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糖尿病の治療薬「マンジャロ」をSNSで無許可で販売したなどとして、大阪府警は6月2日、20代から30代の男女3人を医薬品医療機器法(薬機法)違反の疑いで書類送検したと報じられました。

日経新聞などの報道によると、うち2人は今年2月、販売目的でマンジャロ数本を自宅に保管した疑い、もう1人は去年12月に、SNSを通じて女性2人に対して無許可で販売した疑いが持たれています。3人はいずれも容疑を認めているとのことです。

マンジャロは本来、ダイエット目的での使用は認められていませんが、一部のクリニックでも「食欲を抑える」などと処方されている他、SNSでは「やせ薬」として若者を中心に広がりを見せています。かねてより厚生労働省や製薬会社が、不適切な使用を控えるよう注意を呼びかけてきました。

今回逮捕されたのは「売る側」ですが、ダイエット目的で購入する「買う側」に法的リスクはないのでしょうか。

●許可なし、処方箋なしで売るのは違法

「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)は、許可を受けていない人が「業として」医薬品を販売することを禁じています(薬機法24条1項)。

ここで言う「許可」とは、医薬品を扱う事業者の資格のことです。具体的には薬局の開設許可や医薬品販売業の許可(薬機法4条1項、25条)を指します。

今回のケースでは、3人ともこの「許可」がなかったものと思われます。

「業として」とは、簡単にいえば反復・継続して売ることをいいますが、1回だけの販売でも、判例は「反復継続して医薬品を不特定または多数の者に対してなす意思の下に有償譲渡する行為があれば足り」るとされています(最高裁昭和41年10月27日決定)。

つまり、不特定または多数の人に繰り返し売っていくような意思が認められる場合、「業として」にあたりうるというわけです。

違反すると、無許可販売の罪(薬機法84条9号、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)に問われます。

なお、仮に「許可」があったとしても、マンジャロは医師の処方箋がないと販売できない医薬品であり、処方箋のない人に販売することも違法です(薬機法49条1項、84条17号、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金か、これらの併科)。

マンジャロを保管していただけでも処罰されうる

「まだ実際に売っていないからセーフ」でもありません。

販売自体はしていないが、販売の目的で自宅に薬を保管していた場合も、同じく処罰の対象となりえます。 なお、条文上は「貯蔵」となっており、その意味は上で紹介した昭和41年最高裁決定では「一般観覧に供することなくある場所に継続して存置し所持する行為」とされています。

今回のケースでも、貯蔵容疑での書類送検が含まれているようです。

●ダイエットのために買った側も違法になる?

結論から言えば、薬機法が罰しているのは、あくまで「売る側」や「貯蔵する側」です。マンジャロを買っただけの人を直接処罰する規定はありません。

ただし、次のようなケースでは罪に問われる可能性があります。

・「多めに買って、残りを友人たちに声をかけ、有償で譲った」
・「使わなくなった分をSNSで転売した」

このような場合は「無許可販売」「貯蔵」した当事者となり得るため、決して行わないでください。

●罰がなくても「買わない方がいい」理由

「罰則がないなら、自己責任で買えば問題ない」と思う方もいるかもしれません。しかし、マンジャロはそもそも医薬品であり、法律にとどまらない以下のようなリスクが高い行為です。

(1)重篤な健康被害が出ても、公的な救済が受けられない

正規に処方された医薬品で重い副作用がでた場合、「医薬品副作用被害救済制度」によって、医療費などの公的支援が受けられます。しかし、正規ルート以外で手に入れた薬は対象外とされており、副作用被害の救済はなく、すべて自己負担となります。

(2)偽造品を見分ける術がない

正規の方法以外で入手した薬が本物である保証はどこにもありません。有害な成分が入っている恐れもあれば、効果のない偽物をつかまされる恐れもあります。最悪の場合には、命に関わるリスクも出てくるでしょう。

(3)保管状況が劣悪であれば、効果は落ちる

マンジャロは高温環境で効果が落ちるとされ、適切な温度管理が必要な薬剤です。入手した薬がいい加減な保管をされていた物かもしれないというリスクがあります。

(4)被害にあっても、現実的に賠償請求は難しい

万が一、偽物をつかまされたり健康被害が出たりした場合、売り手に賠償を求めること自体は理論上可能です。しかし、SNS経由では相手を追跡することは困難なことが予想される他、健康被害と購入した薬の因果関係を証明するのは極めてハードルが高く、実際の請求は非常に難しいと思われます。

マンジャロは本来、医師の管理のもとで使う糖尿病の治療薬です。購入する側に罰則がないからといって、安易にSNSの個人売買に手を出すのは、健康被害も出かねない非常に危険な行為です。正規の処方とは異なる方法で使うことは避けるべきだと考えます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)