井岡一翔は日本人初の4階級制覇を達成した【写真:Getty Images】

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井岡王座返り咲きで熱くなるスーパーフライ級世界戦線

 ボクシングのWBO世界スーパーフライ級2位・井岡一翔(Reason大貴)が、19日の同王座決定戦(千葉・幕張メッセ)で日本人初の4階級制覇の快挙を達成。同級1位アストン・パリクテ(フィリピン)に10回1分46秒TKO勝ちし、リング上で涙した。2年2か月ぶりの国内リングで世界王座に返り咲き、追われる立場に。同級の世界戦線が国内外で過熱していきそうだ。

 日本人初の偉業をリングサイドで見守った“挑戦者”たちがいる。一人は世界3階級王者のWBO世界フライ級王者・田中恒成(畑中)。現時点では井岡より1階級下だが、将来的には5階級制覇を目標に掲げている。

「パリクテの有利で進んでいたと思うけど、ワンチャンスをものにしたところがボクサーとしてすごい。7回にパリクテが仕掛けた後は、どちらに転ぶかわからない展開。KOするとは思わなかった。ボクサーとしてすごいです」

 試合後にこう語った田中。井岡の興行は同じTBS系列(田中は名古屋・CBCテレビ)で、日本人対決の実現も難しくはないだろう。田中はフライ級の世界タイトル獲得前、当時同級王者だった木村翔(青木)の防衛戦を生観戦し、対戦をアピールしていた。

 今回、井岡戦に足を運んだのも“思惑”があるはず。多くを語らなかったのは、まずは8月24日、同級1位ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との2度目の防衛戦(愛知・武田テバオーシャンアリーナ)をクリアする必要があるから。勝てば井岡戦の可能性はぐっと高まるだろう。

 元世界3階級王者・八重樫東(大橋)も井岡の王座獲得を見届けた。2人は、2012年6月にWBA・WBC世界ミニマム級王座統一戦で拳を交えたことがある。結果は八重樫の12回判定負け。キャリア終盤にいる36歳の「激闘王」は、念願の世界王座返り咲きの機会を待っている。

 試合後は「元々の井岡君のスタイルで、決める時はしっかり決めていた」と分析。「自分だったら、こう戦うなと思って見ていました。戦いたいですね」。世界戦は、17年5月のIBFライトフライ級王座陥落から遠ざかるなか、井岡のベルトを虎視眈々と狙っている。

 しかし、渦中の井岡が向く先は異なるようだ。試合後の会見では「死に物狂いでこのタイトルを取ったので、このWBOのベルトをチケットにして、海外のチャンピオンと戦いたい」と統一戦を熱望した。

井上尚弥の保持したベルト、井岡は2階級王者・エストラーダを希望

 以前から掲げる夢は、海外でのビッグマッチ。現在、スーパーフライ級の世界王座には、WBAにカリ・ヤファイ(英国)、WBCにファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、IBFにジェルウィン・アンカハス(フィリピン)が君臨する。「強いて言えばエストラーダ選手ですかね。ずっと近いところ(階級)にいるし、世界的にも評価が高いし、メキシコで人気だし、米国でも人気だし」

 今後戦いたい他団体王者を問われた井岡は、2階級制覇した強敵を挙げた。長く王者にいたシーサケット・ソー・ルンビサイ(タイ)を4月に下して王座奪取。フライ級時代は井岡との対戦の可能性もあり、ファンが空想したカードでもある。

 そもそも、井岡が奪ったWBOスーパーフライ級のチャンピオンベルトは、WBA・IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)が14年12月に奪取し、昨年3月に返上したもの。いまや、世界を席巻するモンスター。井岡が17年末に引退宣言し、18年9月に米国で復帰、大晦日に4階級制覇挑戦に失敗する間に、井上は世界中の注目の的となるほど高みに上り詰めた。ボクシング界を牽引する後輩王者について、井岡は敬意を払う。

「何も思わないことはないけど、僕も現役ですし、彼を評価することは失礼だと思いますし、彼は彼で偉大なことをやってるし。でも、何も感じないと言えばそれは嘘になるし。もちろんリスペクトもあるし、でも僕はそこに気を留めずに、自分のやることをやっていこうという気持ちです」

 19日のリングサイドには、元WBC世界フライ級王者・比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)も姿を見せていた。昨年4月のV2戦で体重超過を犯し、日本ボクシングコミッション(JBC)から無期限資格停止処分を受けている。だが、同じ過ちを犯さない環境が整えば、JBCは処分解除の方針を持つ。復帰する場合は1階級以上の転級を条件にしている。

 現役王者ではないが、元世界4階級王者ローマン・ゴンサレス(帝拳、ニカラグア)の存在も忘れてはならない。誰が相手になるにせよ、かつて瞬間最高20%前後をマークした“視聴率男”が国内にチャンピオンベルトを持ち帰ったのは、日本ボクシング界にとって大きな意味を持つ。井岡の復活でスーパーフライ級戦線はどう動いていくのか――。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平/ Yohei Hamada)