知られざるスイス絵画の異才ヴァルザー 初の大回顧展 幻想の世界と明治日本を活写 大阪中之島美術館
20世紀前半のヨーロッパ美術界で独自の存在感を放ちながら、長らく歴史の陰に埋もれてきたスイスの画家、カール・ヴァルザー(1877〜1943年)。その全貌に迫る展覧会「スイス絵画の異才 カール・ヴァルザー」が、大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。絵画、舞台美術、挿絵、装幀などさまざまなジャンルで才能を発揮しながら、本国スイスにおいても長い間、知られざる存在となっていた画家の初めての大回顧展で、すべての作品が日本初公開。

本展は東京会場(東京ステーションギャラリー)に続く巡回だが、大阪会場以降の開催はない。約150点の作品を通じて、忘れられてきた芸術家の軌跡をたどる試みだ。
ヴァルザーは1877年、スイス・ベルン近郊のビール(ビエンヌ)に生まれた。1899年にドイツ・ベルリンへ移住し、20世紀初頭の前衛芸術運動の中心地で活動。象徴主義や印象主義の影響を受けながら、優美で流れるような線、抑制されつつも豊かな色彩、そして静かな画面に潜む謎めいた物語性によって、独自の画風を築き上げた。ベルリン分離派の中核を担い、舞台美術や装幀、室内装飾など幅広い分野で活躍した。著名な作家ローベルト・ヴァルザーは実弟。

本展最大の魅力は、ヴァルザーの多面的な仕事を一望できること。初期作品では、象徴主義的な空気を帯びた人物画や風景画が並ぶ。「森」「隠者」「婦人の肖像」「バルコニーに立つ女性」などには、流麗な線と落ち着いた色彩のなかに、どこか不穏で幻想的な気配が漂う。優雅で美しいだけでは終わらない、見る者の想像力を刺激する不思議な余韻こそ、ヴァルザー作品の真骨頂といえる。


注目したいのは、日本との意外な縁である。1908(明治41)年、ヴァルザーはドイツの小説家ベルンハルト・ケラーマンとともに日本を訪れ、各地を旅した。東京、京都、伊勢などを巡る中、とりわけ強く心を引かれたのが京都府宮津市だったという。日本三景・天橋立の玄関口として知られる宮津で長く滞在し、町の風景や祭礼、芸妓文化、歌舞伎などを鮮やかな色彩で描き残した。
第2章では、「祇園祭、京都・八坂神社」をはじめ、「歌舞伎の一場面(『壇浦兜軍記』より「阿古屋琴責」)」「入り江、日本」「花火」など、日本滞在中に生まれた代表作が紹介されている。祇園祭の華やかな熱気、歌舞伎舞台の緊張感、港町・宮津の情景、夏の夜空を彩る花火や灯籠流し。約120年前の日本の風景と人々の営みが、異国の芸術家ならではの新鮮な眼差しで生き生きと描かれている。明治期の日本をスイス人画家の感性を通して再発見できる、貴重な機会といえよう。


本展では、画家としてだけではないヴァルザーの豊かな創作世界へも足を踏み入れる。第3章では、弟ローベルトの著作をはじめ、トーマス・マンやヘルマン・ヘッセらの書籍のために手がけた挿絵や装幀を紹介。線描の美しさと構図の巧みさが際立つ原画からは、紙の上でも際立つヴァルザーの造形感覚が伝わってくる。さらに第4章では、舞台美術家としての仕事に焦点を当てる。演出家マックス・ラインハルトらとともに手掛けた「ロミオとジュリエット」「フィガロの結婚」「カルメン」などの舞台装置や衣装デザインなどを展示。初期からの持ち味であった物語性が、ステージの仕事で花開いた様子がうかがえる。

本展を担当した大阪中之島美術館の清原佐知子学芸員は「優れた画力で描かれる謎めいた魅惑の世界、絵画制作にとどまらない多彩な活躍ぶり、そして関西との縁。ヴァルザーの画業には、さまざまな見どころがある。展覧会を通じて、1人でも多くの人とこの画家の素晴らしさを分かち合いたい」と話した。会期は9月27日(日)まで。



