し、1.5%では26.6%増加した。もっとも、一部の変動型住宅ローンでは、適用金利が変わっても返済額を原則5年ごとに見直す「5年ルール」や、見直し後の返済額を前回の125%以内に抑える「125%ルール」が採用されているため、急激な返済額の増加は一定程度抑えられる(図表3参照)。

ただし、返済額が据え置かれても適用される金利は変わらないため、利息負担分が増加し、元金の減りは遅くなる。つまり、「返済額が増えない」ことと、「負担が増えない」ことは同じではない。
年収2000万なら2293万円減! 金利上昇で縮む借入可能額
そして、返済額以上に重要なのが借入可能額である。
住宅ローンでは返済負担率から毎月返済できる金額がおおむね決まる。金利が上昇すると、その返済額のうち利息が占める割合が増え、元金返済に充てられる金額は減少する。その結果、同じ年収でも借りられる金額は小さくなる。
先ほどと同じ前提条件で借入可能額を試算したところ、金利が+1%上昇して2%となった場合、借入可能額は減少する。同じ返済負担率を前提にすると、年収が高いほど減少額は大きくなり、減少額は概算で世帯年収500万円では▲573万円、1000万円では▲1147万円、1500万円では▲1720万円、2000万円では▲2293万円となる(図表4参照)。

借入可能額を通じた住宅購入予算の減少により、買い手は、より安い住宅や小規模な住宅を選ぶほか、購入エリアを広げたり、購入を延期したりする可能性がある。特にエリア内の価格の基準となる新築マンションを買えない人が増えて価格が見直されれば、比較対象となる中古マンションにも価格調整が波及する。この二つが重なることで、住宅価格は徐々に下押しされていく。
住宅価格は、売り手の希望価格だけで決まるものではない。最終的には、買い手がいくら支払えるかによって形成される。住宅ローンへの依存度が高い市場では、買い手の借入可能額が縮小すれば、需要そのものが弱まり、価格にも影響が及ぶ。
この意味で、住宅ローン金利は家計だけではなく、住宅市場全体の価格形成にも関わる重要な要素といえる。
1億円超のタワマン直撃か、エリア全体の価格水準が下落するリスク
特に影響が大きいのは、サラリーマン世帯が購入する1億〜1億5000万円程度の新築マンションである。
駅前タワーマンションなど、エリアの価格をリードしてきた新築マンションが値下がりすれば、それと比較される築浅中古マンションや周辺住宅にも価格調整が波及しやすい。価格の基準が下がれば、エリア全体の価格水準も押し下げられる可能性がある。
一方で、富裕層が現金で購入する住宅や、海外投資家の需要が厚いエリアでは、住宅ローン金利上昇の影響は限定的と考えられる。こうした市場では、購入者が住宅ローンに依存しないためである。
加えて、円安や株高によって国内外の富裕層の購買力が高まれば、価格が下支えされる可能性もある。その結果、住宅市場は一律に下落するのではなく、購入者層や価格帯によって異なる動きを示すだろう。
また、価格調整の影響は住宅市場全体に一律に及ぶわけではない。人口流入が続く都心部や再開発が進むエリア、希少性の高い住宅では需要が維持される可能性がある。一方、代替物件が多い住宅や立地競争力が低い住宅では、購入可能額の減少が価格に反映されやすいだろう。
金利上昇局面では、市場全体が下落するというよりも、物件ごとの差が拡大する「選別の時代」が進むと考えられる。
「不動産はインフレに強い」は本当か? 自宅の市場価値を見極める
住宅価格が大きく上昇した現在では、住宅は住むためだけのものではない。住み替えや売却を前提に購入する人も増え、住宅資産を老後資金の一部として考えることも珍しくなくなった。
だからこそ、住宅価格の下落は居住コストだけの問題ではない。家計の資産価値や将来設計にも直接影響を及ぼす。住宅ローンを借りるということは、住宅という資産を購入することでもある。その二つを切り離して考えることはできない。
問題は、自分の住宅の市場価値が見えにくいことである。「首都圏のマンション価格は上昇している」というニュースを見ても、それが自宅の売却価格を保証するわけではない。現在は査定価格を簡単に調べられるサービスもあるが、多くは過去の成約事例を基にした参考値に過ぎない。
買い手の借入可能額が縮小する局面では、参考価格どおりに売却できるとは限らず、最終的な価格は市場の需給によって決まる。そのため、「不動産はインフレに強い」という考え方も、「今のうちに売却して利益を確定する」という考え方も、最終的には自ら市場を見極めて判断するしかない。
住宅ローン金利が上昇すると、多くの人は返済額の増加を不安に思うだろう。しかし、より長期的な視点で見れば、借入可能額の縮小を通じた住宅価格への影響の方が大きな意味を持つ可能性がある。
これから住宅ローンを選ぶ際に重要なのは、「変動か固定か」という二者択一ではない。金利が上昇しても返済を続けられる家計をつくること、そして市場環境が変化しても価値を維持しやすい住宅を選ぶことである。
住宅を購入した後も、住宅ローンとの付き合いは数十年に及ぶ。金利の動向は返済負担だけでなく、借入可能額を通じて住宅価格にも影響を及ぼす可能性がある。
住宅ローンの種類にかかわらず、金利や住宅市場の変化を定期的に確認し、自身の家計や住宅価値への影響を把握しておくことが、金利のある時代の資産管理では重要になるだろう。
筆者:渡邊 布味子
