栃木強盗殺人事件の「犯人」、真偽不明の卒アルがSNS拡散、事実でも名誉毀損になる可能性…弁護士が警鐘
栃木県で起きた強盗殺人事件をめぐり、逮捕された16歳の高校生らの顔写真や実名だとする真偽不明の情報が、SNS上で拡散している。
Xでは匿名アカウントを中心に「犯人はこの人物だ」と断定する形で、卒業アルバムとみられる写真が投稿されている。
投稿には、未成年の被疑者らの顔写真や氏名に加え、学校名などの個人情報も含まれている。しかし、その多くは情報源や根拠が示されておらず、真偽も確認されていない。
それにもかかわらず、こうした投稿はリポスト(再投稿)によって拡散を続けている。
少年事件では、本人が特定できる情報を公開する「推知報道」が少年法で禁止されている。では、一般のネットユーザーがSNSに実名や顔写真を投稿する行為は許されるのだろうか。
仮に投稿内容が事実だったとしても法的問題はないのか。また、リポストしただけでも責任を問われる可能性はあるのか。櫻町直樹弁護士に聞いた。
●一般ユーザーによるSNS投稿も少年法の趣旨に反する
──逮捕された少年の名前や卒業アルバムの写真をSNSに投稿する行為には、どのような問題がありますか。
SNSの利用が当たり前になった現在、強盗殺人など社会の注目を集める事件が起きるたびに、「逮捕されたのはこの人物だ」などとして、名前や顔写真がSNSで拡散されるケースがみられます。
しかし、このような行為は重大な法的問題をはらんでいます。
少年法61条は、「家庭裁判所の審判に付された少年」や「少年のとき犯した罪により公訴を提起された者」について、氏名や年齢、職業、住居、容貌など、本人を推知できる記事や写真を新聞などに掲載することを禁じています。
<*18・19歳の「特定少年」が起こした事件につき、家庭裁判所から検察官に送致(逆送)・起訴(公判請求)された場合は例外的に適用除外となりますが、今回の事件のように16歳以下の場合そうした適用除外はありません>
これは、少年の情報が社会に広まることで、「犯罪者」という烙印を押され、更生が妨げられることを防ぐためです。
ただし、少年法61条が一般ユーザーによるSNS投稿にも直接適用されるかについては、「新聞紙その他の出版物」と規定していることから議論が分かれるところです。
しかし、SNSは、即時性や拡散性、検索可能性、情報の永続性といった点で、新聞など以上に重大な影響を及ぼすことがあります。
そのため、一般ユーザーがSNSで少年の氏名や顔写真を公表する行為は、少なくとも少年法61条の趣旨に反するものといえるでしょう。
●事実でも名誉毀損は成立しうる
──投稿内容が事実だったとしても問題になるのでしょうか。
はい。少年法に反するかどうかとは別に、名誉毀損やプライバシー侵害として法的責任を問われる可能性があります。
名誉毀損は、単に「真実を述べたから大丈夫」というものではありません。
他人の犯罪事実などをSNSで公開すれば、その人の社会的評価を低下させることになります。公共性や公益目的、真実性などの要件を満たさなければ、名誉毀損が成立することになります。
特に少年事件については、少年法61条の趣旨に照らせば、一般ユーザーがSNSで実名や顔写真を公表する行為については、公益目的が認められにくく、名誉毀損が成立する可能性があると考えられます。
●「他人の投稿を広めただけ」は言い訳にならない
──他人の投稿をリポストしただけでも法的責任を問われる可能性はありますか。
あります。リポストは、他人の投稿を自らのアカウントを通じて拡散する行為です。
実際に裁判例でも、「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われるものであり、原告X2の発言行為とみるべき」として、不法行為責任(名誉毀損)を認めたものがあります(東京地裁平成26年12月24日判決)。
そのため、「自分が元の投稿を作成したわけではない」「他人が投稿したものを広めただけ」という理由で法的責任を免れることはできません。
真偽が確認されていない情報、とりわけ未成年に関する実名や顔写真を安易にリポストすることには、大きな法的リスクがあるといえるでしょう。
【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:内幸町国際総合法律事務所
事務所URL:https://uchisaiwai-law.com
