「イラン情勢の中、不必要に需要を喚起する消費税減税は物価高対策にならない」慶應義塾大学経済学部教授・土居丈朗
イラン攻撃がどの程度長引くかは予断を許さない状況が続いている。長期化すれば打撃が大きくなることは否めない。
今回、考えなければならないのは単に日本の問題だけではないということ。振り返ると、昭和の石油ショックの時は東南アジア諸国はそこまで経済発展していなかったが、今は発展し、日本との間で綿密なサプライチェーン網が出来上がっている。
つまり日本だけ石油が足りても、東南アジア諸国の石油が足りなかったら日本に必要なものが供給されないというリスクがあるということは肝に銘じておかなければならない。どういう形で東南アジア諸国をサポートするかについては、相当な工夫が必要だが、日本国内でもまだ、石油が不足する恐れがある。その時に東南アジアを支援することを日本国民が許すかどうか。
日本国内だけでなく、サプライチェーン網の範囲まで視野を広げて、どのように優先順位を付けていくか。高市政権には難しい判断が求められる。
原油高騰下で、日本企業が利益を出していこうとすれば、問われるのは「価格転嫁力」になる。デフレが30年続いて、日本は世界の中でも価格転嫁が下手な国になってしまった。この物価高で困っている企業が多いという話の大半は価格転嫁が上手にできないということ。
何でも値上げをすればいいという話ではないが、少なくとも原材料が上がっていることに対して正当な値上げをしないと交易条件は悪化したままで、アジア諸国は助かっても、日本企業の利益が出なかったり、赤字になったりという形で自分たちが犠牲になってしまう。これを機にしっかり価格転嫁ができるビジネスモデルをつくっていく必要がある。
原油価格の高騰が続く以上は、高市政権の政策も変更せざるを得ないだろう。ちょうど、田中角栄内閣の時に第一次石油ショックに直面し、田中首相は持論だった「日本列島改造論」を撤回する決断をし、総需要抑制政策を取った。
今も、基本はその方向に行かないと、不必要な物価上昇を招いてしまう。ただでさえ、モノの価格が値上がりしている時に、財政で不必要に需要を喚起すると、また物価上昇を煽ることになってしまい、物価高対策はイタチごっこになってしまう。
高市政権が打ち出した「危機管理投資」における戦略17分野への投資は、初年度は国債発行で賄うかもしれないが、将来何らかの形で財源を得て、それを元手に国債を償還するとしている。それがAI(人工知能)・半導体産業基盤強化フレーム、GX経済移行債を使ったGX戦略など、タイムラグはあるものの、後々の国債の返済原資を前もって決めるということをやっているので、そうしたスキームと同じような形で、予め財源を後年に得ることをコミットした形ならば、財政規律を失わせない形で日本国債の市場に動揺を与えない形で成長戦略を進められるだろう。
仮にそうではなく、国債だけ発行して、返済のことは考えないというような態度を取ると、ただでさえ物価が上がっていて、金利が上がってもおかしくない状況の上に、国債の信認が失われるという形で追加的に金利上昇の圧力をかけてしまうことになる。こうなると「高圧経済」で金利を低く抑えると言ったところで、抑えることはできないだろう。
長期金利については、今の段階で必ず上昇すると断定できる状態にはないが、一部に懸念の声があることを政権は謙虚に受け止める必要がある。一旦、疑心暗鬼に火がついてしまうと、その信頼を回復するためには、それまでの10倍の努力が必要になる。疑心暗鬼の種があることを理解した上で、いかに不必要な金利上昇が起きないようにするかということを市場、国民に説明する必要がある。
