サッカー大国にとって「宗教のようなもの」と例えられるワールドカップ。その偉大さゆえ、修行のような方針が取り沙汰されることもある。

【画像】“性行為禁止令”を出した監督たちと「試合前にしたほうがよい」派のブラジル選手、女性格闘技チャンピオンの写真を見る


※画像はイメージ ©AFLO

2014年ブラジルW杯で選手たちに「セックス禁止令」

「禁欲で死んだ奴なんていない。選手はサッカーのことだけ考えろ」

 2014年、メキシコ代表監督の方針は大きな話題を呼んだ。ブラジルワールドカップ終了までの40日間、選手たちに性行為禁止を命じたのだ。

 ロシアやチリも同様の方針を発表した。ナイジェリアは「夫婦間のみOK」と限定し、ブラジルは「アクロバティックなセックス厳禁」と指定。イタリアにいたってはAV鑑賞まで禁じられたという噂まで流れた。

 コスタリカは「予選を突破したらセックス解禁」という飴と鞭を用いた。

 禁欲は、本当に効果があるのだろうか? 結果だけ見ればそんな簡単なことではないだろう。完全に性行為を禁止していた代表チームはすべてベスト8に行けなかった。

「セックスが良い」派もいる。優勝経験もある“ブラジルの伝説”、ロナウド・ナザリオによれば「試合前にすれば集中力が高まる」そうだ。近年でも、スペインの名門アトレティコ・マドリードの監督ディエゴ・シメオネが「月4回しかヤれてない男はうちに入る資格はない」とジョークを飛ばしたりしている。

本当に「セックスが身体能力を低下させる」のか?

「セックスが身体能力を低下させる」という考えは、サッカー界に限らない。有名なのがボクシング界。あのモハメド・アリも、先人にならって試合の6週間前から禁欲を実践していたと伝えられている。

 禁欲すれば、欲求不満によってプレーの攻撃性が高まる。射精してしまえば、攻撃性にまつわるテストステロン(男性ホルモン)が減ってしまう──こうした考えは、古代オリンピックの時代から受け継がれている。しかし、おさえておくべきは、当時のギリシアの人々が競技を宗教儀式ととらえていたからこそ「高潔な精神」を重視していた点にある。

 科学的にはどうか。プロアスリートを対象とした大規模な研究はないものの「試合2時間前までの性行為なら運動能力に大きな影響がない」見方が強いようだ。一般的な夫婦間の性行為で男性が消費するカロリーは25〜50kcalとされ、階段をのぼりおりする程度にすぎない。

「射精後不応期」、いわゆる「賢者タイム」が響くことがあるが、若く体力のある選手ならリスクが低い。むしろ内分泌学を専門にするエマヌエーレ・ジャンニーニによると、3か月禁欲するとテストステロン値が子ども並に下がってしまうおそれすらあるそうだ。

 対照的に、女性の場合、オーガズムによるテストステロン値の急増がアグレッシブなプレーの促進に寄与する可能性を指摘する研究者もいる。総合格闘技チャンピオンだったロンダ・ラウジーは、試合前に「なるべくたくさんのセックス」をするようつとめていたほどだ。

選手のコンディションを守るため…監督おすすめのプレイ内容は

 ただし、選手の性生活を制限する目的は、セックスにとどまるものではない。コンディションの調整こそ重要なのだ。自慰行為を含めた性行為でリラックスして眠れるなら良いが、睡眠が妨げられたり飲酒してしまったりしたら元も子もない。

 ブラジル代表の「アグレッシブなセックス厳禁」ルールも突飛なわけではない。性行為による怪我、とくにシャワーでの転倒事故は珍しくない。

 プレイ内容を指導する監督もいる。伊インテル・ミラノの指揮を取っていたアントニオ・コンテのおすすめは、親しいパートナーに上に乗ってもらう体位で、なるべく短く低い労力で済ますスタイルだという。

 もちろん、いくら準備万端で挑んでも、波乱万丈なのがワールドカップだ。ブラジル大会で「セックス禁止令」が話題になったメキシコ代表は、2018年ロシア大会に向けた親善試合のあと、30人もの風俗嬢を集めて乱交パーティーを繰り広げたとスクープされた。

 選手たちの否定もやむなく一気にスキャンダルとなり、チームの連帯が危ぶまれる事態に陥ってしまった。しかし、いざワールドカップがはじまると、初戦で前回王者ドイツをサプライズ撃破。「怒り狂う妻に名誉挽回するため奮起した」と茶化されたのは言うまでもない。試合が終わるまで、サッカーの神さまがいつ微笑むかはわからない。

(辰巳JUNK)