年金は何歳から受け取るのが正解なのか。ファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは「75歳まで繰り下げることで、受給額を最大84%増やすことができる。ただし、ベストな受給開始年齢は“人による”というのが実態だ。損益分岐点を把握することが、自身にとっての最良のタイミングを選ぶ助けになる」という――。

※本稿は、井戸美枝『定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)の一部を抜粋・再編集したものです。

■いまさら聞けない「年金のしくみ」

年金には、公的年金と私的年金があります。とくに公的年金制度を理解して、自分がどの年金に入っているのかを知っておくことは大切です。公的年金制度は、老後生活を支える土台になる制度です。20歳から60歳になるまでの40年間、国民全員が加入することになっており、職業などによりいずれかの被保険者に分類されます。

自営業者や無職の人は、第1号被保険者、会社員や公務員は第2号被保険者、会社員や公務員の配偶者(専業主婦・夫)は第3号被保険者です。

さらに公的年金は2階建ての建物のように例えられますが、この階層構造の理解も重要です。土台となる1階部分は国民年金(基礎年金)です。その上の2階部分は、会社員や公務員が加入する厚生年金です。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)

公的年金のみでは、現役時代と同じ生活水準を維持することが難しいでしょう。自身の公的年金受給額を把握し、私的年金の上乗せも検討することが大切です。

■「年収500万円」でもらえる月額年金額は…

65歳から100歳までの受給累計額を可視化した年金受給額早見表(図表2)を参考に、将来の家計を考えてみましょう。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』

会社員の場合、国民年金と厚生年金が合算され、平均月額は約15万4598円、100歳までの累計金額を計算すると、約6468万円にまで達します。年収が高いほどこの差は顕著になり、生涯で数千万円単位の開きが生じます。

対するフリーランスの場合、受給できるのは老齢基礎年金のみで、平均月額は約5万9431円です。100歳まで35年間受給しても累計は約2478万円にとどまり、満額受給(月約6.8万円)に届きません。そのため、フリーランスの方は480カ月の完納を目指すとともに、会社員の方以上に早期の資産形成を進めることが急務といえるでしょう。

年金は生涯続く貴重な収入源で、老後の生活を支える重要な制度です。この表を参考に、自身に合った現実的な準備を検討してみてください。

■受給額をアップさせる3つの方法

年金は「年収」「勤続年数」「繰り上げ・下げの率」によって受給額が決まります。これらを意識して工夫することで将来の年金額を増やせます。

まず一つ目は「年収」を意識することです。公的年金のうち、厚生年金は給与水準に応じて将来の受給額が決まるため、昇給や働き方の見直しによって長期的な年金額の増加が期待できます。

井戸美枝『定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)

二つ目は「勤続年数」です。年金は加入期間に応じて受給額が積み上がり、原則として40年間加入すると厚生年金と満額の国民年金を受け取ることができます。そのため、できるだけ長く加入し続けることが将来の受給額アップにつながります。

三つ目は「繰り上げ・下げ」の選択です。受給開始を遅らせる「繰り下げ」を選ぶと、一定の率で年金額が増えます。ライフプランや健康状態を踏まえ、自分に合った受給時期を選ぶことが、将来の安心につながります。

本稿では、『定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)から、三つ目の「繰り上げ・下げの選択」についてくわしく紹介します。

■結局、何歳で受給するのがおトクなのか

公的年金は原則65歳から受け取れますが、受給開始を「遅らせる=繰り下げる」こともできます。繰り下げ1カ月につき受給額は0.7%アップ。1年遅らせると受給額は8.4%増加します。

繰り下げは最大で10年間、つまり75歳まで遅らせることが可能です。仮に10年繰り下げた場合、年金額は繰り下げなかった場合の1.84倍と大きく増えます。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』

10年間年金を受け取れないのは損では? と思う人もいるかもしれませんが、受給開始から12年後には65歳スタートよりも総受給額が多くなる計算です。その後は長生きするほど得になるといえます。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』

また、国民年金と厚生年金は別々に繰り下げることができる点も重要です。例えば生活費の基礎となる厚生年金だけ先に受け取り、国民年金を後から増額するなど、ライフプランに合わせた柔軟な受給設計が可能になります。自分の働き方や健康状態を踏まえ、最適な受給時期を考えることが大切です。

■「繰り上げ」で起こる5つのデメリット

公的年金は原則65歳から受給が始まりますが、「早く受け取る=繰り上げる」ことも可能です。繰り上げは最長で5年、60歳から受け取ることができます。早く年金を受け取れる点は魅力ですが、その代わり受給額は減額される仕組みです。減額率は1カ月あたり0.4%で、60歳まで繰り上げた場合は最大24%減となり、その割合は生涯にわたって続きます。65歳になったらもとの受給額に戻るわけではないのです。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』

繰り上げは国民年金と厚生年金を別々に行うことはできず、両方同時に繰り上げる必要があります。早く年金を受け取れますが、減額されるので長生きすると受給総額が少なかったということもあります。また、繰り上げた場合、65歳になるまで遺族厚生年金を併給できず、遺族年金を選択して繰り上げ分が停止しても、65歳以降も減額されたままの額となります。さらに障害を被っても「障害年金」は受け取れません。

出典=『定年前後にやるべきこと大全』

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)
関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。
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(ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者) 井戸 美枝)