「イラン情勢の中、不必要に需要を喚起する消費税減税は物価高対策にならない」慶應義塾大学経済学部教授・土居丈朗
仮にそうではなく、国債だけ発行して、返済のことは考えないというような態度を取ると、ただでさえ物価が上がっていて、金利が上がってもおかしくない状況の上に、国債の信認が失われるという形で追加的に金利上昇の圧力をかけてしまうことになる。こうなると「高圧経済」で金利を低く抑えると言ったところで、抑えることはできないだろう。
長期金利については、今の段階で必ず上昇すると断定できる状態にはないが、一部に懸念の声があることを政権は謙虚に受け止める必要がある。一旦、疑心暗鬼に火がついてしまうと、その信頼を回復するためには、それまでの10倍の努力が必要になる。疑心暗鬼の種があることを理解した上で、いかに不必要な金利上昇が起きないようにするかということを市場、国民に説明する必要がある。
食品消費税ゼロではなく給付付き税額控除で
為替は円安が続いている。円安を止めたければ日銀が金利引き上げを柔軟にできるようにしなければならない。噂であり根拠はないが、高市首相が利上げに難色を示していると言われ、多くの人がそう見ている。日銀は誰かに慮っているのではないということを明確にし、必要があれば適時適切に金利を上げることができれば、円安に歯止めがかからないという事態は避けられるのではないか。
財政健全化をどう考えるかも重要な課題。2026年度予算でプライマリーバランス(PB)は一般会計で黒字化、他の会計では引き続き赤字があるものの、補正予算で無茶をしない限りはひどいことにはならないだろう。今は財政面で道を踏み外していないことがわかる。
ただ、次年度に何も努力をしなくてもいいということではない。今はインフレに助けられている状況。名目GDP(国内総生産)は物価が上がった分だけ増えており、物価が上がるほどには国債を増やしていないので、債務残高対GDP比がトータルで下がっているだけ。努力して収支が改善したわけではない。
債務残高対GDP比をきちんと下げる、それをインフレ任せではない形で実現するには、PBの黒字定着が極めて大事。
足元の物価高の中、さらに物価が上がることが懸念されている状況で、食料品だけ消費税を下げたところで「焼け石に水」で本質的な問題解決にはならない。イラン情勢を受けて、それ以前とは状況が違うということで、「給付付き税額控除」の早期導入を目指すことが、公約違反にならず、国民のためにもなることだと思う。
今は高市首相に対する「壮大な忖度」が起きていると見ている。政治家、官僚、産業界のどこからも消費税減税をやめようという声が出ていない。もっと正直な議論が必要ではないか。
