「孫のために買った家、ムダでした」…年金月21万円・72歳夫婦〈3LDK・庭付き一軒家〉から〈2DKの団地〉へ引っ越した理由

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「孫が泊まりに来られる家を用意したい」――その願いは、多くの祖父母にとって自然なものです。しかし、家族のためと思って選んだ住まいが、老後の生活を追い詰める原因になることもあります。今回は、50代で念願の戸建てを購入したものの、それが重荷となり苦しむことになった夫婦の実例から、老後の住まい選びで見落としがちな「落とし穴」を見ていきましょう。

「孫を泊まらせることができない」…50代夫婦が中古一戸建てを買った理由

江藤博さん(仮名・72歳)と妻の栄子さんは今、地方の団地の一室で、月12万円ほどの生活費で穏やかに暮らしています。ですが、ここに至るまでには、住まいに翻弄された長い時間がありました。

話は15年前にさかのぼります。当時57歳の博さんと栄子さんは、2DKの賃貸アパートに住んでいました。ちょうどその頃、長男夫婦に初孫が誕生。しかし、アパートの狭い部屋とお風呂では、孫を泊まらせることは困難でした。


「泊まりたいけど、日帰りしかできないね」

そんな長男の言葉に胸が痛みました。さらに当時、世間では「高齢になると賃貸契約が難しくなる」というニュースが盛んに報じられており、夫婦の心には焦りがありました。


「これから孫が増えるかもしれないし、お盆や正月に子どもと孫が泊まりに来てくれる『終の棲家』を今のうちに確保しなければ」

夫婦はその勢いで家を探し、郊外にある築15年の庭付き一戸建てを1,980万円で購入。3LDKなので、リビングのほかに夫婦それぞれの部屋。残る一部屋を客間として使えます。さらに220万円をかけて最新のシステムバスへの交換と、内装のリフォームを行いました。

総額は2,200万円。手元の貯金の大半400万円を頭金と諸経費に充て、残り1,800万円の住宅ローンを組みました。50代後半での購入だったため、完済までの返済期間を短く設定せざるを得ず、毎月の返済額は約9万円。「退職金を充てれば大丈夫」だと楽観的でした。

しかし、現実はそううまくはいかなかったのです。

「もう無理だ」…ローン返済計画に立ちはだかる壁

順調に返せるはずだった住宅ローンですが、子育てが終わったとはいえ、50代後半からは別の出費がかさみました。

想定外だったのが、相次ぐ親の介護です。江藤さん夫婦はどちらも一人っ子。親の介護や看取りに伴う出費が続きました。また、嬉しいことに長男に続き次男の家族にも孫の誕生が相次ぎましたが、可愛さのあまりお祝い金やプレゼントを奮発し、支出がかさみました。

60歳で博さんが受け取った退職金は約1,000万円。しかし、介護費用や孫にかかる費用、マイカーや家電の買い替えなどで大半が消え、住宅ローンの繰り上げ返済に充てられたのは、わずか200万円程度でした。

さらに、博さんは60歳以降も再雇用で勤務を続けましたが、月収は15万円程度に減少しました。その後は、年金を受け取り始めますが、月額で約21万円。総務省「家計調査」によると、2025年の夫婦高齢者無職世帯の実収入は月平均25万4,395円なので、それを大きく下回る金額です。

毎月のローン返済(約9万円)に加え、数年ごとに必要となる外壁や屋根の修繕に備えた貯蓄や、固定資産税の負担が重くのしかかります。その結果、博さんは70歳近くになっても、身体に鞭打って仕事を続けなければなりませんでした。

しかも皮肉なことに、孫は成長するにつれ部活や塾、友達付き合いで忙しくなり、ほとんど泊まることはなくなったのです。

「一体、何のためにこんな生活をしているんだ……」

家を売却…失った莫大なお金

博さんは「もう限界だ」と、終の棲家になるはずだった一戸建ての売却を決断します。

しかし、売却時の築年数は30年。地方の戸建て市場は厳しく、建物の価値はほぼゼロ、土地代だけの評価となり、売却価格はわずか850万円でした。残債約900万円を返済するには売却額だけでは足りず、仲介手数料などの諸経費も合わせると100万円近い持ち出しに。70歳まで働いてギリギリ貯めた手持ちの貯金を切り崩してなんとか補填したため、手元の資金はほぼ底を突いてしまいました。

頭金、リフォーム代、これまでの返済総額に加え、固定資産税や外壁塗装などの維持費を計算すると、15年間で2,000万円以上の大金を失った計算になります。


「家を買っても意味がなかった……むなしくなりましたよ」

家賃月4万円…公営団地で得た安らぎ

二人が引っ越したのは、同じ沿線にある、家賃月4万円・2DKの公営団地でした。「内心は、団地なんて……と思ったんです」と栄子さんは振り返ります。

しかし、生活費が月12万円に収まったことで精神的なゆとりが生まれ、栄子さんの体調も回復していきました。暮らしてみれば居心地もよく、さらに、孫たちがふらりと遊びに来るようになったという「オマケ」までついてきました。

「今の団地、昭和な感じで好き。商店街も面白いし、なんか落ち着くんだよね」

団地近くの商店街の純喫茶や、コロッケ・焼き鳥などの買い食いスポットが、孫世代のツボにはまっているようなのです。泊まるスペースはないため日帰りですが、江藤さん夫婦にとっても負担がなく、団地暮らしで得た想定外の喜びでした。

江藤さん夫婦の経験は、「孫のため」「老後のため」という気持ちがかえって生活を破滅させる典型例でした。家を買う前に一歩立ち止まり、現実的な資金計画を見極める視点が不可欠です。