RM Sotheby's

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2016年に登場した991型ポルシェ911Rは、発表と同時に世界中のポルシェ愛好家たちを熱狂させた。生産台数はわずか991台。GT3 RSと同じ500psを発生する4.0L水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載しながら、組み合わされるトランスミッションは6速マニュアルのみという、異色の仕様であった。しかし、911Rの魅力は、限定生産や希少性だけでは語れない。このモデルが特別であるのは、当時のポルシェGTモデルとは一線を画す価値観を提示したことにある。

【画像】軽く、速く、意のままに操れる6MT搭載の2016年ポルシェ911Rと、その由来となった1967年ポルシェ911R(写真36点)

”R”の名は、”Racing”を意味し、1967年にわずか19台のみ製作された初代911Rに由来する。当時のポルシェは、GTレースでライバルを凌駕するため、パワーウエイトレシオを追求し、徹底した軽量化を施した競技用911の開発に着手した。FRP製のボンネットやドア、薄肉ガラスや樹脂製ウインドウを採用し、灰皿や助手席用サンバイザーといった装備まで取り外す徹底ぶりで、標準の911Sから230kg程軽い車重約800kgを実現した。まさに、不要なものはすべて削ぎ落とす、という思想を体現したモデルだった。210psの水平対向6気筒エンジンと組み合わされ、当時のGTカーとしては驚異的なパフォーマンスを発揮した。

少量生産ゆえGTカテゴリーのホモロゲーション取得は叶わなかったものの、ムジェロでは総合3位、ニュルブルクリンク84時間耐久レースでは総合優勝を飾るなど、数々のレースで結果を残した。こうした思想は、後のRSやGT3へと受け継がれ、ポルシェGTモデルの原点となった。そして2016年の911Rは、その名を単に復活させたのではなく、”軽さ”と”操る歓び”という初代の思想を現代の技術で再解釈し、公道で味わうドライビングプレジャーを追求した911として誕生したのである。

ベースとなったのは、サーキット最速を追求した911 GT3RSである。ところが911Rでは、その象徴ともいえる固定式リアウイングを取り払い、通常の911と同様の可動式リアスポイラーを採用した。ロールケージも装着せずに、外観は驚くほど端正なものとなった。

この仕様変更は、決してコストや実用性だけを意識したものではない(もちろん実用性が大幅に改善していることは魅力的である)。GT3 RSがサーキットでコンマ1秒でも速いラップタイムを追い求めたモデルであるのに対し、911Rは一般道を走る楽しさを最優先に再構築された911だった。サーキットで絶大な効果を発揮するダウンフォースよりも、軽快な身のこなしや自然なハンドリング、そしてドライバーと車が対話する感覚を重視したのである。

その思想を象徴するのが6速マニュアルトランスミッションだった。当時の911GTモデルはPDK化が進み、高性能化と引き換えにマニュアル仕様は姿を消していた。そうした状況のなか、”自ら操作する楽しさ”を求めるファンの声に応える形で誕生した911Rは、デジタル時代に現れた”アナログ・ポルシェ”として高く評価された。事実、このモデルの成功が、その後の991.2型GT3にマニュアルトランスミッションが復活するきっかけになったとも言われている。

今回RMサザビーズに出品された個体は、その911Rの中でも興味深い履歴を持つ一台である。フィンランドへ割り当てられたわずか5台のうちの1台として新車登録され、その後2020年初頭に日本へ輸入された。現オーナーが取得したのは2023年で、現在までの走行距離はわずか4100kmである。2024年10月にはポルシェセンター浜田山でエンジンオイル、ブレーキフルード交換のほか、リアウインドウやエンジンリッドのガスストラット交換などの整備もされており、コンディションの高さがうかがえる。