「アルファード」変形で解体、「セレナ」が土石流に埋没!? 茨城・埼玉の警察消防が総勢70名で救助…なにがあった? ヘリコプターも登場した大規模訓練とは

JARIが茨城県警察・水戸消防署とタッグを組む大規模訓練とは
災害や事故でクルマが巻き込まれた状態を想定した、リアルで大規模な救助訓練が行われました。
場所は、茨城県にある一般財団法人 日本自動車研究所(略称:JARI)の城里テストセンター。
【画像】超凄い状況… アルファードやZR-Vなどから救助を! 様子を見る!(30枚以上)
自動車メーカー各社が、自社テストコースでは実施が難しい、各種の車両規格に対応する試験を行う場として、自動車業界ではよく知られた施設です。

そんなJARIで2月14日、茨城県警察本部・本部長の滝澤幹滋氏と、水戸市消防局 消防局長の大信成人氏が参加し、それぞれJARIと連携協定を締結。
これを受けて、今回の警察・消防、さらに隣接する県の埼玉県警のヘリコプターも加わり参加隊員数約70名におよぶ合同救出訓練が実施されました。
その内容は、リアル感が満載です。
JARIの広大な敷地と様々な設備を活用した、様々なシチュエーションでの訓練に、筆者を含めた報道陣は度肝を抜かれました。
最初の訓練は、敷地内の調整池を使い、川などの中洲に取り残された人の救助。
茨城県警察の広域緊急援助隊が救助した後、茨城県警察 警備部航空隊のヘリコプター「ひばり」が要救助者を上空から引き上げました。
次いで、土砂埋没捜査救助です。
土石流に巻き込まれたクルマや人が土砂に完全に埋まってしまったという想定です。
想定とはいえ、実際にクルマを地中に完全に埋めてしまったのですから驚きです。
その状態から茨城県警察と水戸消防署が連携し、重機やベルトコンベアを使い、土砂の取り除き作業を進めます。
今回地中に埋めたクルマ、また土石流に巻き込まれた状態から消防対応車がウインチで引き上げたという想定で置かれていたクルマは、まるで本当の事故車のように大きく破損しています。
これらのクルマは新車を用いたわけではなく、国土交通省が監督する、独立行政法人 自動車事故対策機構(略称:ナスバ)が自動車アセスメント用に使ったもの。

自動車アセスメントというと、新車カタログや自動車メーカーのホームページでも見かける、最高5つ☆で記載の「自動車安全性能評価」がユーザーにもよく知られていると思います。
評価は、大きく3つの領域があります。
クルマが人・自転車・自動車・障害物などの衝突を未然に防ぐ「予防安全性能」、実際に衝突が起こった際に乗員を守る「衝突安全性能」、そして重大な事故が発生した場合に備える技術として「事故自動緊急通報」の3つの領域で評価します。
その結果を、点数と☆の数で公表するものです。
ユーザーにとっては、クルマの安全性能について、自動車メーカーではない第三者による公平な評価を知ることが、クルマの購入する際、また運転中の安心感につながります。
こうした自動車アセスメントの衝突試験を終えたくるまが毎年、数多く発生します。
ナスバによれば、基本的には解体されて鉄やアルミなどの素材に転換するということですが、一部車両は自動車関連イベントなどに展示するなど、交通安全の周知とナスバの活動を広報するために活用されています。
その他、消防などでの実際の事故発生を想定した実践的な訓練を行う場合もありますが、
今回のように大規模な訓練に対して、ナスバがこれだけ多くの車両を提供することはとても珍しいといいます。
アルファードやクラウンなどが解体!? 土砂に埋まる? どんな様子だったのか
そして午後には、こうした衝突実験で使用した車両を使った車両解体訓練が行われました。
ここに用意された車両は4台。
トヨタ「アルファード」「クラウン クロスオーバー」、レクサス「NX350h」、そしてホンダ「ZR-V」で、すべてがハイブリッド車になります。
そのほか、前述の土石流での埋没を想定した救助訓練では、トヨタ「クラウン セダン」と日産「セレナ」を使用しました。
車両解体訓練は、茨城県警察と水戸市消防局がぞれぞれ2班、合計4班に分かれて1台づつに対応する形。時間は総括などを含めて約1時間半の工程です。
訓練が始まると、各班のリーダーが車両の状態を確認した後、どのような進め方をするかを隊員に指示します。
事故車内の残された乗員を救出することが目的ですが、それと同時にそれぞれの班がこの機会に試しておきたい作業を試してみるという意味合いもあります。
例えば、水戸市消防局では今回、大型の電動機器を持ち込み、その操作性の確認作業を訓練に取り入れていました。
乗員救出のプロセスのひとつとして、フロントガラスを取り除く作業があります。
水戸消防局の場合、養生テープを張ってから、ガラスの端にドリルで穴を開け、そこから特殊な金属材料を採用した手ノコで短時間にフロントガラスをキレイに切り出してしまいました。
その他、アルファードは車両が大きく変形しているため、スライドドアを外すのにかなりの手間がかかることが分かるなど、事故車の解体の難易度の高さを実感する、筆者にとって貴重な機会となりました。

JARIの代表理事・研究所長の鎌田実氏は今回の訓練について「日本全国で様々な災害があり、直近でも道路陥没事故や大規模な火災が(関東圏内で)起こっている。そうした際の人命救助を日頃からの訓練で迅速に対応できることが非常に大事だ」と、茨城県警察と水戸消防署との連携の実効性を強調しました。
あわせて「今後、ハイブリッド車やEVなど高電圧を使うクルマが増え、また水素を使う燃料電池車がさらに増えると、(救助の際に)どのように作業を行うべきか(の検証としても含めて)、こうした訓練の重要性が高まる」と、次世代パワートレイン車への対応についての考え方も示しました。
今回、JARIでの貴重な体験を受けて、もしもの場合、こうした救助が行われることをユーザーのひとりとして心強く思うのと同時に、安全運転の重要性をユーザーは常に心に刻むことが重要だと、改めて強く感じました。