大河原克行のNewsInsight 第456回 変わるシャープの現在地、2026年度の事業戦略を読み解く (前編)
シャープは、2026年度の事業戦略について説明。2027年度の財務指標に掲げた営業利益800億円の計画を維持する一方、EVやAIサーバーなどの新規事業において、2030年度には2000〜3000億円の売上規模を目指す方針を打ち出した。また、2026年度下期からは、白物家電を対象にしたエージェンティックAIサービスを新たに開始する計画を発表。家電同士が連携しながら、能動的に利用者の困りごとを解決する提案を進めるという。

シャープ 社長執行役員 CEOの河村哲治氏
シャープの河村哲治社長 CEOは、「2025年度は、収益力、財務体質、信用力が大きく改善した1年となった。成長基盤となるブランド事業への投資、従業員エンゲージメントスコアも向上し、再成長の土台づくりが着実に進展した」と、これまでの取り組みを総括。「今後は、『暮らす』と『働く』のあらゆるシーンにおいて、AIを掛け合わせ、人の未来を拓くことが、目指す方向性となる。スマートライフ、スマートワークプレイス、ディスプレイデバイスの3つの事業を中心に、新たな価値を創造する。また、AIインフラと次世代通信分野でも新たな事業を展開し、AIでの価値創造を支える社会基盤の構築を進める」と述べ、「既存事業の強化と事業変革を強力に推進するとともに、成長を牽引する新規事業の立ち上げを加速する。これにより、成長ステージへと歩みを進める」との姿勢を示した。

中期経営計画の財務目標。収益力の強化と成長基盤の構築を目指している

「暮らす」と「働く」のあらゆるシーンにおいて、AIを掛け合わせ、人の未来を拓くことが、新たなシャープの目指す方向性
また、親会社の鴻海では、3つの産業(EV、デジタルヘルス、ロボティクス)、3つの技術(AI、半導体、次世代通信)、3つのプラットフォーム(スマートマニュファクチャリング、スマートEV、スマートシティ)で構成する「3+3+3」戦略を推進しており、「これらの分野は、シャープの重点分野とも親和性が高く、シナジーが期待できる。AIを核とした両社のビジョンの実現に向け、互いの強みを融合し、各事業の成長を飛躍的に向上させる」と述べ、鴻海との連携強化をこれまで以上に推進する考えも強調した。

鴻海は、3つの産業(EV、デジタルヘルス、ロボティクス)、3つの技術(AI、半導体、次世代通信)、3つのプラットフォーム(スマートマニュファクチャリング、スマートEV、スマートシティ)で構成する「3+3+3」戦略を推進。これにシャープの重点分野をかけてシナジーを生み出す
鴻海入りから10年の節目、ともに新規事業に挑戦したい
シャープは、2016年に鴻海の傘下に入ってから、ちょうど10年を経過した。
「鴻海の事業ポートフォリオは大きく変化し、スマホの受託生産だけの企業ではなく、AIサーバーの生産は、全社売上高の約4割を占めている。ロボティクスや宇宙にも取り組んでいる。シャープ自らも、今の鴻海の姿を正しく理解し、シャープ自らが貪欲になって、鴻海に協業を持ち掛けたい。鴻海において新事業を開発する中央BD(ビジネスデベロップメント)と連携するために、私自身がそれを理解する必要があると考え、5月だけで2回、鴻海の本社を訪問し、幹部とのコミュニケーションを構築してきた。鴻海のリソース活用し、再成長に向けた時間短縮を図る。また、日本の企業は、綿密な計画を立てた上で、たくさん素振りをして、打席に向かうカルチャーがある。まずは打席に立って、振ってみるということが、スピードをあげる上では大切である。鴻海とは、Win−Winの関係を構築し、補完し合うことができる新たな関係を作り上げることを、新社長である私の活動の目玉にしたい」と述べた。
さらに、成熟事業中心の事業構造を、成長型に転換。既存事業であるスマートライフ、スマートワークプレイス、ディスプレイデバイスは、顧客接点の強化とAIを核とした事業変革を推進し、着実な事業成長と収益性向上を実現。新規事業は成長領域と位置づけ、AIインフラ、次世代通信、ロボティクス/インダストリーDX、モビリティに取り組む。「新規事業では、『暮らす』と『働く』の顧客接点の拡張と、AI活用の基盤構築に向けて、シャープの強みを活かせる新しい産業領域に挑戦する。新規事業はすべて急速に市場が拡大している分野ばかりである。合計すると2030年度には、5〜6兆円の市場規模になる。そのなかにおいて、4〜5%のシェアを狙いたい。新規事業では年間で2000〜3000億円の売上規模を目指す。立ち上がり期は、AIサーバーの貢献が大きいだろう」とした。

これまでの成熟事業中心の事業構造を、今後は成長型に転換していく
また、「既存事業と新規事業は分離したものではなく、顧客の課題に対して、部門横断によるOne SHARPで、総合ソリューションを提案することができる。フィジカルAIの社会実装にも貢献できる」とも述べた。
AIサーバー事業への参入、シャープ「飛躍の材料」に
新規事業の取り組みにおいては、鴻海の生産力および調達力を生かしてAIサーバー事業への参入について踏み込んで説明した
これによると、2027年度までに、鴻海の生産力および調達力を生かしたAIサーバーの販売を日本で開始することになる。これまでは2028年度以降の次期中期経営計画における「飛躍の材料」と位置づけていたが、これを前倒しして、早期の事業化を図る。


AIサーバー事業への参入。鴻海の生産力および調達力を生かし、2027年度までの早期に日本でAIサーバーの販売を開始する
「リードタイムがあるビジネスのため、2027年度に事業を開始するとなると、2026年度のできるだけ早い時点で受注開始の公表をしなくてはならない。その時点で、詳細を示したい」とし、「需給がひっ迫しているAIサーバーの確実な供給、最適なスペックの提案、顧客の課題解決に向けた総合提案、ユーザーの事業立地にあわせた細かな保守提案を進める。ここには、シャープが培ってきたB2B事業のノウハウを生かすことができる。他社とのパートナーシップの活用や、シャープが日本全国に保有している保守サービ網を活用し、順次、AIサーバーの運用、保守が可能な体制にアップグレードする。Dynabookのリソースも活用して、AIサーバーの構築、導入支援を行うこともできるだろう。末端の顧客とつながることができる強みがシャープにはある。顧客の要望を聞いて、製品に反映したい。将来的には、フィジカルAIやAIエージェントのための次世代ンプラットフォーム構築する。エッジデバイスからデータセンターまでのAI基盤と、顧客課題を解決するためのソリューションを一体提供する新たなビジネスモデルの構築を目指す」と語った。
AIサーバーの製品化においては、鴻海が持つ世界最大規模のAIサーバーの製造能力および調達力を活用。同様に鴻海が持つ豊富なAIデータセンターソリューションや、主要プレーヤーとの強固なパートナーシップも、生かすことができるとみている。
「米国や中国では、先行してAIサーバー市場が拡大している。ここでは、AIの学習用途だけでなく、推論用途での利用が拡大していること、ハイパースケーラーに加えて、企業や研究機関、自治体などの多様なプレーヤーが、AIサーバーへの投資を拡大しているという動きがある。今後、AIサーバー市場が立ち上がる日本では、最初から推論用途が中心となり、多様なプレーヤーが参画する市場になる。ここにおいて、シャープは大きな事業機会を獲得できる。当初は販売がメインだが、運用、保守、構築支援、導入支援といった形で付加価値を高め、利益率を高めていきたい」と事業拡大に意気込みをみせた。
シャープらしさで成功を、宇宙関連やEVの事業化も模索
衛星通信分野では、3つのステップで事業拡大を図る。
ステップ1では、衛星通信事業者との協業を進め、衛星通信事業者と具体的ビジネススキームを構築。ステップ2では、特定産業向け展開し、各種市場向けソリューションを提供。ステップ3においては、モビリティやドローン向けの展開を進め、大手自動車メーカーと車載用端末の開発について、具体的協議を進めることになるという。
「衛星通信は、地球上のあらゆる場所でAIが活用される『AI anywhere』の実現に不可欠な通信インフラとなる。シャープは、世界最小レベルの衛星通信端末を強みに、2027年度からの事業化を目指す。3つのステップにおいて、それぞれにパートナー企業と連携し、具体的な取り組みを進めることになる」と述べた。


衛星通信分野では、3つのステップで事業拡大を図る
インダストリーDXでは、高度な映像技術や音響技術を活用し、AIによる制御やシミュレーション技術を強みに、生活インフラや交通インフラ、建設業界などといった多様な産業において、課題解決に貢献するという。
すでに、生活インフラでは、各自治体とともに上水管漏水検知に取り組んだり、交通インフラでは、JR東日本とパンタグラフすり板計測に取り組んだりしている。また、建設業界では、清水建設と配筋検査システムの実用化に取り組んでいる事例がある。
「インダストリーDXは、シャープの技術資産が生かせる領域である。様々なパートナーと実証実験を推進しており、これらをテコに事業を大きく伸ばしていく」と意欲をみせた。

生活インフラや交通インフラ、建設業界などといった多様な産業において、課題解決に貢献するインダストリーDX
さらに、EVについては、走行時だけでなく、止まっている時間にもフォーカスしたコンセプトを持つEV「LDK+」の開発を進めており、鴻海のケイパビリティを活用するとともに、家電関連技術を応用した空間づくり、AIoT家電や住宅との連携といった家電メーカーならではの提案を進める。
「現在、具体的な事業計画について精査している。だが、日本のEV市場全体を喚起するようなインパクトを持ったクルマではなく、EVの新たな用途として提案するものになる。身の丈にあったモノづくりを検討している。車内での過ごし方や空間演出に重きを置くという点が、家電メーカーであるシャープが目指すところである。1日中、人に寄り添うという狙いのなかで、生きてくるソリューションのひとつになる」とした。
現時点では、「新たなバートナーシップなどについて、話せることはない」としたが、「LDK+のコンセプトを根本的に見直すことはしていない。事業計画に関する議論を続けているところだ」と述べた。
さらに、宇宙用太陽電池では、低軌道衛星の増加に加えて、安全保障などが背景となり、中国企業が欧米市場へ参入することが困難な状況が追い風となっており、世界最高水準の変換効率33.66%を達成した技術力も生かすことで、各国の宇宙開発や衛星通信に貢献できると見ている。2027年度には、新規大型案件の獲得を目指しているという。

EVと宇宙用太陽電池の進捗
家電事業、2026年度「増収増益を目指す」が「馬力が必要な1年になる」
スマートライフの取り組みについては、シャープ 常務執行役員 Co-COO 兼 スマートライフビジネスグループ長の菅原靖文氏が説明した。

シャープ 常務執行役員 Co-COO 兼 スマートライフビジネスグループ長の菅原靖文氏
2025年度は、市況の低迷や競争環境の激化などにより減収となったが、米国キッチン事業やB2B事業の伸長に加え、テレビ事業およびエネルギーソリューション事業における構造改革効果などによって増益を確保したことを報告。「シャープの中心は、あくまでも家電である」との姿勢を強調しながら、「AIoTについては、2025年6月以降、生成AI対応商品を発売し、ヘルシオ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機、テレビの5カテゴリーに展開して、18万台以上を出荷した。ヘルシオや洗濯機など、個別の商品ごとに、最適な回答できるようになっている。また、他社連携による新サービスの立ち上げや、クラウドHEMSサービスのCOCORO ENERGYによるHEMS対応も開始した。また、B2B領域では、アイススラリー冷蔵庫の発売や、テレビのMIFを活用したデータビジネスを開始した。テレビ、ソーラー、空気清浄機、洗濯機のテレビCMのボリュームを増やし、シャープブランドの醸成にも取り組んだ」と成果を強調した。

2025年度は米国キッチン事業やB2B事業の伸長、構造改革効果などによって増益を確保
2026年度については、AIoTの本格拡大および収益化と、B2B事業の拡大による「事業変革の加速」、高付加価値化の加速や新規カテゴリーの創出、グローバルでの事業拡大による「収益基盤の強化」の2点に取り組む。
「中国企業との競争激化、量販店などにおけるプライベートブランド(PB)の拡大、外部環境悪化に伴うコストの増加、円安の定着など、白物家電事業には逆風となっている。シャープは日系家電メーカーらしく、お客様のニーズに応える付加価値の高い商品を投入し続ける。AIoTもPBでは、やりにくい分野で、差別化になる。また、お客様目線でのサービスの強みも発揮していく。スピード感を持って取り組むことが重要であり、同時にブランディングの強化も進める。2026年度は、逆風を飲み込んで、増収増益を目指す。相当に馬力が必要な1年になる」と位置づけた。

2026年度は「事業変革の加速」と「収益基盤の強化」の2点に取り組む

中国企業との競争激化、外部環境の悪化など逆風が吹いていたとしても、白物家電事業で増収増益を目指す
清潔ランドリー事業では、国内において、2025年11月に発売した8kgのヒートポンプ式洗濯乾燥機が好調に推移。「他社にはない製品であり、PBとの差別化にもなる。これをベースにラインアップの拡充を図る」とした。また、2026年度下期には、排水レスの循環型洗濯システムを投入する予定も明らかにした。地方自治体などからの引き合いが多く、利益面での貢献が大きいと見ている。さらに、業務用掃除機のOEMを開始し、2026年7月から量産を開始するという。
海外では、ASEANにおける洗濯機の普及率が低く、今後は中間層の購入が拡大すると予測。15〜20kgサイズの大型全自動洗濯機や、新たなドラム式洗濯乾燥機の投入を進める考えだ。

清潔ランドリー事業、国内市場では高付加価値モデルの強化がポイントになる
エアコン事業に関しては、国内の2027年度問題に対応した需要増の取り込みに力を注ぐ。「この2年間は、市場在庫の削減に積極的に取り組んできた結果、売上は減少したが、利益は大きく改善した。2026年4月、5月も前年同月比1.5倍で推移している。しっかりと供給を行う。2027年度省エネ基準に合致した新製品を、2026年度から投入している。カビの除菌性能や、室外機の小型化、生成AIの搭載などを差別化要因として訴求する。2027年度は開発投資をミニマイズしながら戦っていける。これまでは身をかがめてきた期間だったが、これからはジャンプアップできる。エアコン事業の黒字化を進める」と成長戦略の実行に意欲をみせた。
海外では、2025年度にASEANが冷夏となったことで需要が3割減少したが、2026年4月以降は前年同月比2桁増で伸長。現地の省エネ規制に対応したインバータモデルを中心に展開していくことになる。

エアコン事業では、国内の2027年度問題に対応した需要増の取り込みに力を注ぐ
キッチン事業については、2025年度にさらに事業拡大を図る計画で、シャープが強みを持つドロワーレンジを強化。業界初となる白モデルおよび黒モデルを追加するほか、次世代ドロワーレンジの導入や、高速オーブンを訴求する。なお、ドロワーレンジのOEMでは、2026年10月までの受注実績で大きな数字が積みあがっているという。
また、幅45cmの食洗機や、幅60cmのコンロ、電子レンジに加えて、幅60cmの冷蔵庫を新たに投入し、コンパクトキッチン化にも対応するという。

米キッチン事業でドロワーレンジが強みを発揮
スマートライフにおけるB2B事業への取り組みでは、シャープが持つ技術アセットを活用して、現場での課題を捉えたソリューションとして提案。暑熱対策、災害対策、電気代対策といった観点からアプローチする考えだ。具体的には、アイススラリー冷蔵庫では、今年の夏場に向けて、業種を問わずに多くの企業から受注を獲得しているほか、2026年度からは、学校および学生スポーツチーム向けに新サービスを開始する。
さらに、排水レス循環型洗濯システムを2026年度から事業化し、実証実験で約33.5%の消費電力削減効果を確認したDR制御ソリューションでも新規商談を加速させる。

B2B事業拡大の取り組み。災害やエネルギー対策で展開を加速
サービスの価値向上に向けた取り組みも強化する。全国各地にサービス拠点を持つサポート体制を生かし、家電パーツ点検、消耗品販売、クリーニングなどの有償アフターサービスを拡充する考えだ。ここでは、AI活用による故障予測や故障原因特定を進め、訪問サービスの効率を向上させる取り組みも開始する。
「スマートライフ事業を通じて、シャープブランドを、生き残るブランドではなく、勝ち残るブランドにしていく。そして、シャープ全体を持ち上げるブランドとして事業成長を果たす」と語った。
AIoTの現状、生成AIサービスの拡大、エージェンティックAIサービスの開始も
一方、AIoT事業の進捗状況についても説明した。
現在、シャープの家電のうち、ネットに接続している製品は3〜4割と推定。約1000万台のMIF(Machines In the Field)があるという。
エアコンや冷蔵庫では、今後、ミドルレンジの機種もAIoT化する予定であるほか、ネット接続に向けた誘引活動を組み合わせることで、2026年度にはネット接続している家電を約1300万台にまで拡大。2027年度には1500万台にまで拡大する。
また、COCORO HOME AIの利用率が約85%となり、1日に20回以上のトークを行うコア層が存在しており、「家電に対する愛着を持つユーザーが増加している」との手応えも示す。また、家電利用時の課題が解決され、機器の使いこなしを促進。同時に、「操作・お手入れの方法」や「機器の仕様」に関するコールセンターへの問い合わせが約30%減少するという効果も生んだという。さらに、2016年以降に発売したAIoT対応のヘルシオにも生成AIサービスを開始したところ、約5000人のユーザーが利用したという。
「生成AIの活用によって、顧客の嗜好や、機器の状態に合わせ、提案から実行までサポートできるように進化した。過去の機種への生成AIサービスの拡大により、試験運用とはいえ、5000人の利用があったことで、サービス有償化にもつげられる感触を得た。また、シャープの家電は長く使えば使うほど、ステップがあがった使い方ができる可能性も提案できた。シャープの製品を、長年ご愛顧してもらうためのメッセージになる」としたほか、「2025年度には、商品別だった顧客データ基盤を統合した。これを活用して、ターゲティング化したマーケティング活動が可能になる」と述べ、すでに、商品や消費品などの1人あたり購買個数が約30%増加したり、平均客単価が約50%向上したりといった成果につながっていることも示した。
顧客データ基盤の統合は、国内での取り組みに続き、北米では2025年度からスタートしており、ASEANでも順次導入を図る予定だ。

AIoT事業の進捗。生成AIサービスの拡大と顧客データ基盤の統合を進める
また、2026年度は、人とクルマ、IoTを融合させた提案を、この分野のリーダーとして提案。具体的には、2026年度下期から、エージェンティックAIサービスを開始するという。顧客データを活用し、利便性を高める提案を先回りして行ったり、製品横断のサービスの提供や、サービスのパーソナライズを深化させたりする。

AIサービス事業の収益化を本格化。エージェンティックAIサービスも開始する
「空気清浄機に花粉モードを設定することが多い家庭向けには、そのデータをもとに、花粉に効果的なレシピをヘルシオが提案したり、花粉を落としやすい洗濯モードを洗濯機が提案したりといったように、家電が連携しながら、能動的に、お客様の困りごとに最適な解決方法を、先回りして提案してくれるようになる。これによって、次もシャープ、次はシャープという環境を実現する」という。
AIoT事業の収益向上に向けては、AIサービス、クロスセル、過去機種への対応、アフターサービスという4点からアプローチし、「AIサービス事業での収益化に向けた取り組みを本格展開する」と述べた。
(後編へ続く)

シャープの河村哲治社長 CEOは、「2025年度は、収益力、財務体質、信用力が大きく改善した1年となった。成長基盤となるブランド事業への投資、従業員エンゲージメントスコアも向上し、再成長の土台づくりが着実に進展した」と、これまでの取り組みを総括。「今後は、『暮らす』と『働く』のあらゆるシーンにおいて、AIを掛け合わせ、人の未来を拓くことが、目指す方向性となる。スマートライフ、スマートワークプレイス、ディスプレイデバイスの3つの事業を中心に、新たな価値を創造する。また、AIインフラと次世代通信分野でも新たな事業を展開し、AIでの価値創造を支える社会基盤の構築を進める」と述べ、「既存事業の強化と事業変革を強力に推進するとともに、成長を牽引する新規事業の立ち上げを加速する。これにより、成長ステージへと歩みを進める」との姿勢を示した。


また、親会社の鴻海では、3つの産業(EV、デジタルヘルス、ロボティクス)、3つの技術(AI、半導体、次世代通信)、3つのプラットフォーム(スマートマニュファクチャリング、スマートEV、スマートシティ)で構成する「3+3+3」戦略を推進しており、「これらの分野は、シャープの重点分野とも親和性が高く、シナジーが期待できる。AIを核とした両社のビジョンの実現に向け、互いの強みを融合し、各事業の成長を飛躍的に向上させる」と述べ、鴻海との連携強化をこれまで以上に推進する考えも強調した。

鴻海入りから10年の節目、ともに新規事業に挑戦したい
シャープは、2016年に鴻海の傘下に入ってから、ちょうど10年を経過した。
「鴻海の事業ポートフォリオは大きく変化し、スマホの受託生産だけの企業ではなく、AIサーバーの生産は、全社売上高の約4割を占めている。ロボティクスや宇宙にも取り組んでいる。シャープ自らも、今の鴻海の姿を正しく理解し、シャープ自らが貪欲になって、鴻海に協業を持ち掛けたい。鴻海において新事業を開発する中央BD(ビジネスデベロップメント)と連携するために、私自身がそれを理解する必要があると考え、5月だけで2回、鴻海の本社を訪問し、幹部とのコミュニケーションを構築してきた。鴻海のリソース活用し、再成長に向けた時間短縮を図る。また、日本の企業は、綿密な計画を立てた上で、たくさん素振りをして、打席に向かうカルチャーがある。まずは打席に立って、振ってみるということが、スピードをあげる上では大切である。鴻海とは、Win−Winの関係を構築し、補完し合うことができる新たな関係を作り上げることを、新社長である私の活動の目玉にしたい」と述べた。
さらに、成熟事業中心の事業構造を、成長型に転換。既存事業であるスマートライフ、スマートワークプレイス、ディスプレイデバイスは、顧客接点の強化とAIを核とした事業変革を推進し、着実な事業成長と収益性向上を実現。新規事業は成長領域と位置づけ、AIインフラ、次世代通信、ロボティクス/インダストリーDX、モビリティに取り組む。「新規事業では、『暮らす』と『働く』の顧客接点の拡張と、AI活用の基盤構築に向けて、シャープの強みを活かせる新しい産業領域に挑戦する。新規事業はすべて急速に市場が拡大している分野ばかりである。合計すると2030年度には、5〜6兆円の市場規模になる。そのなかにおいて、4〜5%のシェアを狙いたい。新規事業では年間で2000〜3000億円の売上規模を目指す。立ち上がり期は、AIサーバーの貢献が大きいだろう」とした。

また、「既存事業と新規事業は分離したものではなく、顧客の課題に対して、部門横断によるOne SHARPで、総合ソリューションを提案することができる。フィジカルAIの社会実装にも貢献できる」とも述べた。
AIサーバー事業への参入、シャープ「飛躍の材料」に
新規事業の取り組みにおいては、鴻海の生産力および調達力を生かしてAIサーバー事業への参入について踏み込んで説明した
これによると、2027年度までに、鴻海の生産力および調達力を生かしたAIサーバーの販売を日本で開始することになる。これまでは2028年度以降の次期中期経営計画における「飛躍の材料」と位置づけていたが、これを前倒しして、早期の事業化を図る。


「リードタイムがあるビジネスのため、2027年度に事業を開始するとなると、2026年度のできるだけ早い時点で受注開始の公表をしなくてはならない。その時点で、詳細を示したい」とし、「需給がひっ迫しているAIサーバーの確実な供給、最適なスペックの提案、顧客の課題解決に向けた総合提案、ユーザーの事業立地にあわせた細かな保守提案を進める。ここには、シャープが培ってきたB2B事業のノウハウを生かすことができる。他社とのパートナーシップの活用や、シャープが日本全国に保有している保守サービ網を活用し、順次、AIサーバーの運用、保守が可能な体制にアップグレードする。Dynabookのリソースも活用して、AIサーバーの構築、導入支援を行うこともできるだろう。末端の顧客とつながることができる強みがシャープにはある。顧客の要望を聞いて、製品に反映したい。将来的には、フィジカルAIやAIエージェントのための次世代ンプラットフォーム構築する。エッジデバイスからデータセンターまでのAI基盤と、顧客課題を解決するためのソリューションを一体提供する新たなビジネスモデルの構築を目指す」と語った。
AIサーバーの製品化においては、鴻海が持つ世界最大規模のAIサーバーの製造能力および調達力を活用。同様に鴻海が持つ豊富なAIデータセンターソリューションや、主要プレーヤーとの強固なパートナーシップも、生かすことができるとみている。
「米国や中国では、先行してAIサーバー市場が拡大している。ここでは、AIの学習用途だけでなく、推論用途での利用が拡大していること、ハイパースケーラーに加えて、企業や研究機関、自治体などの多様なプレーヤーが、AIサーバーへの投資を拡大しているという動きがある。今後、AIサーバー市場が立ち上がる日本では、最初から推論用途が中心となり、多様なプレーヤーが参画する市場になる。ここにおいて、シャープは大きな事業機会を獲得できる。当初は販売がメインだが、運用、保守、構築支援、導入支援といった形で付加価値を高め、利益率を高めていきたい」と事業拡大に意気込みをみせた。
シャープらしさで成功を、宇宙関連やEVの事業化も模索
衛星通信分野では、3つのステップで事業拡大を図る。
ステップ1では、衛星通信事業者との協業を進め、衛星通信事業者と具体的ビジネススキームを構築。ステップ2では、特定産業向け展開し、各種市場向けソリューションを提供。ステップ3においては、モビリティやドローン向けの展開を進め、大手自動車メーカーと車載用端末の開発について、具体的協議を進めることになるという。
「衛星通信は、地球上のあらゆる場所でAIが活用される『AI anywhere』の実現に不可欠な通信インフラとなる。シャープは、世界最小レベルの衛星通信端末を強みに、2027年度からの事業化を目指す。3つのステップにおいて、それぞれにパートナー企業と連携し、具体的な取り組みを進めることになる」と述べた。


インダストリーDXでは、高度な映像技術や音響技術を活用し、AIによる制御やシミュレーション技術を強みに、生活インフラや交通インフラ、建設業界などといった多様な産業において、課題解決に貢献するという。
すでに、生活インフラでは、各自治体とともに上水管漏水検知に取り組んだり、交通インフラでは、JR東日本とパンタグラフすり板計測に取り組んだりしている。また、建設業界では、清水建設と配筋検査システムの実用化に取り組んでいる事例がある。
「インダストリーDXは、シャープの技術資産が生かせる領域である。様々なパートナーと実証実験を推進しており、これらをテコに事業を大きく伸ばしていく」と意欲をみせた。

さらに、EVについては、走行時だけでなく、止まっている時間にもフォーカスしたコンセプトを持つEV「LDK+」の開発を進めており、鴻海のケイパビリティを活用するとともに、家電関連技術を応用した空間づくり、AIoT家電や住宅との連携といった家電メーカーならではの提案を進める。
「現在、具体的な事業計画について精査している。だが、日本のEV市場全体を喚起するようなインパクトを持ったクルマではなく、EVの新たな用途として提案するものになる。身の丈にあったモノづくりを検討している。車内での過ごし方や空間演出に重きを置くという点が、家電メーカーであるシャープが目指すところである。1日中、人に寄り添うという狙いのなかで、生きてくるソリューションのひとつになる」とした。
現時点では、「新たなバートナーシップなどについて、話せることはない」としたが、「LDK+のコンセプトを根本的に見直すことはしていない。事業計画に関する議論を続けているところだ」と述べた。
さらに、宇宙用太陽電池では、低軌道衛星の増加に加えて、安全保障などが背景となり、中国企業が欧米市場へ参入することが困難な状況が追い風となっており、世界最高水準の変換効率33.66%を達成した技術力も生かすことで、各国の宇宙開発や衛星通信に貢献できると見ている。2027年度には、新規大型案件の獲得を目指しているという。

家電事業、2026年度「増収増益を目指す」が「馬力が必要な1年になる」
スマートライフの取り組みについては、シャープ 常務執行役員 Co-COO 兼 スマートライフビジネスグループ長の菅原靖文氏が説明した。

2025年度は、市況の低迷や競争環境の激化などにより減収となったが、米国キッチン事業やB2B事業の伸長に加え、テレビ事業およびエネルギーソリューション事業における構造改革効果などによって増益を確保したことを報告。「シャープの中心は、あくまでも家電である」との姿勢を強調しながら、「AIoTについては、2025年6月以降、生成AI対応商品を発売し、ヘルシオ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機、テレビの5カテゴリーに展開して、18万台以上を出荷した。ヘルシオや洗濯機など、個別の商品ごとに、最適な回答できるようになっている。また、他社連携による新サービスの立ち上げや、クラウドHEMSサービスのCOCORO ENERGYによるHEMS対応も開始した。また、B2B領域では、アイススラリー冷蔵庫の発売や、テレビのMIFを活用したデータビジネスを開始した。テレビ、ソーラー、空気清浄機、洗濯機のテレビCMのボリュームを増やし、シャープブランドの醸成にも取り組んだ」と成果を強調した。

2026年度については、AIoTの本格拡大および収益化と、B2B事業の拡大による「事業変革の加速」、高付加価値化の加速や新規カテゴリーの創出、グローバルでの事業拡大による「収益基盤の強化」の2点に取り組む。
「中国企業との競争激化、量販店などにおけるプライベートブランド(PB)の拡大、外部環境悪化に伴うコストの増加、円安の定着など、白物家電事業には逆風となっている。シャープは日系家電メーカーらしく、お客様のニーズに応える付加価値の高い商品を投入し続ける。AIoTもPBでは、やりにくい分野で、差別化になる。また、お客様目線でのサービスの強みも発揮していく。スピード感を持って取り組むことが重要であり、同時にブランディングの強化も進める。2026年度は、逆風を飲み込んで、増収増益を目指す。相当に馬力が必要な1年になる」と位置づけた。


清潔ランドリー事業では、国内において、2025年11月に発売した8kgのヒートポンプ式洗濯乾燥機が好調に推移。「他社にはない製品であり、PBとの差別化にもなる。これをベースにラインアップの拡充を図る」とした。また、2026年度下期には、排水レスの循環型洗濯システムを投入する予定も明らかにした。地方自治体などからの引き合いが多く、利益面での貢献が大きいと見ている。さらに、業務用掃除機のOEMを開始し、2026年7月から量産を開始するという。
海外では、ASEANにおける洗濯機の普及率が低く、今後は中間層の購入が拡大すると予測。15〜20kgサイズの大型全自動洗濯機や、新たなドラム式洗濯乾燥機の投入を進める考えだ。

エアコン事業に関しては、国内の2027年度問題に対応した需要増の取り込みに力を注ぐ。「この2年間は、市場在庫の削減に積極的に取り組んできた結果、売上は減少したが、利益は大きく改善した。2026年4月、5月も前年同月比1.5倍で推移している。しっかりと供給を行う。2027年度省エネ基準に合致した新製品を、2026年度から投入している。カビの除菌性能や、室外機の小型化、生成AIの搭載などを差別化要因として訴求する。2027年度は開発投資をミニマイズしながら戦っていける。これまでは身をかがめてきた期間だったが、これからはジャンプアップできる。エアコン事業の黒字化を進める」と成長戦略の実行に意欲をみせた。
海外では、2025年度にASEANが冷夏となったことで需要が3割減少したが、2026年4月以降は前年同月比2桁増で伸長。現地の省エネ規制に対応したインバータモデルを中心に展開していくことになる。

キッチン事業については、2025年度にさらに事業拡大を図る計画で、シャープが強みを持つドロワーレンジを強化。業界初となる白モデルおよび黒モデルを追加するほか、次世代ドロワーレンジの導入や、高速オーブンを訴求する。なお、ドロワーレンジのOEMでは、2026年10月までの受注実績で大きな数字が積みあがっているという。
また、幅45cmの食洗機や、幅60cmのコンロ、電子レンジに加えて、幅60cmの冷蔵庫を新たに投入し、コンパクトキッチン化にも対応するという。

スマートライフにおけるB2B事業への取り組みでは、シャープが持つ技術アセットを活用して、現場での課題を捉えたソリューションとして提案。暑熱対策、災害対策、電気代対策といった観点からアプローチする考えだ。具体的には、アイススラリー冷蔵庫では、今年の夏場に向けて、業種を問わずに多くの企業から受注を獲得しているほか、2026年度からは、学校および学生スポーツチーム向けに新サービスを開始する。
さらに、排水レス循環型洗濯システムを2026年度から事業化し、実証実験で約33.5%の消費電力削減効果を確認したDR制御ソリューションでも新規商談を加速させる。

サービスの価値向上に向けた取り組みも強化する。全国各地にサービス拠点を持つサポート体制を生かし、家電パーツ点検、消耗品販売、クリーニングなどの有償アフターサービスを拡充する考えだ。ここでは、AI活用による故障予測や故障原因特定を進め、訪問サービスの効率を向上させる取り組みも開始する。
「スマートライフ事業を通じて、シャープブランドを、生き残るブランドではなく、勝ち残るブランドにしていく。そして、シャープ全体を持ち上げるブランドとして事業成長を果たす」と語った。
AIoTの現状、生成AIサービスの拡大、エージェンティックAIサービスの開始も
一方、AIoT事業の進捗状況についても説明した。
現在、シャープの家電のうち、ネットに接続している製品は3〜4割と推定。約1000万台のMIF(Machines In the Field)があるという。
エアコンや冷蔵庫では、今後、ミドルレンジの機種もAIoT化する予定であるほか、ネット接続に向けた誘引活動を組み合わせることで、2026年度にはネット接続している家電を約1300万台にまで拡大。2027年度には1500万台にまで拡大する。
また、COCORO HOME AIの利用率が約85%となり、1日に20回以上のトークを行うコア層が存在しており、「家電に対する愛着を持つユーザーが増加している」との手応えも示す。また、家電利用時の課題が解決され、機器の使いこなしを促進。同時に、「操作・お手入れの方法」や「機器の仕様」に関するコールセンターへの問い合わせが約30%減少するという効果も生んだという。さらに、2016年以降に発売したAIoT対応のヘルシオにも生成AIサービスを開始したところ、約5000人のユーザーが利用したという。
「生成AIの活用によって、顧客の嗜好や、機器の状態に合わせ、提案から実行までサポートできるように進化した。過去の機種への生成AIサービスの拡大により、試験運用とはいえ、5000人の利用があったことで、サービス有償化にもつげられる感触を得た。また、シャープの家電は長く使えば使うほど、ステップがあがった使い方ができる可能性も提案できた。シャープの製品を、長年ご愛顧してもらうためのメッセージになる」としたほか、「2025年度には、商品別だった顧客データ基盤を統合した。これを活用して、ターゲティング化したマーケティング活動が可能になる」と述べ、すでに、商品や消費品などの1人あたり購買個数が約30%増加したり、平均客単価が約50%向上したりといった成果につながっていることも示した。
顧客データ基盤の統合は、国内での取り組みに続き、北米では2025年度からスタートしており、ASEANでも順次導入を図る予定だ。

また、2026年度は、人とクルマ、IoTを融合させた提案を、この分野のリーダーとして提案。具体的には、2026年度下期から、エージェンティックAIサービスを開始するという。顧客データを活用し、利便性を高める提案を先回りして行ったり、製品横断のサービスの提供や、サービスのパーソナライズを深化させたりする。

「空気清浄機に花粉モードを設定することが多い家庭向けには、そのデータをもとに、花粉に効果的なレシピをヘルシオが提案したり、花粉を落としやすい洗濯モードを洗濯機が提案したりといったように、家電が連携しながら、能動的に、お客様の困りごとに最適な解決方法を、先回りして提案してくれるようになる。これによって、次もシャープ、次はシャープという環境を実現する」という。
AIoT事業の収益向上に向けては、AIサービス、クロスセル、過去機種への対応、アフターサービスという4点からアプローチし、「AIサービス事業での収益化に向けた取り組みを本格展開する」と述べた。
(後編へ続く)
