元Jリーガー中西哲生さんが語る 名将ベンゲル監督との出会いと「パーソナルコーチ」という仕事
【その日その瞬間】
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中西哲生
(スポーツジャーナリスト・パーソナルコーチ)
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2026年サッカー北中米W杯のF組は1次リーグを終了。日本は2位で突破し、30日の決勝トーナメント1回戦では強敵ブラジルと対戦する。名古屋グランパス、川崎フロンターレで活躍、引退後はテレビのコメンテーターとしてお馴染みで、日本代表メンバーのパーソナルコーチも務めている中西哲生さんが貴重な体験や日本代表について語った。
僕は今、パーソナルコーチとして50人くらいの現役の選手とトレーニングしています。きっかけの一つは、名古屋グランパス時代の1995〜96年シーズンのアーセン・ベンゲル監督との出会いです。彼がグランパスを退団しアーセナル(英プレミアリーグ)の監督になるために日本を離れる時、引退したらあなたからサッカーのことをいろいろと学びたいと伝えました。すると、「連絡してくれたらいつでもいいよ」と言ってくれたので、2001年から何度も現地(ロンドン)のアーセナルの練習に参加させてもらいました。
01年に稲本(潤一)君がアーセナルに入団しましたが、僕がいつも通り選手と練習するためにクラブハウスで着替えていたら、「えっ、練習するんですか」と驚いていました。練習の後はアンリ、ベルカンプ、ピレス、ビエラといった素晴らしいメンバーと一緒に食事もさせてもらっていました。
ベンゲルが伝えてくれた言葉でもっとも印象に残っているのは「パスは未来に出せ」です。ベンゲルがグランパスの監督に就任する前年、チームは最下位(後期)で僕らは自信を失っていて、開幕してからも勝てない状況が続いていました。それでも守備は良くなっていましたが得点が奪えず、そこで攻撃のことを教えて欲しいと選手が直談判に行ったんです。その時に言われたのが「パスは未来に出せ」でした。
パスはできる限り前に出す、できなければ横に出す。要するに、少しでも前にという意識でプレーすることです。ベンゲルに言われた通りにプレーするとチームが一気に変わり得点が奪えるようになりました。あの言葉は刺さりました。
グランパス時代の練習は全てノートに英語で書き留めていました。父親の仕事の関係で一時期アメリカで過ごしたので、ベンゲルと直接英語で話すことができたのも非常に大きかったです。
そして何度もロンドンに行っていたある時、ベンゲルに教わったことを日本に伝えたいので本を出したいと伝えると、「日本のサッカーのためになるならいいよ」と言ってくれました。ベンゲルは誰かにお世話になったら、それを誰かにお返しするべきだ、それが日本から学んだこと、と話していました。そして02年に「ベンゲル・ノート」(戸塚啓と共著)を出版させていただきました。
■始まりは中村俊輔、久保建英、長友佑都…常に上りのエスカレーターに乗せてあげることが僕の役割
その教えを胸に選手のパーソナルコーチをやらせていただくようになり、今も続けています。始まりは今大会で日本代表のコーチを務めている中村俊輔さんに、「自分がやっていないプレーがあったら教えてほしい」と言われたことです。そこで実際にプレーを見ないとわからないので、自主トレに一緒に行ったり、彼が所属していたセルティック(スコットランド)まで行って話を聞いたりして、彼がやったことがないプレーの映像を送るようになりました。
久保建英選手には、彼の出場している試合を見て、試合が終わってプレーを見ることができるよう、今はすぐに映像を送っています。また彼との幼い頃からのトレーニングの中で、キャンセルという概念に気がつくことができたのは大きかったですね。
キャンセルについては本の中でも詳しく書いています。一言でいえば「刻一刻と変化する状況の中で一度、意思決定を下したプレーに固執するのではなく、それをいったんキャンセルして次のプレーを選ぶ」ということです。
インテル(イタリア・セリエA)時代の長友(佑都)選手にも生中継を見て、気になるプレーを当時はメールで送っていました。例えばビルドアップする場面で、ボールを失わないようにするにはどうすればいいかなど、それに対してアドバイスする。長友選手はアドバイスに納得すると、すぐ練習して技術の習得がとても早かったです。おそらく何度も何度も反復して練習していたんだと思います。
そうやって、彼らが納得して努力したことが正しい、ちゃんとした結果に結びつくような、常に上りのエスカレーターに乗せてあげることが僕の役割だと思っています。
長友選手とのインテル時代6年間のパートナーシップや、今も続いている久保選手との関係などから得たのが「N14中西メソッド」。W杯開催中ですが、今回出版した「日本サッカーはどこまで強くなるか」(青春新書インテリジェンス)をご一読いただければ、よりサッカーへの理解が深まると思います。
リミッターを切れば逆転劇は起こる
日本代表は強くなりました。今回も大会前からネガティブなことが何度も何度も起きています。ただ、起きてしまったことは仕方がない。それをどうやってポジティブなマインドに変えることができるか。ピンチの時にチャンスだと捉えることができる思考の転換が必要です。前回大会のドイツ戦、スペイン戦での逆転、親善試合のブラジル戦も逆転でした。
僕は日本人はリミッターをなかなか切らないタイプの民族だと考えています。石橋を叩いて渡り、失敗したくないという意識も強い。しかし、ひとたびリミッターを切ると、とてつもない力を発揮する。ネガティブな要素で追い込まれた時に、そこから思考の転換で生まれてくるパワーに期待したいです。
ここから先はさらに難しい相手、難しい局面が増えてくるはずです。しかしどんな相手であろうともリミッターを切ってプレーし、決勝トーナメントでも日本の力を世界に見せて欲しい。
(聞き手=峯田淳)
▽中西哲生(なかにし・てつお)1969年愛知県生まれ。名古屋グランパス、川崎フロンターレでプレー。2000年に引退。「サンデーモーニング」(TBS系)、「GET SPORTS」(テレビ朝日系)などでコメンテーターを務める。
