SNSから人気爆発!『盛岡市動物公園ZOOMO』ピューマ家族の波乱万丈「子育て秘話」
ずっと地味扱いだった……
動物園で人気の動物といえば、ライオンやゾウやキリンが定番。しかし、なぜか岩手県の『盛岡市動物公園ZOOMO』ではピューマが人気だ。正直、「ピューマを見に動物園に行こう!」とか「動物の中でピューマが一番好き♡」とはなかなかならないのがこれまでの実情だっただろう。
ZOOMOのピューマ担当飼育係・山本祐子さんも、以前はその認知度の低さに嘆いていた。
「ピューマは被毛に模様がなく、鳴き声も『ニャー』とか『ギャウ〜』とかネコみたいであまり迫力はありません。どうしても地味なため、お客さんにも『ライオンは?』『トラはいないの?』と聞かれてしまうことが多いのが実情でした。本当はしなやかな動きと、キリンの頭ぐらいまで到達するほどのジャンプ力もあって、とても魅力的な動物なんですけど……」
ところがそんなピューマが今、ZOOMOの人気を牽引する存在となっているのだ。公式オンラインショップを覗いても、トップに並ぶのはピューマグッズばかり。さらにこの6月には、ZOOMOのピューマによる出産・子育ての全経緯を綴った本『ピューマのかぞく』(辰巳出版)も発売。これが大好評を博しているのだ。
火がついたきっかけは、公式SNSの発信だった。ZOOMOは、『タフ』というオスのピューマの飼育を始めた翌年の’20年、静岡の動物園からメスの『ニーナ』を迎え入れる。このニーナが、’25年6月10日についに5つ子の赤ちゃんを出産。以来、子どもたちが育っていく過程を、山本さんは良いことも悪いことも包み隠さず公式SNSに半年間毎日投稿していったという。
「動物園というと“楽しい場所”のイメージが強いと思います。でも現実には病気やケガ、治療もよくあること。そういったネガティブな面もさらけ出すことで、より動物たちや飼育係の仕事について理解してもらいたかったのと、ファンの方たちとの信頼関係を築きたかった、というのが発信を始めた一番の理由です。
実際、けっこう衝撃的な現実も包み隠さず発信したので、ファンの方からは『ここまで伝えるとは』と驚かれました。でも毎日投稿を積み重ねることで、皆さん、『生きものならこういうこともあるよね』と、私たちと同じ目線で日々の出来事を見てくれるようになった。そのうえで、ピューマたちを心から応援してくれるようになったんです」
お嬢様のニーナに助けられた
ここで簡単に説明しておこう。タフとニーナの間に生まれた赤ちゃんは5頭。残念ながら2頭はその後亡くなってしまう。しかし悲しんでいる暇はなかった。もう1頭、生死の境をさまよっていた子、『キャフ』(メス)を助けることが最優先だったからだ。
そのため、「本当はやりたくなかった」という人工哺育を選択。人工哺育を避けたかったのは、母親の元に戻すときに大きなリスクがあるからだ。「人間の匂いの付いた子どもを母親が噛み殺してしまうかもしれない」という最悪のケースも想定された中、キャフは無事にニーナと合流。その後、骨折や母親との微妙な距離感といった困難がありながらも、キャフは兄弟の『シェダル』(オス)、『ツィー』(同)とともにすくすく成長。今、その幸せな家族の姿が訪れる人たちの心を温かくしている。
ただし、「キャフの合流がうまくいったのは、あくまでニーナだったから」と山本さんは言う。
「ニーナの性格をひと言で言うと、お嬢様(笑)。以前は、肉はスライスしてあげないと食べないし、角皿の隅のお肉は『食べにくいわ』と残す。鶏も、くちばし部分は硬いせいか、残しがちです。大切に育てられたので、天真爛漫でお転婆で気分屋で、ちょっと慎重。神経質なようでいて大雑把なところもあります。そんなニーナの個性を理解して飼育係との関係を作り上げてきたからこそ、私たちはキャフの合流を決断できたんです」
「大らかで飼育係との関係をうまく使い分けることのできるニーナなら、キャフを離したり戻したりしても受け入れてくれるのでは?」と思ったから、合流を決断できたという。
「おそらく、以前いたメスのピューマだったら、人工哺育した子どもを再び戻すことはしなかったと思います。子育て中に目が合っただけでも、『シャー!』と威嚇してくるような気の強い子でしたから。
でもキャフがこの先親になっていくことを考えると、母親や兄弟と過ごすことは絶対に大事。今回、すべてがうまくいったのは、ニーナの性格に助けられたところが大きい。もちろんやってみないとわからないこともありますけど、『ニーナなら』という信頼があったのは確かです」
ニーナの圧巻の母親ぶり
振り返って真っ先に浮かぶのも、ニーナの性格に助けられたシーンばかりだという。
「人工哺育していたキャフをニーナの元に戻すとき、いきなりではなく、最初は夜だけ戻して日中はまた私たちが引き取っていたんです。普通は、母ピューマは子どもを取られないよう抵抗するもの。でもニーナは、最初こそしぶしぶ引き渡していたものの、3日目ぐらいからは私たちが来ると自分はさっさと別室に移動していた。『はい、今日もよろしくね』という感じで(笑)。完全に状況を理解していたようで、賢い子だなと思いましたね。
夜にキャフを戻すときも、人間の匂いがついていると警戒されるかもしれないと思い、ニーナの使っていた寝室の藁をキャフにこすりつけ、匂いを移していたんです。でもニーナはあまり気にしていないようでした。キャフが戻ってくると、『はいはい、おかえり』という感じで首根っこを噛んで自分の部屋に運んでいました」
それだけではない。長く人工哺育を受けていたキャフは、ニーナのことを母親と認識していないようで、ニーナが干渉してくると「シャー!」と威嚇してみせていた。このキャフの威嚇姿はSNSで“キャフえもん”と呼ばれ話題となっていたが、すごいのは、この“キャフえもん”に対してニーナがまったく反撃しなかったことだ。
「ニーナは基本、知らんぷりでした。キャフを拒絶したり、威嚇し返したりすることはなく、素知らぬ顔をしてまたキャフにかまうんです。まさに思春期女子を上手にあしらう母親そのもの。どんなに威嚇されても、キャフのことが可愛くて仕方ないという感じでした。
キャフも実は、外では威嚇するものの室内に入るとニーナに甘えまくりで。そんなキャフの内弁慶ならぬ外弁慶ぶりを、ニーナはちゃんとわかっていたのでしょう。本当にいいお母さんだなと思います」
命のバトンは託されていく
さまざまな危機を乗り越えて1年。子どもたちはこの6月、ついに1歳の誕生日を迎えた。通常、ピューマは生後1年経った頃から徐々に独り立ちを始めるという。ニーナたち親子の時間も、あとわずかだ。
「今のところは、とくに変化はありません。子どもたちは気ままに1頭で遊んでいるときもあれば、兄弟と遊んだり、そこに母もやって来てみんなでじゃれ合ったり。1年から1年数ヵ月すると母親も子離れをし始めるのですが、ニーナにはまだその兆候はありません。
一方で、子どもたちはもう1頭でもやっていけるな、という感じも見えてきました。いずれにしても、遅かれ早かれそれぞれ別の動物園へ旅立っていくでしょう。もちろん寂しい気持ちはありますが、子どもたちがやがて親になり、命をつないでいくことが私たちの目標ですから、誇らしく送り出したいと思っています」
通常、ZOOMOでは3年に1回、飼育員の担当変更がおこなわれるがリニューアル工事などもあったため、山本さんは、ニーナがZOOMOにやって来てから約6年、ずっと世話をし続けている。長い付き合いゆえの信頼関係も、人工哺育や合流が成功した理由の一つだと思われる。ずっと見守ってきたニーナに今、言葉をかけるとしたら、どんなものか伺ってみた。
「初めてのお産、子育てとは思えない母親ぶりを誇りに思うし、尊敬します。子どもたちの骨折もあって、人工哺育だけではなく子どもの隔離期間を何度も繰り返したのですが、私たちのサポートを受け入れてくれたことにも感謝しています。この命のバトンは、これから子どもたちに託されていくことでしょう。
そしてそれもこれも、クセの強いニーナを受け入れてくれた穏やかで優しいタフの存在も大きかったと思っています。ピューマのオスは子育てをしないので、どうしても裏の存在になりがちですけど、この素敵な家族ができたのは間違いなくタフのおかげですから!」
取材・文:奈々子
