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 浮気や不倫、配偶者や恋人の裏切りは、どこまでも“された側”の心を傷つけるもの。自分が無価値な人間に思えてきたり、人間不信に陥って心身に不調をきたしてしまうことも少なくありません。

 最近では、夫の不倫が報じられた歌手のLiSAさんが心身疲労により一部活動を休止していたニュースも記憶に新しいところ。また、かつて国民民主党の山尾志桜里衆院議員と不倫疑惑があった男性の元妻が、離婚後に自死をしていたことも報じられています。

不倫された側の心の傷は深い

 これまで数多くの不倫調査を手がけてきた総合探偵事務所「株式会社MR」の岡田真弓社長は、次のように語ります。

「夫の不倫や浮気調査を依頼に来る女性の中には、うつ状態の方も少なくありません。悩みに悩んで一度底をついて『さぁここからどうしようか』と少しだけ心のエネルギーが出てきた段階の方が大半です。またそれとは別に、配偶者の不貞に気づいた直後に駆け込んでくる人は、パニック状態の方も多いですね。このタイプの依頼者は『とにかく事実を確認しなきゃ!』と混乱しているので、事実確認をすると同時に、その後の戦略も私たちが一緒に考えていきます」

 うつやパニック以外にも、ときに「ハイ」な状態に陥るケースもあるのだとか。

「不倫をされたのに落ち込むどころか、言動が活発になる人も時折、見受けられますね。深く傷ついているのは同じですが、夫や恋人に浮気をされて、地に落ちた自尊心を取り戻しているのだと思われます」(岡田さん)

 少し前には、不倫報道があった五輪水泳選手の妻が『アスリートを支える妻』として頻繁にテレビ番組に出演していましたが、それもひとつの“躁状態”だったのかもしれません。

「うつになるにせよ、ハイになるにせよ、不倫されたいわゆる“サレ妻”たちのメンタルのケアは欠かせません。今後の生活への不安、子どもとの接し方、心の傷などをひとりで対処するのは、かなりの難題です」

 ここからは、過去に岡田さんが立ち会った事例をご紹介します。

(※依頼者のプライバシー保護のため、実際の事例を一部変更、再構成しています)

夫の不倫が発覚し、自殺も考えるほどのうつ状態に

<今回の相談者の家族構成(すべて仮名)>
☆結婚20年目
恵子さん(48歳):主婦、週3回、雑貨店でパート勤務 ※相談者
隆さん(51歳):大手電機メーカーの営業職
娘 結愛(13歳):公立校に通う中学1年生

「不眠、耳鳴り……少し前には落ち込みがひどくて、一時は自殺も考えました。駆け込んだ心療内科ではうつと診断されてしまいました」

 そう明かすのは、横浜市内に暮らすパート主婦の恵子さん(仮名)です。リネン素材の卵色のシャツの首元からは、控えめでありながらもダイヤのネックレスが光っています。一見すると「裕福な家庭の奥さん」に見える彼女ですが、実は心の闇を抱えていました。

「ある日、寝室の掃除をしていたときのことです。ベッドサイドのテーブルに広げたままの夫の手帳を見つけたんです」

 なにげなく目にした手帳でしたが、それが地獄への始まりでした。

「そこには日々の業務の記録から、女性と会った日付、食事をした店名、さらにホテルに行った時間まで事細かに記されていたんです。先月、夫が広島に出張と言って出かけた日には、『箱根温泉』とまで書かれていました。浮気相手は、『R』とイニシャルだけしか記されていなかったので、どこの誰かはまったく見当もつきません。若いころから、読んだ本や鑑賞した映画を記していた夫らしいといえば、『らしい』のですが……」

 あまりのショックで寝込んでしまった恵子さん。ときには起き上がることもできず、パートも休みがちになってしまったといいます。

「私が寝込んでいた時期、夫の帰宅時間が徐々に遅くなりました。泥酔して帰ってくることも増えていきましたね。酔った勢いで『こんなババアと生活するなんて、俺の老後は真っ暗だ!』と暴言を吐かれたこともあります。娘も父親の様子に怯えるようになってしまいました」

大泣きしながら探偵事務所に連絡

 やがて夫の隆さんからは、次の「出張」の予定が告げられました。なんとか起き上がることができるようになった恵子さんは、藁にもすがる思いで探偵事務所を訪れたのです。

「何度も調査をするかどうか、気持ちは揺れました。『私が探偵に相談したことがバレたら、夫はどう思うだろう』『もし私の勘違いだったら……』と何度も逡巡して、その度に大泣きしながら探偵事務所に連絡してしまいました。でも真実を知りたいという気持ちが勝りましたね」

 前出の岡田さんは、語ります。

「『少しでも早く今のつらい状況から脱したい』と思ってしまうものですが、配偶者の不倫で傷ついている最中は正常な判断ができなくなるもの。恵子さんのように何度も揺れる相談者さんは少なくありません。

 私たちも、単に不貞の証拠を集めるたけでなく、自分は今後どうしたいのか、夫婦の問題は何なのか、カウンセリングをして、心の整理をしていくことをオススメしています。なにより弱っているときは、大きな決断はしないこと。とくに離婚となればその後の住まい、子どもの人生のこと、生活がしていけるかどうか……など自活のイメージもゆっくりシミュレーションしてみましょう」

 恵子さんも岡田さんのアドバイスにより、カウンセリングを受診。そこでこれまでの夫婦生活を振り返ったといいます。第三者に話すことで、夫のモラハラ気味な性格についても明らかになりました。

 そしていよいよ迎えた「出張」当日。

「夫から告げられた出張先は、大阪でした。横浜の自宅からは、あまりにも長距離でしたが、関東と関西それぞれの調査員の方が連携して尾行してくれたそうです。結果的に不倫相手の自宅まで割り出してくれましたね」

 不倫相手はなんと隆さんの学生時代の元カノ。数年前の同窓会で再会して再燃し、W不倫状態だったことがわかりました。

「調査結果を聞きに探偵事務所に伺ったのですが、ホテルから出てくる二人の映像を見たときには、『このままビルの屋上から飛び降りてしまおうかな』とすら考えてしまいましたね。しかしすぐさま『私には娘がいる。この子を残しては死ねない』と思いとどまりました」

別居して夫に「婚姻費用」を請求

 その後、不倫の証拠を夫に突きつけ、別居することを決めた恵子さん。以前は恵子さんに対して事あるごとに大声をあげていた夫も、このときばかりは平謝りだったと言います。一時は寝込むほどの精神的ダメージを受けた恵子さんですが、それでも離婚に踏み切ることはありませんでした。

「今は『婚費』をもらいながら、娘を連れて別居中です。といっても娘の学校もあるので、隣駅なのですが」

 婚費とは「婚姻費用」の略で、夫婦や未成年の子どもの生活費など、婚姻生活を維持するために必要な一切の費用のこと。夫婦の場合、「生活保持義務」があるので、離婚するまでは収入の高いほうから低いほうに、それまでと同じ程度の生活ができる生活費を渡さなければならない、という決まりがあるのです。

「私の場合、婚姻費用は18〜20万円ほど。長い目で見たら離婚をして慰謝料をもらうよりも、別居したほうが断然有利なんですよね。これも調査員やカウンセラーの方からアドバイスを受けてわかったことです。子どもが成人するまでは離婚はしません。うつ状態のまま感情にまかせて離婚を選択していたらどうなっていたか……今考えるとゾッとします」

 前出の岡田さんは語ります。

「結婚生活を続けるにも、離婚をするにも、言い逃れのできない証拠は“お守り”にもなるし、“武器”にもなります。不倫をされたショックはつらいものですが、一時的なものでもあります。すぐに決断せずに、第三者に相談しながら戦略を練るほうが、確実に有利な条件で進められます」

 ただでさえ、心理的なダメージの大きい配偶者の不倫。苦しく、落ち込んだときこそ、大きな決断は避ける。これも大人の知恵なのかもしれません。

《取材・文/アケミン》