世界を狙う日立、見切り上手の三菱電機。がん治療装置の損得
「IBAの背中が見える。いずれ抜くことも可能」
「これからは世界。展開するためには集結した方がいい」―。日立製作所の渡部真也執行役常務ヘルスケアビジネスユニットCEOは、三菱電機の粒子線治療装置事業の買収の狙いをこう言い切る。
買収の背景にあるのは粒子線治療の広がりだ。世界の粒子線治療市場は年率約10%で増加している。世界で約70施設が稼働しており、今後も年10―20施設の新設が見込まれている。欧米に加えて、今後は中国、アジア市場でも2ケタ近い成長が期待されている。この需要の取り込みには営業や開発などの経営資源がカギだ。
日立は世界14施設で粒子線治療装置の受注実績を持つ。がん治療で著名な米MDアンダーソンがんセンター(テキサス州)など北米の主要の医療機関で稼働しており、アジアでも香港養和病院、シンガポール国立がんセンターなどで受注している。またIBAの牙城である欧州でも受注を獲得した。世界で販路を広げているが、経営資源は逼迫(ひっぱく)する状況にある。
そんな中で三菱電機が最適な相手に浮かび上がった格好。粒子線治療装置の分野は専門的で深い技術的な知見が求められる。専門人材が限られる中で、三菱電機の粒子線治療装置事業に関わる約100人の人材は魅力だ。「三菱の人材は即戦力」(中村チーフエグゼクティブ)となる。
日立の同事業の人材は約200人。今後、買収で日立に移管する人員規模を詰める予定だが、開発や設計など技術部門を中心に数十人規模が三菱電機の電力システム製作所(神戸市兵庫区)から日立の日立事業所(茨城県日立市)に移る見通し。日立としては組織の大幅な増強となる。
三菱電機は国内の粒子線治療施設17施設のうち、9施設に装置を納入する国内シェアトップ企業だ。にも関わらず事業売却で同事業から撤退することになるが、その背景には、国内市場の頭打ちがある。
粒子線治療のうち、陽子線治療は小児がん、重粒子線治療は骨軟部腫瘍とそれぞれ保険適用されている。今後の保険の適応拡大で市場拡大が期待されるものの、治療施設数が世界最多と海外に先行する日本では、今後は大幅な新設計画は望めそうもない。
三菱電機も国内で培った技術・製品をベースに海外の医療機関などと連携しながら、営業活動を進めてきた。だが、三菱電機には海外で受注がない上、国内市場は頭打ちで、事業展開に限界があった。
特に粒子線治療は最先端の技術を維持するために、多くの経営資源が必要となる。国内市場で首位でも、約100人の陣容を維持することは難しく、事業拡大には海外展開は必須。一方の日立は粒子線治療装置事業で、世界年10―20施設の新設案件のうち、3―4割の案件獲得を目標に掲げている。
トータルソリューションでなければ…
日立がヘルスケアを事業の柱に位置付けていることも大きい。粒子線治療は装置単体だけでなく、がんの診断、治療計画の立案、治療後のケアといった一連の工程が重要になる。トータルソリューションでなければ、医療現場のニーズに応えられないのが実情だ。
